香りが導くその先に

凛子

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 気付けば、殺風景だった紗奈の部屋は、アジアのさまざまな国の雑貨で彩られていた。それはもちろん、琉生の影響だ。

 ベトナムのシーグラスバスケットは、フォルムが可愛くて、無造作に置いてあるだけで様になる。カラフルにペイントされたインドの象の置物は、つい集めたくなり、気付けば六人家族になっていた。お気に入りのタイシルクのクッションカバーは、ソファーに置いてあるだけでインテリアのアクセントになっている。
 そして、ルームフレグランスは置くのをやめ、大好きになったバニラのお香を焚くようになった。
 身に付けているインドネシアのシルバーピアスは、二週間ほど前に突然琉生からプレゼントされたものだ。特別な意味はないとしても、嫌いな相手に渡すはずはないと自己判断し、紗奈は浮かれていた。


 週末、いつものように『Sanuk』に向かった紗奈は、路地に足を踏み入れたところで異変に気付いた。
 いつも聞こえてくるはずのゆったりとした民族音楽が聞こえない。定休日は月曜日のはずだが、今日は臨時休業なのだろうか。今までそんなことは一度もなかった。仕入れに行く時は、いつも少し前に必ず教えてくれる。もしかすると、体調を崩したのかもしれない。
 雨でない限り入り口にディスプレイされていた雑貨も姿を消し、店に近付くにつれ、照明も、看板も、何もかもが取り払われていることに気付き、紗奈は愕然とした。

 シャッターの貼り紙には、『閉店』の文字が記されていた。

 ――どうして?

 先週立ち寄った時、琉生からは何も聞かされていなかった。その事実が、紗奈の胸を締め付けた。
 このまま、もう会えないのだろうか。
 突然すぎる別れに、涙も出ない。ただ、呆然とその場に立ち尽くした。

 微かなバニラの香りだけが、静かにそこに残っていた。
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