後宮の右筆妃

つくも茄子

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第一章

67.記録作成 その三

【郭丞相の孫、郭 蘭児入内。正三品の「婕妤」を賜る。都でも評判に美貌故に皇帝の寵愛を得ると誰もが思った。しかし、その美貌を持ってしても何故かお渡りがなかった。郭婕妤は美貌もさることながら気性が大変激しく他の妃との諍いが絶えなかったせいではないかとも噂されたが、真偽は不明のままであった。他の妃との折り合いが悪い仲でも郭婕妤は、郭貴妃の姪という立場故に後宮内でも地位以上の立場にあり、皆が彼女に大層気遣ったというから相当なものだったのだろう。郭貴妃が主催する千秋節の最中に郭婕妤は毒によって暗殺されてしまう。犯人は元宝林。本来の暗殺の目的は巽才人であり、侍女を使って巽才人の膳に毒酒を置いたものの、郭婕妤が誤って飲み干してしまった。後に元宝林は死を賜った。元宝林には皇子が一人おり、残された皇子は「養護殿」にて養育されることが決定した。また、皇帝の誕生を祝う宴である「千秋節」を「天長節」にと変更する。名づけは巽才人であったが、名前の変更を命じたのは皇帝その人であった――】

 陛下が妙な事を言い出したせいで、何故か、私が名付けることになってしまったのよね。適当な理由で適当に付けたものが採用されるなんて……後世の人達が知ったら驚くんじゃないかしら?
 それにしても、何故か最近、朝儀の最中に圧を感じるようになったのよね。何故かしら?


【後宮が落ち着きはじめた頃、ひとつの喜ばしい報告があった。なんと巽淑妃がご懐妊されたのである。この吉報はすぐさま国中に知れ渡るところとなった。当代の後宮は数多の皇子、皇女がいたものの正式な世継ぎ皇太子がおらず、後宮内の妃の争いは水面下では激化しており、それは表の政治の世界にも無視できない影響を及ぼしていた。巽家より入内してきた淑妃は、容姿の美しのみならず教養深く秩序を重んじる人柄は内外から高く評価されてきた。しかも、彼女は八州公の姫。もしも、生まれる子供が男児であれば皇太子位に就くのではないかと噂されている。
 八州公の姫君が皇帝の子供を身籠るのはおよそ三百年ぶりのことであるが故に――】


 事件のゴタゴタが収まったと思ったら、姉上の懐妊が発覚して、後宮中が大騒ぎになった。
 侍医から聞いた時は侍女が数名ほど倒れてしまったもの。まさか、あの宴の最中に既に懐妊していたなんて……まったく気付かなかった。不覚だわ。夏葉も青ざめていたのだから相当よ。

 なのに、姉上ときたら――


「あらあら、巽家の血を引く御子なのよ。そんなに軟ではないわ。皆、心配性ね」

 いつものように鈴の音のような声で笑っていたのだから……母は強しと言うべきか、姉上が強いと言うべきか判断に困ったわ。
 何はともあれ、嫌な事件の後の吉報は後宮にも朝廷にも喜ばしいことに違いない。


 こうして、この事件は終わりを迎えた。


 


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