6 / 6
6
しおりを挟む
「時生さん? こないだは酷いこと言ってごめんなさい」
「いや、構わないよ。嘘ついてたのは俺のほうだし」
「仕事のこと言ってるんじゃありません」
「え?」
時生が不思議そうに首を傾げている。
「私にも時生さんにも同じように親がいて大切に育てられて、私が親に少しでも楽させてあげたいって思うように、時生さんにもきっとそういう思いはありますよね」
「まあね。一応俺も俺なりに考えてるんだよ。このままずっとバイト生活続けようなんて思ってないし、就職活動だってやってるよ。早く親を安心させてやりたいって思ってる」
「そうですよね」
「でも結局はさ、親も子も考えることは同じで、願うのは互いの幸せなんじゃないかな」
「そうですね」
美和子は月を見上げ、家族の笑顔を思い浮かべる。
「美和子ちゃんが幸せだと思えてるなら、ご両親は幸せなんだよ。きっとそれ以上のことは望んでいないんじゃないかな」
時生の言葉が、心にストンと落ちてきた。
「月の神様が引き合わせてくれたんですかね?」
「え?」
「私も時生さんに会いたかったんです」
「ロマンチックなこと言うね」
「だって、今日は十五夜ですよ」
「ああ、道理で月が綺麗なわけだ」
月明かりに照らされた時生の横顔を眺めながら呟く。
「ハンバーグが食べたい……」
「え? そこは月見団子じゃないの?」
時生が声を上げて笑う。
「時生さんは、お月見って豊作を祈願したり収穫に感謝したりする行事だって知ってましたか?」
「うん、知ってるよ」
時生はまた月を見上げている。
「何で月なんだろうって思って調べてみたら、昔は月の満ち欠けを見て農作業を行ってたみたいで、月の神様を招く為にススキや月見団子を用意するみたいなんです」
「へえ、それは知らなかったな」
「でも、うちの母はちょっと天然な人で、ただ綺麗なお月様を大好きな人と見る日だと思ってたんです」
「素敵だねえ」
話に耳だけ傾けて頷いていた時生が視線を向ける。
「だからうちのお月見はちょっと変わってて、家族揃って月を眺めながら、みんなが大好きな母の手作りハンバーグに、父が作った満月に見立てた目玉焼きを乗せて食べるのが風習なんです」
「いいねえ、それ」
「きっと今日もです」
「あ、じゃあ早く帰らないとね」
時生がベンチから立ち上がる。
「あの……良かったら、時生さんも一緒にどうですか? お月見」
「え、いいの?」
「それが、うちの風習ですから」
【完】
「いや、構わないよ。嘘ついてたのは俺のほうだし」
「仕事のこと言ってるんじゃありません」
「え?」
時生が不思議そうに首を傾げている。
「私にも時生さんにも同じように親がいて大切に育てられて、私が親に少しでも楽させてあげたいって思うように、時生さんにもきっとそういう思いはありますよね」
「まあね。一応俺も俺なりに考えてるんだよ。このままずっとバイト生活続けようなんて思ってないし、就職活動だってやってるよ。早く親を安心させてやりたいって思ってる」
「そうですよね」
「でも結局はさ、親も子も考えることは同じで、願うのは互いの幸せなんじゃないかな」
「そうですね」
美和子は月を見上げ、家族の笑顔を思い浮かべる。
「美和子ちゃんが幸せだと思えてるなら、ご両親は幸せなんだよ。きっとそれ以上のことは望んでいないんじゃないかな」
時生の言葉が、心にストンと落ちてきた。
「月の神様が引き合わせてくれたんですかね?」
「え?」
「私も時生さんに会いたかったんです」
「ロマンチックなこと言うね」
「だって、今日は十五夜ですよ」
「ああ、道理で月が綺麗なわけだ」
月明かりに照らされた時生の横顔を眺めながら呟く。
「ハンバーグが食べたい……」
「え? そこは月見団子じゃないの?」
時生が声を上げて笑う。
「時生さんは、お月見って豊作を祈願したり収穫に感謝したりする行事だって知ってましたか?」
「うん、知ってるよ」
時生はまた月を見上げている。
「何で月なんだろうって思って調べてみたら、昔は月の満ち欠けを見て農作業を行ってたみたいで、月の神様を招く為にススキや月見団子を用意するみたいなんです」
「へえ、それは知らなかったな」
「でも、うちの母はちょっと天然な人で、ただ綺麗なお月様を大好きな人と見る日だと思ってたんです」
「素敵だねえ」
話に耳だけ傾けて頷いていた時生が視線を向ける。
「だからうちのお月見はちょっと変わってて、家族揃って月を眺めながら、みんなが大好きな母の手作りハンバーグに、父が作った満月に見立てた目玉焼きを乗せて食べるのが風習なんです」
「いいねえ、それ」
「きっと今日もです」
「あ、じゃあ早く帰らないとね」
時生がベンチから立ち上がる。
「あの……良かったら、時生さんも一緒にどうですか? お月見」
「え、いいの?」
「それが、うちの風習ですから」
【完】
20
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
光の図書館 ― 赦しの雨が上がるまで
108
恋愛
「あの日、私を救ったのは、あなたの未来でした」
雨の匂いが立ち込める午後の図書館。司書の栞(しおり)の前に現れたのは、影を帯びた瞳の青年・直人だった。 彼はいつも、絶版になった古い物語『赦しについての短い話』を借りていく。 少しずつ距離を縮める二人。しかし、直人の震える右手には、五年前の雨の日に隠された、残酷で優しい秘密が宿っていた――。
記憶の棲む図書館を舞台に、「喪失」を抱えた二人が「再生」を見つけるまでを描いた、静謐で美しい愛の物語。
遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜
小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。
でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。
就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。
そこには玲央がいる。
それなのに、私は玲央に選ばれない……
そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。
瀬川真冬 25歳
一ノ瀬玲央 25歳
ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。
表紙は簡単表紙メーカーにて作成。
アルファポリス公開日 2024/10/21
作品の無断転載はご遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる