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89 再会、そして新たな手がかり

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「はぁ...何とも豪勢なお屋敷でらっしゃいますねぇ...」

貴族の屋敷の食事の間、目の前に並べられた料理や
部屋の装飾を見回しながら
ふわっ、とどこか気の抜けた様にゆっくり話すフレイア

「ほのひふたーはんが、あんはらがまへにあったっていふほはの?」
(そのシスターさんが、あんたらが前に会ったって言う子なの?)

「ちょっとヴァレラさん、
 食べ物を口に入れたまま喋らないで下さいっ
 流石にお下品ですよ!」

最早何を言っているのか聞き取れぬ程
ボイルされた大型の甲殻類を口いっぱいに頬張ったまま
喋るヴァレラに注意を促すセルヴィ

「ふぁふは...んぐ、ごめんごめん、」

口から残った殻を外し大きく一度飲み込む

「ふふふ...豪快なお方なのですね
 改めて私は神官見習いをしております、フレイアと申します
 ヴァレラさん、よろしくお願い致しますね」

フレイアは優しく微笑みながら改めて挨拶を交わす
その笑みには、皮肉や嫌味という物は一切感じさせない

「シスター…じゃなくて神官さんだっけ?
 まぁ同じ様なもんよね、宜しく、
 私もさっきその子セルヴィから話もあった通り
 色々世話になって今は一緒に同行してるって訳よ」

「全然違うと思うのですが...
 もうヴァレラさんは大雑把なんですから...」

「あんたが細かすぎんの
 そんなだから胸も大きくならないのよ」

「む、胸は今は関係ないじゃないですかっ!」

席を立ち顔を真っ赤にして抗議するセルヴィ

「まぁまぁ、お二人とも仲が宜しいのですね
 構いませんよ、役職など然したる問題では御座いません
 貴女様もゼロス様方と同じく遠い過去から、
 さぞお辛い経験を成されたのですね...」

「それはお互い様でしょ、
 あんたも色々あったみたいだしね
 それに私は何だかんだ言って、今を結構楽しんでるから
 気にしなくていいわ、
 それよりあんたは村で分かれて更に南西の...
 何だっけ…?何とか公国って所に
 難民と向かったって聞いてたけど?」

「アルド公国です」

不機嫌そうに腕組みしながら
そっぽを向いて補足するセルヴィ

「そうそれ、ってしょうがないでしょ
 この世界の国名なんか
 初めて聞く名前ばかり何だから」

「知りません!」

「もう...悪かったわよ、
 胸なんて私だって大差無いんだから」

「そうですわ、女性の価値は胸の大きさではありませんわ」

「わ、私より大きいお二人に言われても
 フォローになってないのです...
 も、もういいです、分かりました
 続けて下さい...」

今度はしょんぼりと席に腰を降ろす

「わたくしがバセリアに居りましたのは
 アルド公国に難民の方々と無事到着して間もなく
 教会から法国への招集の命が下った為です」

「法国?」

ヴァレラが疑問を投げかける

「はい、私共教会の中央教会が御座いますのが
 ここより更に北東に位置しております
 教会法皇が統治するノヴァス法国で御座います」

「でも、どうしてフレイアさんに突然その様な知らせが?」

セルヴィが口を開く
日数から考えると、フレイアは公国に到着し
すぐに出立して移動して来たと思われる

「わたくしも詳細は知らされては居ないのですが
 何やら恐れ多くも、難民の方々にお供させて頂いた件が
 中央教会の耳に入ったようでして
 詳細の事情聴取と、場合によっては、その...
 神官への昇格とのお話の様です」

「凄いじゃないですか!」

「いえ...わたくしは皆様と、
 ただ一緒に居させて頂いただけです
 本当に難民の方々を救ったのはあなた方
 そして、プロメテウス様に他なりません」

両手を胸の前に組み、祈る様に瞳を閉じる

(そう言えば...この子ってあの宇宙戦艦の事を
 神様って思ってるんだっけ?)

フレイアが瞳を閉じている間に
こっそりヴァレラが小声で問いかける

(それに関しては
 突っ込むとややこしくなるので
 触れないでおいて下さいっ)

(お、おk...)

