【完結】政略結婚だからこそ、婚約者を大切にするのは当然でしょう?

つくも茄子

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1.初合わせ

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 貴族の結婚は政略だ。
 領地を守るため、引いては領民の生活を守るために自分達は存在する。
 
 俺、アルスラーン・セルジュークの婚約が決まったのは十六歳の頃。
 相手は、隣接するハルト伯爵家の令嬢。
 ミントグリーンの髪にオレンジの瞳、華奢で小柄な少女。
 名前は、ソフィア・ハルト。

「ソフィア・ハルトと申します」
「アルスラーン・セルジュークだ」
「どうぞ、よろしくお願い致します」
「こちらこそ」

 彼女は、俺より三歳下の十三歳。
 パステルカラーを基調としたドレスは可愛らしい容貌の彼女によく似合っていた。
 カーテシーも見事で、所作やマナーに不足はない。
 貴族の娘としての教育はきちんと受けているようだ。
 少女らしい愛らしさと初々しい姿は素直に可愛いと思う。
 それでもここまで完璧な演出をされては、誰の案だ?と思わずにはいられない。
 初めての顔合わせ。
 義務と責任を果たしに来ました、と言わんばかりの表情が気になる。
 それからの彼女との会話は、退屈でしかなかった。

「ソフィア嬢、せっかくだ。庭でも歩こうか」
「はい」

 俺は、彼女の手を取りエスコートする。
 婚約者なのだから、これくらいは当たり前だ。
 ただ一瞬、彼女の顔が強ばった。
 俺はそれに気付かないフリをする。

 季節は春。
 庭園は色鮮やかに咲き誇り、花の甘い香りが漂っている。
 俺の屋敷の庭は、名庭園として名高い。春の庭は、特に見応えがあった。

「ソフィア嬢は、花はお好きか?」
「はい。花は好きです」
「それはよかった。我が家の庭はちょうど今が見頃だ」
「はい。本当に素晴らしいですね」

 ソフィア嬢は、控えめに微笑む。
 その笑みは、どこかぎこちない。
 俺は、彼女の手を引きながら庭を案内する。
 散歩をしながら会話を続けるのだが、どうもおかしい。
 彼女は、一つ一つの質問に丁寧に答えてくれた。
 しかし会話のキャッチボールが続かない。
 俺が質問して彼女が答えるだけ。

「ソフィア嬢」
「はい」
「何か、俺に聞きたいことはないか?」
「……いえ」
「そうか……」
「……」
「……」

 彼女の表情や反応から、俺への興味や関心がまったく感じられない。
 まぁ、初対面の相手に関心を持て、というほうが無理なのかもしれない。見た目で人を判断してはいけないが、どうやらソフィア嬢は見た目通りに幼いのかもしれない。まだ十三歳だ。取り繕うことができないのだろう。

 これは典型的な政略結婚だ。
 お互いに鉱山で潤っている領地だが、それがある意味問題でもあった。金鉱山がちょうど互いの領地のど真ん中にあり、その所有権を巡って長年争いが起きていた。
 祖父の代で共同管理という形に落ち着いたが、それは爺さん同士が仲の良い友人だったからできたことだ。
 仮初の平和だ――と、二人の爺さん以外は思っていた。
 案の定、二人の爺さんが亡くなると揉めた。それはもう盛大に揉めた。
 だが、今まで表面上とはいえ平和だったのだ。
 領民同士の交流だって増えてる。今更、数十年前のように没交渉とはいかない。それをやれば互いにリスクが大きすぎた。

 親世代が「この機会に、友好とまではいかなくても、せめて交流は積極的にするべきだ」と主張するのもわかる。
 打算と妥協の結果が俺達の婚約だ。

 ぎこちないながらも、見合いは滞りなく終わった。

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