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「おっ、今日はチキンカツなんだ。あ、ソースも選べるの? すげーぇ」
野上は子供のような目をして、六切れにカットしているチキンカツを皿の上で二切れずつに分け、三種類のソースをかけていた。今日はそれに、いつか女性社員からリクエストがあった、カラフルなラタトゥイユを添えた。
「うめーぇ! ソースも最高!」
いつも『うめぇっす』が口癖の、末っ子社員の声が聞こえてきた。チキンカツは好評のようだ。
ふと、あの日『いとう家』で口角を少し上げた翔の表情を思い出した――途端に涙が溢れ、彩華はキッチンの隅にしゃがみ込んだ。
「あれ、彩華ちゃんどこ行った?」
野上の声が近付いてきた。
どうすることも出来ずに、彩華は膝に顔を埋めた。
「え、どうした? 体調悪い?」
野上の声が更に近付き、耳元で聞こえる。
「大丈夫です。何でもありません」
彩華は顔を上げずに答えた。
「何でもなくはないだろ」
「本当に大丈夫なので……」
「じゃあひとつだけ答えて。……仕事のこと?」
「……違います」
ふわっと野上の暖かい手の平が頭に乗る感覚を覚えた。
「俺には、彩華ちゃんを心の底から笑顔にすることは出来ないのかな」
野上の哀しげな声が耳に響いた。
こんなにも素敵な男性が自分に好意を寄せてくれているというのに、別れた夫をいつまでも忘れられないでいる自分が情けなくなった。
自分で選んだ道なのに……
あの日健太が言った言葉を信じて、離婚はしたくないと言えば良かった。彼女と子供には悪いが、金銭面の援助だけで済むなら、一度だけの過ちに目をつぶれたはずだ。あれから何度後悔したかわからない。
野上は子供のような目をして、六切れにカットしているチキンカツを皿の上で二切れずつに分け、三種類のソースをかけていた。今日はそれに、いつか女性社員からリクエストがあった、カラフルなラタトゥイユを添えた。
「うめーぇ! ソースも最高!」
いつも『うめぇっす』が口癖の、末っ子社員の声が聞こえてきた。チキンカツは好評のようだ。
ふと、あの日『いとう家』で口角を少し上げた翔の表情を思い出した――途端に涙が溢れ、彩華はキッチンの隅にしゃがみ込んだ。
「あれ、彩華ちゃんどこ行った?」
野上の声が近付いてきた。
どうすることも出来ずに、彩華は膝に顔を埋めた。
「え、どうした? 体調悪い?」
野上の声が更に近付き、耳元で聞こえる。
「大丈夫です。何でもありません」
彩華は顔を上げずに答えた。
「何でもなくはないだろ」
「本当に大丈夫なので……」
「じゃあひとつだけ答えて。……仕事のこと?」
「……違います」
ふわっと野上の暖かい手の平が頭に乗る感覚を覚えた。
「俺には、彩華ちゃんを心の底から笑顔にすることは出来ないのかな」
野上の哀しげな声が耳に響いた。
こんなにも素敵な男性が自分に好意を寄せてくれているというのに、別れた夫をいつまでも忘れられないでいる自分が情けなくなった。
自分で選んだ道なのに……
あの日健太が言った言葉を信じて、離婚はしたくないと言えば良かった。彼女と子供には悪いが、金銭面の援助だけで済むなら、一度だけの過ちに目をつぶれたはずだ。あれから何度後悔したかわからない。
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