セルヴィの額に浮かぶ汗と迫真の表情から
何と無く状況を察するヴァレラであった

「で、でも教会の方であるフレイアさんが
 公国へ一緒に行ってくれた事は
 きっと難民の皆さんも心強かったはずなのですよ!」

「そういって頂けると励みになりますわ
 ありがとうございます」

フレイアが祈りを止め、再び目を薄っすらと開く

「しかし、夕方のあいつは何なのかしらね...」

「ゼロスさんの話では、あの女の子がアンドロイドという
 サイボーグとは違う、純粋な機械の存在らしいです」

話題を変えたヴァレラに
屋敷に戻った後、ゼロスらから一通りの説明を受けた内容を
反復する様に続けるセルヴィ

「やっぱりこの地下で見た映像で言ってた
 アンドロイドの軍勢の生き残りなのかしらね」

「プロメさんもその可能性が高いって言ってましたね
 まだ絶対ではないそうですが
 だからその手がかりを求めて
 早速明日には北のソルチェ帝国に向かうそうです」

「通信で誰かが言ってたって言う
 あのアンドロイドが向かった、と言われる国ね」

「はい...ゼロスさんとプロメさんにしか
 聞こえなかった様ですが
 でも、その前にフレイアさんと再会できたのは
 とても幸運だったのです!」

「帝国って独特の技術・文化形態を持ってて
 基本的に外部の人間の立ち入りを
 制限してる閉鎖的な国なんだっけ?」

「そうです!でもソルチェ帝国は教会・法国とは
 とても友好的で神官さんが一緒であれば
 出入りはかなり簡単に出来るらしいのです!
 と、勝手に私達の都合を押し付けてしまって
 フレイアさんには申し訳ないのですが...」

二人はフレイアの方へと視線を移す

「いえいえ、お気になさらないで下さい
 テストラ王国を経由出来なくなってしまった
 今となっては乗り合い馬車に載せて頂くにせよ
 まず法国への直行便は無いはずですので、
 ここより更に法国に近いソルチェ帝国に
 連れて行って頂けるのは
 わたくしとしても非常に助かります」

「それならよかったです!」

「それに、こうして皆様と再びお会いでき
 短い間ですが、またご一緒出来る事は
 大変嬉しく思いますわ」

「はい!私もまたフレイアさんとまた会えて嬉しいです!
 きっとゼロスさん達も喜んでいるはずです」

無邪気な笑顔を浮かべるセルヴィ

「そう言えば、プロメテウス様とゼロス様は
 いかがされたのでしょう...?」

広い食事の間には現在
セルヴィ・ヴァレラそしてフレイアの3人のみであった

「ああ、まずプロメなら、貴族から情報を引き出したり
 今後の事について”いろいろ”お話しに行った見たいよ
 あの貴族もどうやら気がある見たいだから心配ないでしょ」

「まぁ、バセリア王国随一の権力者と言われる
 ヴァンデルス大公様がプロメテウス様を...」

(っ!!)

これはまずい、あの狂信的なまでにプロメを崇拝する
フレイアが、プロメに言い寄る男の存在などっ
しまった!地雷を踏んだか!とセルヴィに戦慄が走る

「やはりこれ程の国家を支えるお方
 プロメテウス様の尊大さにお気づきになられたのですね
 ご立派なお方ですわっ!」

(セーフ...)

内心、胸をなでおろしたセルヴィであった、が

「うーん、そんなんじゃないと思うけどなー…うぐっ!もがっ!」

「ヴァ、ヴァレラさん!、このお肉も美味しいですよ!
 あっ!このお魚も、とっても柔らかくて甘いのです!
 今日食べておかないと、暫く
 こんな御馳走食べられないですよ!さぁさぁ!」

「んぐぐ!んもも!」

言いかけたヴァレラの口に手あたり次第に料理を放り込み
言葉を阻止するセルヴィ

「ま、まぁ、これから数日は一緒に居る訳ですし
 明日にでもゆっくりまたお話できますよ!
 ゼロスさんも今日は朝から遺跡探索で潜ってましたので
 きっと休んでいるのです!
 フレイアさんも折角用意して頂いたお料理ですので
 今の内にしっかり頂きましょう!」

