ビールで乾杯

凛子

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「たまには電車で出掛けようよ。佑君も飲みたいでしょ?」
「いや、俺は別に構わねえよ。お前の誕生日なんだからそんなこと気にすんな」

 人混みが嫌いで電車があまり好きではない佑都とのデートは、いつも車移動だった。毎回自宅まで迎えに来てくれ、送り届けてくれる。真理からすれば有難いことだったが、当然運転がある佑都とは食事に行っても一緒に飲むことが出来ない。

「一緒に映画観た後、いつもみたいなワインが似合うお洒落な店じゃなくて、個室のある居酒屋で、佑君とビールで乾杯したい」

 突然そんなことを言った真理に少し驚いた様子の佑都だったが、「お前がそうしたいんなら」と表情を緩めた。

「次はいつ?」と佑都が尋ねる。
「来週の土日は友達と約束があるから……誕生日まで会えないかな」と、シートベルトを外しながら真理は答えた。

「そうか……」
 
 佑都の顔が近付き唇が触れる。一旦離して真理を見つめ、もう一度。今度は真理を引き寄せてから熱く口付けた。
 今日はいつもより佑都の熱が伝わる。
 車から降りた真理が、「またね」と手を振る。真理がエントランスに入ると同時に、佑都は車を発進させた。

 本当は友達との約束なんてなかった。それは、適度な距離感を保つために真理が定期的につく嘘だった。
 こんなふうになったのはいつからだろう。
 佑都への気持ちが大きくなるにつれて、真理の不安は募っていった。もう何年も前からだ。


 誕生日に懸けようと思っていた。
 今年の真理の誕生日はちょうど土曜日に当たる為、互いに仕事も休みで、当日は一日一緒に過ごすことが出来る。真理は綿密な計画を立ててデートに臨むつもりでいた。最終はアルコールの力を借りて、それでももし佑都から結婚の言葉が出なければ、別れ話を切り出す覚悟でいた。
 真理は祈るような気持ちでその日を待った。

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