愛のかたち

凛子

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「いい話聞かせてもらいましたね」
「そうですね。心がほっこり温かくなりました」

 柔和な表情を浮かべながら言った野上に、二十年後の自分と翔を想像しながら彩華は笑みを返した。

「何だよお前、さっきからうらやましそうな顔ばっかして。俺じゃ不満なのかよ」

 翔がしかめ面を向けている。

「白藤さん、そこは素直に『俺たちもあんなふうになれたらいいな』で、いいんじゃないですか? そんなことばっかり言ってたら、そのうち奥さんに愛想つかされますよ」

 野上が冗談めかしながら笑った。

「そんなことねぇよ。こいつは俺がいねぇと駄目だから」

 癪に障ったのか、勝ち気な性格の翔は語気を荒げてそう返した。

「そう思ってるのは白藤さんだけかもしれないですよ。奥さんくらいの女性なら、いくらでも貰い手が名乗りを上げますよ。……例えば俺とかね」

 今度は笑いのない表情で、翔を挑発するようなことを言った野上に、彩華は困惑していた。

「構わないよ」

 と返した翔の目が嗤っていた。

「は? ちょっと翔ちゃん……」

 勿論冗談なのはわかっているが……


「こいつの料理の腕は確かだ。あと、そっちのほう●●●●●●もなかなかいい仕事するよ」

 翔がヘラヘラと笑いながら野上にそう言った時だった――

 ガガッと椅子の脚が床を擦る音をたててから、床を打ち付ける鈍い音と共に手元のグラスが倒れ、野上が勢いよく翔に詰め寄った。

 場の空気は一変した。
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