「そうですわね、折角の大公様のご厚意、
 無下にしては罰があたりますわね
 わたくしももう少し頂く事に致しますわ」

そう言うとフレイアも再びナイフとフォークを手に取り
綺麗に小さく料理をとりわけて皿へ運んでいく

「んぐーっ!」

ヴァレラの呻き声が食間に鳴り響く


———————————

それから間もなく、同邸宅・客室

ゼロスは一人、いつも通りベットに腰を掛け座る
厳密には一人ともう一匹
タマは隣のベットの真ん中で心地よさそうに寝息...
は、立てていないが眠るように丸まっている

マットの質が良く、ゼロスの重量では腰を掛けた際
かなり深く沈み込み過ぎてしまう為
実際はやや太もも付近に動力を発生させ
座る、という姿勢だけを取っているのだが
何方にせよゼロスにとっては負担とは成らなかった

眉一つ動かさず、ただ座ったまま、正面を見据える

ゼロスの脳内では何度も本日起きた出来事
収集したデータがリピートされる

地下施設の詳細、
見つけたデータ、
夕刻接触したアンドロイドの少女、

そして同じ時代を生きた、ほんの数万年前のすれ違いの中で
生き残っていた、そして今はもう居ない生存者達

結論は何も変わらない
既に起きた過去の出来事だ
彼等はもう今は居ないのだ
自分が数百万年前に取り残して来た人々と同じ様に

なのに、何故自分は同じことを何度も確認しているのか

通常の人間より遥かに思考速度を加速させた脳が
何度も単調な思考を繰り返し続ける

コンコン

その時、部屋の扉がノックされ
扉の向こうから聞きなれた少女の声がかけられる

「セルヴィです、入っていいですか?」

ドア越しに声が掛かる

「ああ」

何時もと変わらぬ返事を返す

ドアの外で控えていた専属のメイドがドアを開くと
両手にお盆と料理を抱えたセルヴィの姿があった

途中、メイドが雑務を引き受けようと
手を差し伸べようとするが
セルヴィは首を横に振り、小さく礼を述べる

それを受けメイドが1歩下がり一礼し静かに扉を閉める
そのままセルヴィは部屋に置かれた大き目のテーブルに盆を置く

「すみません、余計だったかもしれませんが
 お料理を少しだけ持ってきました」

「ありがとう、後ほど頂こう」

セルヴィが部屋を見回すと
まだプロメの姿は無かった
恐らくまだ、貴族とのやり取りを行っているのだろう

しばしの沈黙が続く

気まずい...

しかし今回ゼロスは、どうした、とは尋ねなかった
何故彼女が訪ねて来てくれたのか
理解していたからだ

そして程なくセルヴィが先に口を開く

「隣、良いですか?」

「ああ」

隣のベットではタマが中央に鎮座している為
起こしてしまうかもしれない
必然、腰掛けるなら選択肢はゼロス側のベットとなる

彼女が腰を掛けると同時に
ゼロスは深く沈みこみ過ぎない様に
セルヴィと同じ重量分、脚部の出力を僅かに高め、支える

そして再び僅かな間の後、彼女が続ける

「私、ゼロスさん以外のエンシェントの方を始めてみました!」

「ああ、そうだったな」

「私にはどんな事をしてこの都市を築いたのか
 半分位しかわかりませんでしたが、
 やっぱりエンシェントの人達は凄いですね」

「君達も時間をかければ、いづれ同じ事が出来るさ」

「私達も...はい、そうかもしれませんね...
 映像に映って居た人達は、着ている服や、技術は確かに違いました
 でも、やっぱり私達と何も違わない【人】でした...
 夢を見て、希望を持って、笑ったり、
 そして悲しんだり...辛い事に耐えられなくなったり...」

「...」

「やっと同じ時代の人達に会えたと思ったのに...
 とても、残念でしたね...」

「ああ」

「私達から見れば気が遠くなるほど、ずっと昔
 ゼロスさん達の時代の人達は
 あんな風に最後まで、皆必死になって戦い続けて居たのですか...?」

「...そうだな」

「自分達が滅びると分かっていて尚、
 それを受け入れてアンドロイドに託す事にした
 あの研究者の方は...果たして狂っていたのでしょうか...」

「...それは俺には解らない
 だが...自分達が生きた証を託す事は...」

そう自分で口にしたとき、頭の中で何かが繋がり
意識の深くから、記憶が呼び起こされる


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西暦2696年 ハルマゲドン計画発動の3年前

人類連合史上、最大の一大反抗作戦

ゲート奪還作戦
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