拾った手鏡

斑鳩 琥

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拾った手鏡

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 僕がその鏡を拾ったのは、夏の暑い日だった。
いつものように山で友達と遊んでいた僕は、そろそろ周りも暗くなってくるからと帰路に着こうとしていた。
僕の家は、一緒に遊んでいた友達の家と反対方向にあった。
そのため僕は、いつも一人で薄暗い山道を歩いて帰るのであった。

 今日も友達と別れた後、いつもと同じように薄暗い山道をトコトコと歩いていた。
そんな時、ふと急に近くにある茂みが気になったので、視線を向けてみた。
するとそこに一つの手鏡が落ちていた。
[こんなところになんで鏡があるんだろう?]
僕は不思議に思い、その手鏡を拾い上げた。
大きさは500mlのペットボトルくらいで、裏にはなにやら花や鳥の絵が彫られていた。
青銅のようなもので出来ており、ずっしりとした重さが手に伝わってきた。
[昔の鏡なのかな?]
僕は、そのようなことを考えながらその手鏡を眺めていた。
するとその時、手鏡に映る自分の遥か後ろに黒い影のようなものが見えた。
「なんだこの黒いの?」
僕は声に出しながら後ろを振り返った。
しかしそこには何もなく、いつも通りの薄暗い山道があるだけだった。
[気のせいかな?]
僕はもう一回手に持っている鏡をのぞいた。
するとやはり後ろに映る木の間に黒い影が見えるのである。
[なんだこれ!]
気味が悪くなり、持っていた手鏡を山の中に投げ捨てて、転がるように山道を降りた。
しばらく走って街の明かりが見えるところまで来た時、僕の肩を誰かがポンっと叩いたのである。
僕は、心臓が止まりそうになるくらい驚いた。
そして意を決してゆっくりと後ろを振り返ったのである。
するとそこには、腰の曲がったおばあさんが立っていた。
今までに見たことのないおばあちゃんであった。
「これ!捨てたらいかんだろうが!」
大きな声を発しながら、おばあさんは僕に手鏡を押し付けてきたのだ。
「なんでこれを持ってるの!?」
僕は確かにさっき捨てたはずのその手鏡を受け取りながらおばあさんに問いかけた。
するとおばあさんは不気味な笑みを浮かべて僕にこう言ったのだ。
「なんでって、もう君は迷い込んだんだよ…。さぁ鬼ごっこを始めようか。」
その直後、おばあさんから黒い影が飛び出し僕の方に向かってきた。
[さっき鏡越しで見た影だ!!]
僕はすぐに影に背を向けて街の明かりを目指して走り出した。

 数十分は走っただろうか…。僕はまだ山の中にいた。
どれだけ走っても山から出れないのである。
[あぁ…。僕は迷い込んでしまったのかもしれない。鏡の世界に…]
そう思った時、足がもつれて転けてしまい僕はそのまま影に取り込まれてしまった。

 次に気がついたときには僕は暗い空間の中にいた。
そしてどこからか声が聞こえてくるのである。
「なんだろう。この鏡。」
僕は無意識のうちにニヤリと笑ってその声に耳を傾けていた。
『ようこそ。鏡の世界へ…。』
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