後宮の系譜

つくも茄子

文字の大きさ
33 / 64

33.皇子誕生~二条邸の宴~

しおりを挟む
 二条邸は、皇子誕生の宴で賑わっていた。

 多くの人が祝賀の文と貢物を持参した。
 口々に祝いの言葉を述べていく。

(現金な者達だ。三年前なら決してこの屋敷に近づこうとはしなかったものを……)

 殿上人たちの変わり身の早さに時次は些か苦笑を漏らす。だが、それほどに皇子の誕生は、政に影響する大事なことだった。

蓮子れんしは尚侍とはいえ、宣旨せんじさえあれば女御にもなれる身分だ。祝いに来ている連中はそうなると踏んでいるに違いない。それに……)

 時次は、チラリと客の相手をしている父を横目で見る。

「この度の慶事、誠に目出度く存じます」
「これはこれは。有り難く存ずる」

 父・右大臣は、客人の挨拶に鷹揚に応えている。
 客が祝いの言葉を口にするたび、笑みを深めていた。

(上機嫌だ)

 これほど機嫌のいい父親を見たのは何年振りか、と時次は思う。
 いや、二条邸に居る時はだけは別だ。
 笑みにも種類があると知ったのはいつのことだったか。
 器用な使い分けをする父に感心してしまう。
 いや、使い分けではないか。無意識なのかもしれない。

 時次は蓮子れんしの傍に付いている養母――茶仙局ちゃせんのつぼね――を思い浮かべた。

(父上は養母上に弱いからな)

 時次は、父が養母には頭が上がらないことを知っている。
 惚れた弱み、というやつだ。

「右大臣さま、この度は誠におめでとうございます」
「この度の皇子ご誕生、誠におめでたく……」
「いや、めでたい。実にめでたい。お目出度い」
「まこと、おめでたいことで。男御子おとこみこであられるとか」
「これ以上の慶事はありますまい。いや、まことに目出度いことで」

 次々と祝いの言葉が掛けられ、右大臣は上機嫌に頷く。
 その笑顔に時次は嫌な予感を覚えた。
 父のこの笑顔を見たのはいつ以来か。
 優し気な……。
 養母に見せる笑みとは違ったタイプに笑み。
 今までにない不気味な笑みだ。

(何を企んでいるんだ、父上……)

 時次は父を訝しげに見詰める。
 右大臣が何を考えているのか、時次にも分からない。
 ただ、父が何かを企んでいることは分かる。
 それが何かも分からないのが不安だった。

蓮子れんしの不利になることはしないと思うが……)

 時次が憂慮する中、祝いの客は絶えることがなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛される日は来ないので

豆狸
恋愛
だけど体調を崩して寝込んだ途端、女主人の部屋から物置部屋へ移され、満足に食事ももらえずに死んでいったとき、私は悟ったのです。 ──なにをどんなに頑張ろうと、私がラミレス様に愛される日は来ないのだと。

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

こちらからお断りです

仏白目
恋愛
我が家は借金だらけの子爵家 ある日侯爵家から秘密裏に契約結婚が持ちかけられた、嫡男との結婚 受けて貰えるなら子爵家を支援するが?という話 子爵家には年頃の娘が3人いる 貧乏子爵家に縁を求めてくる者はなく、まだ誰も婚約者はいない、侯爵家はその中の一番若い末娘を求めていた、 両親はその話に飛びついた,これで自分たちの暮らしも楽になる、何も無い子爵家だったが娘がこんな時に役に立ってくれるなんて,と大喜び 送り出され娘はドナドナな気分である 「一体何をされるんだろう・・・」 *作者ご都合主義の世界観でのフィクションです。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

あなたの仰ってる事は全くわかりません

しげむろ ゆうき
恋愛
 ある日、婚約者と友人が抱擁してキスをしていた。  しかも、私の父親の仕事場から見えるところでだ。  だから、あっという間に婚約解消になったが、婚約者はなぜか私がまだ婚約者を好きだと思い込んでいるらしく迫ってくる……。 全三話

処理中です...