ビールで乾杯

凛子

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 社内で殆ど顔を合わせることのなかった佑都から、ある日突然食事に誘われ、交際を申し込まれたのが始まりだった。
 仕事が出来て、周りからの信頼も厚い佑都は、社内でも一目置かれる存在だった。何があっても取り乱さず、落ち着いて対応する。余裕があり、たよりがいがあり、傍にいるだけで安心感に包まれた。  
 真理は男に依存するタイプではなかったが、そんな佑都の包容力と男らしさに惹かれて交際をスタートさせたのだった。


「真理、誕生日どっか行きたい所ある?」

 デートの帰りだった。
 佑都がそんなことを聞いてくるのは珍しい。俺様気質とまではいかないが、どちらかといえば「俺に着いてこい」タイプの男だからだ。
 デートコースも大抵佑都が決める。真理自身それを不満に思ったこともなかったし、真理が優柔不断という訳でもない。佑都に任せておけば間違いないと思っていたし、そうすることで、佑都の気持ちが満たされることも真理はわかっていた。
 
 毎年、真理の誕生日は、佑都が予約する素敵なレストランで食事する。そして佑都は、毎回サプライズ演出で真理を驚かせ喜ばせた。
 だが、今の真理にはそれを素直に喜べる程の心の余裕はなかった。
 いっそのこと酒でも飲んで、腹を割って話したい気分だった。それほどに、切羽詰まっていた。

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