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全てを捨てて愛に生きた夫婦のその後
報告出来ない事実
しおりを挟む王都の石造りの町並みを、アーサーとアンヌは歩いていた。病院からの帰りである。コレットの見舞いに行っていたのだ。見舞いと言っても、コレット自身に会える訳ではない。
ただ、医師の判断でガラス越しならコレットの状態を見ることが出来た。
(たとえ直に会う事は出来なくてもいい。見守る形でもいいんだ!
不必要な物を売り払った金額で、コレットに最新治療が受けられる病院に移すことができた。ここなら時間はかかるが、回復する希望はもてる!
それに、実験段階的な治療や薬を扱っているせいか、本来かかる費用の三分の一の金額で済んでいることも幸いだった)
薬物依存症や心の病を専門に扱う病院で、伝手が無ければ受け入れられない事で有名であった。だが、コレットの前の主治医が、アーサーの熱意に押される形で紹介状を書いてくれたのが功を奏したのだ。
(一時は錯乱状態が酷かったが…今は大分落ち着いている。日がな一日、椅子に座って外を眺めることが多くなったのも、新しい薬が効いているとのこと…。今はこれでいい)
アーサーがガラス越しに見たコレットの姿。
コレットのうつろな目は何も映してはいなかった。医師や看護師が話しかけても返事はない。偶に、声のする方に顔を向ける程度だ。まさに、生ける屍のような状態である。
それでも、治療を辞めるつもりはアーサーには無かった。
いつの日にか、元のコレットになると信じて。正気に戻ってくれることを信じて。
それが、コレットにとって、どれだけ残酷な事であるかをアーサーは知らない。
アーサーが自分と妻の実家のことを調べるのに依頼した探偵は、確かな筋の者で、その界隈では有名な私立探偵だった。元警官であり、調査の腕も一級。何より、人情家でもあった。コレットの調査報告には書かれていないことが実は多い。相手が、身内という事もあり、公に出来る範囲の報告しかしていなかった。
それだけ、ローリー男爵家は貴族社会ではタブーの存在と化していた上に、次女と四女の末路が壮絶過ぎた。知りすぎる事はよくない。全てを知った依頼主が、どういう行動を取るかも探偵は不安であったのだ。普通の探偵ならそんなことは考えず、ありのままを伝えるだろう。だが、アーサーが依頼した探偵は、元警官である。依頼主の安否を心配しての配慮であった。
元警官ですら、闇深いとしか言いようがなかったのだ。調査報告書に記載されていない事は、アーサーにとっては存在しないものである。
真実をしれば、コレットを正気に戻してやろうとは決してしなかっただろう。
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