結婚の条件

凛子

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 インターホンを鳴らすと、明日香がパタパタとスリッパを鳴らして玄関に近付いてくるのが分かった。
 扉が開くと何が起こるのか想像出来た貴也は、ひとまず花束だけ足元に置いて身構えた。
 カチッと鍵が開く音がして、ドアから顔を覗かせた明日香が、満面の笑みを浮かべて貴也に飛び付いた。

「お……っと」

 貴也は明日香を受け止め、そのまま強く抱き締めた。

「貴也君、おかえり。何でこんなに早いの?」
「ただいま。今日は仕事早く切り上げてきた。明日香を驚かそうと思って黙ってたんだ」
「もうっ、びっくりしちゃったー!」

 この笑顔を見るだけで、仕事の疲れなど吹き飛んでしまう。
 更に花束を渡すと、明日香は見開いた瞳を潤ませた。

 最高のリアクションに、貴也は堪らず明日香をもう一度強く抱き締めて優しく口付けた。

 買ってきたワインとチーズを手渡し、明日香に促されてテーブルに着いた。
 記念日とあってか、テーブルに並ぶ料理は、いつにもまして豪華だった。

「今日は頑張っちゃった」

 明日香がはにかんだように微笑む。

「こんな日だから外食にしよう」と提案した貴也に、「こんな日だから二人きりで家で過ごしたい」と明日香は言った。

 今日の為にわざわざ有給休暇を取ったと言っていた明日香は、恐らく早くから準備して待ってくれていたのだろう。そんな健気な彼女のことを思うと、自分は何て幸せな男なのだろう、と貴也は幸せを噛み締めた。

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