愛のかたち

凛子

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 気付けば野上のところで働き始めて五ヶ月が経とうとしていた。仕事はもう完璧にこなせるようになっていたし、引っ越し費用も貯まった。

「えっ、翔ちゃん!?」

 すごいタイミングだと思った。
 会社を出て少し歩いたところにある自販機で、翔が飲み物を買っていた。

「お、おう……久しぶりだな。仕事で近くに来てたんだ。彩華、野上さんとこで働いてるらしいな」

「彩華」と呼ばれたことに、一瞬胸が詰まった。
 野上からは、『いとう家』で偶然翔と会って少し話をしたと聞いていた。

「うん、そうなの。今から帰るところだよ」

 そう返したところで、後ろからクラクションを鳴らされた。振り返ると、野上だった。

「あ、野上さん。お疲れ様です。出掛けられるんですか?」
「ああ、ちょっと仕事のことで。彩華ちゃんは白藤さんと待ち合わせ?」

 一瞬翔に目を遣った野上が聞く。

「いえ、たまたま会っただけです」
「そう。じゃあ乗って。通り道だから送るよ」

 翔が何か言いたげな顔をしているように見えたが、彩華は気付かないふりをし、翔に「じゃあね」と言って野上の車の助手席に乗り込んだ。
 野上は運転席から翔に会釈だけすると、車を発進させた。

 翔の声が頭から離れない。当たり前のように「彩華」と呼んだ翔に、戸惑いと切なさと、そして安心感を覚えた。
 タイミングが良かったのか悪かったのか、野上のせいなのかお陰なのか、翔に生活費の断りの話をしそびれたことに気付いた。

「彩華ちゃん、今何考えてる?」
「え? あのー、えっと……」
「わかりやすいなぁ。白藤さんのことだね」
「……はい」
「おいおい、正直過ぎるだろ。ちょっとは気遣ってくれないかな」

 野上が微苦笑を浮かべた。

「彩華ちゃん?」
「はい」
「ずっと、うちにいてね」
「え、何ですか急に。もちろん、そうさせてもらうつもりです」
「……良かった」


 自宅に戻った彩華は、いつものように明日の献立を考えていた。これも彩華のひとつの楽しみになっている。

 懐かしい音楽を耳にして当時の恋人を思い出すように、あるものを食べた時、一緒に食べた相手を思い出す、なんてことはあるのだろうか。
 数えきれない程作った、翔の大好物だったチキンカツ。翔はそれを食べると、自分のことを思い浮かべたりするのだろうか、と、彩華はそんなことをぼんやり考えていた。

 明日はチキンカツにしよう。
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