後宮の右筆妃

つくも茄子

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第二章

79.記録作成 その五

炎永国かえいこくには八つの州が存在しており、古今東西に分けて各州公が統治していた。

 北にこん家、北東にしん家、東に家、南東に家、南にけん家、南西にそん家、西にかん家、北西にごん家。

 現王朝であるしん家が八州公に数えられている事を他国は不思議に思うものだが、これには訳があった。それと言うのも、八州公は元々前王朝に仕えていたからである。

 前王朝の最後の皇帝は愚王とある。

 華美を好み享楽にふけり、政を疎かにした。廃止されていた残酷非道な刑罰を復活させ、謀反を企てた者を九族に至るまで族滅させたとされる。

 その悪政を正すために立ち上がり、前王朝を滅ぼしたのがしん州公であった。

 しん州公は自らの領地であるしん州の華陽に都をおいた。
 
 前王朝の都はしん州公によってことごとく滅ぼされたせいとなっているが、明らかな理由は不明である。ただ、中央都市として栄えた前王朝の都は一夜にして湖の底に沈んでしまった。

 天に選ばれた「帝」を誅したせいだと言う噂が大陸を駆け巡り、そのせいかしん州公は新たな王朝を築いても他の州公から忠誠を誓われることはなかった。むしろ他の諸侯を牽制する為なのか、自らの正当性を証明せんとするように前王朝の痕跡を消し去ることに躍起になった。それは些か過剰とも言えるほどで、公式な文献に王朝の名前処か代々の皇帝の名前すら消し去る程であった。しかし、それ程までにしてまでも前王朝を否定する事に執着するのは何故なのか。また、何故それほどまでに執拗に旧王朝の残照を否定しようとするのか。その理由を知る者は誰もおらず、当時の資料からも分かる事はなかった――

 最終的にはしん州公が王朝を開くことに同意した他の七家だったが、その条件はあまりにも現王朝にとって不利なものであった。

 七家はいざとなれば独立できる地位と権力を有している。
 それは、いかに皇帝と言えども無視できないものであった。と、言うのも八州公が帝都に赴くのは代替わりの時くらいであり、それ以外は全くと言ってよりほど不干渉を貫いていたからである。皇帝の子供が誕生してもそれが皇后腹でなけれ決して祝い品を贈る事がないほどの無関心ぶりであった――。


 その八州公の二つ、北のこん家と西のかん家が同時期に当主が代わった。二家の当主交代は驚きと共に国中に広まっていった。

 通常ならば、いくら八州公とはいえどもそこまで民衆に噂される事はない。朝廷に代替わりの報告をし、各州公を招いて宴を催すくらいであった。

 ただの当主交代なら特に問題にはならなかっただろう。
 この度、新しくこん家の当主となったのは、まだ十八歳になったばかりの双子の男児だったのだ。

 双子は凶兆の証。

 本来なら、双子のうち一人を始末してしまうもの。
 それを生かし、当主に据えるなど前代未聞であった。

 そして、かん家の新当主。

 これもまた世間の度肝を抜かした。

 新しい当主は四十歳の女性。
 
 そう、女当主の誕生である――



 この異常な当主交代に皇帝は朝儀にて説明を求めたのであった】

 
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