25 / 37
24.エピローグ
しおりを挟むその日、新しい国に、新しい王が誕生した。
元は歴史ある王国であったが、数十年の間に、治世が乱れ、他国の信頼も地に落ちてしまっていた。
普通ならば、他国からの圧力や侵略などが起きていてもおかしくはなかったし、その前に、国内でクーデターが起こっていても不思議ではなかった。
それが起きなかったのは、偏に、帝国の存在が指摘されるだろう。
他国から『異常な国』として白い眼を向けられ、外交をもってしても信頼回復が出来ず、国同士の交流さえまともに出来ずにいた王国の後ろ盾になっていたからだ。
帝国は大陸の中でも指折りの大国であった。
歴史も古く、豊かな帝国はなによりも『武』に秀でていた。
力ある者の責務として、弱く儚い者を庇護する精神が、帝国の皇族にはあった。
なにより、王国には帝国の姫君が嫁いでもいたのである。
既に姫君は亡くなっていたものの、直系の姫君がいた。
帝国と王国の血を併せ持つ高貴な姫君は、容貌だけでなく、才能豊かで、心映えも素晴らしく、いずれは王国の王妃になられる方だと、世間では疑いなく信じていた。
姫君の夫になられる方は、王国の王太子殿下であった。
身分としては申し分なかったが、姫君に比べると、血筋も才も今一つパッとしない人物であったが、姫君が王太子を幼少から補佐していた事もあり、いずれは似合いの夫婦になるであろうと、考えられていたのである。
しかし、そうはならなかった。
王太子は一方的に姫君との婚約を破棄するお触れをだし、姫君を『罪人』として捕えようとしたのである。
逃げられない事を悟っていた姫君は、自らの潔白を証明するために毒を呷られた。
幸いにも、一命を止めることができたのは奇跡といえよう。
何故、王太子がそのような愚かな事をしたのか。
理由は、一人の女の存在であった。
王太子は、身分卑しい悪女に騙されてしまった事が原因だったのだ。
その悪女に騙されたのは王太子だけではなかった。
王国の重鎮である貴族子弟の殆どが、悪女の誘惑に嵌っていた。
悪女は実に巧妙である。
子弟たちのコンプレックスを刺激し、初心な男心をいいように操ったのだから。
しかも狙い処は確かである。
悪女が誘惑したのは、未来ある貴族たちばかりなのだ。
まさに稀代の悪女である。
姫君の命を賭けた行動がなければ、悪女とその仲間たちが王国を乗っ取っていたのだ。
これほど恐ろしい事は無い。
悪女の背後関係は今をもってしても詳しく分かっていないが、悪女の実家は黒い噂が絶えない貴族であったそうだ。
当然、その貴族は取り潰されたが、話はそれだけで終わらなかった。貴族は他国との交流が盛んであった。真の黒幕がどこかの国の誰か、ということも十分考えられる。
本来なら、関係者全員が公開処刑されているはずであったが、最大の被害者である姫君が、彼らの命を惜しんだ。
「命は一つだけです。
それ故に大切にしなければなりません。
私は彼らを憎んではおりません。彼女も、彼女に導かれた者達も、まだ若いのです。たった一度の過ちで命を落とされる必要性を私は感じません。私に対する罰だと仰るのなら、どうか、彼らの命をお取りにならないでください。
私はそのような事は望んでいないのです。
どうしても贖罪が必要だと仰るのなら、私と彼らが二度と会うことなく、彼らの能力に見合った場所で活躍していただけることを望みますわ」
心清らかな姫君は、自身を罠に嵌め殺そうとした者たちを許した。
姫君は後に、帝国から婿を迎え、実家を盛り立ててゆく。
その姫君の息子が、新たな国の、新たな王になった。
人々は、そのことに喜び勇んで祝福したという。
新たな国の名前は『ヘッセン公国』。
その首都の名前は、姫君の名前にちなんで『アレクサンドラ』と呼ばれる事になった。
それが教科書にも載る真実である。
ただ、『ヘッセン公国』になった数年後に、何故か元王国貴族の名前が貴族名簿から大量に消えた。
実力主義の帝国式である『ヘッセン公国』の政治方式についていけなかったとも、時世を読むことができなかったからとも言われているが、真偽は不明である。
何時の時代も、歴史は勝者が決めるもの。
そこに幾つもの事実はあれど『真実』としての光は当たらない。
歴史の闇に飲み込まれたものに光が当たるのは何時になることか。
少なくとも、百年の時は必要である。
1,656
あなたにおすすめの小説
【完結】高嶺の花がいなくなった日。
紺
恋愛
侯爵令嬢ルノア=ダリッジは誰もが認める高嶺の花。
清く、正しく、美しくーーそんな彼女がある日忽然と姿を消した。
婚約者である王太子、友人の子爵令嬢、教師や使用人たちは彼女の失踪を機に大きく人生が変わることとなった。
※ざまぁ展開多め、後半に恋愛要素あり。
悪役令嬢は手加減無しに復讐する
田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。
理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。
婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
あなたなんて大嫌い
みおな
恋愛
私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。
そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。
そうですか。
私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。
私はあなたのお財布ではありません。
あなたなんて大嫌い。
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜
みおな
恋愛
王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。
「お前との婚約を破棄する!!」
私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。
だって、私は何ひとつ困らない。
困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる