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第一章
7.巽淑妃(美娘)side
しおりを挟む継母に釘を指しておいた後は、杏樹の縁談話は私とお父様で進めさせて貰っているわ。進めているといっても杏樹の気持ち次第。お父様は「杏樹が好きになった相手なら」と文に書いてくださっていたけれど、杏樹は恋愛とは程遠い子ですもの。自然に任せているだけでは嫁き遅れてしまうわ。
手始めに名家の将来有望な若君との見合いをさせてみようと事前調査を開始したのはいいのだけれど……。
「柳家の方はどうでしたか?」
「はい。柳家の御子息は現在二十九歳の御長男がいらっしゃいます。正室はいまだ娶られていませんが、数人の側室と庶子がいらっしゃいます」
「少し年が離れているわね。それに……殿方が妾を持つのは当たり前とはいえ、嫁ぎ先に既に妾と庶子がいる処は論外だわ。杏樹が苦労するのは目に見えるもの。張家の嫡男はどうかしら?」
「はい。御年二十二歳、国家試験では上位十位内に入る程の秀才でございます。人柄も穏やかだと言われています。ご本人に問題は見受けられませんでした。ただ……」
「ただ?」
「張家はここ数年財政難に陥っているようです。また、当主の弟も浪費家で、金使いが荒いとの噂が……」
「まぁ……!」
「更に申し上げますと、当主の次男の素行にも問題があるとか……。これはあくまで噂ですが、女性関係の派手な御仁だと聞いております。後宮の方々からも評判は良くありません」
「そう……それは困ったわね……李家はどうかしら?確か杏樹と近しい年頃の男子がいた筈なのだけれど」
「はい。李家の御子息で十九歳の若君がおいでになります。大変優秀な青年だとか。ただ……」
「あら?何か問題でもあるの?」
「いえ、特に問題という程のものではないのですが……どうやら市井の女人と恋仲らしく……婚姻の約束をされていらっしゃるようです。もっとも、本人達の口約束なので正式には婚約関係ではないと伺っておりますが……」
「なんですって!?そんな男に嫁いだら杏樹が不幸になってしまうわ!最悪、杏樹をお飾りの妻にしようと考えるかもしれない!白い結婚を敷いた挙句に「石女」扱い。その庶民の恋人に子でも出来ようものなら杏樹はますます蔑ろにされてしまうに違いないわ!!」
「しゅ、淑妃様!落ち着いてくださいませ!あくまでも噂ですから!!」
「……っ!……そうよね。少し取り乱してしまったわ」
「はい。淑妃様が御心配になられるお気持ちはよく分かります。ここは慎重に事を進めるべきかと」
実家から連れてきた侍女頭の夏葉に諭され、落ち着きを取り戻した。私とした事が、冷静さを失ってしまうなんて失態だわ。
しかし、杏樹を不幸にさせる訳にはいかない。杏樹は私にとって大切な家族なんだから。
「分かったわ。それならば他の候補を引き続き調べて頂戴」
「かしこまりました」
私は夏葉を下がらせると深い溜息を吐いた。まさかこんな事態になるなんて予想外だったわ。まさか、ここまで問題だらけの御子息ばかりだったとは……。このまま縁談を進めても、杏樹を幸せにできるとは思えない。寧ろ不幸な結果にしかならないわ。
ここは少し家格は劣っていても優秀で杏樹を大切にしてくれる殿方を探さなければならないわね。そうなると必然的に限られてしまうけれど仕方がないわね。
「はぁ……一体誰ならいいのかしら」
私はまた一つ大きな溜息を吐いてしまった。
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