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第十三話〜案の定大騒動
しおりを挟む綴は、無防備に眠る砂楽を抱き上げる。すると盛大な音を立てて扉が開いた。やはり聞こえていたらしい。
「砂楽さんだいじょ・・・じゃないね・・・」
悲鳴を聞いた修鬼が蛇を放って駆け付けた。修鬼が来たということは当然。
「お兄様!」
砂楽が愛する砂遠と砂迦と灯夜も駆け付けた。
「てかコイツらなんだ」
「貴様ら、兄上に何をした」
砂迦は、怒りを滲ませヴィペラの胸ぐらを掴み引っ張り上げた。
「吐いてもらおうか」
灯夜と砂迦が恐ろしい剣幕で睨みつけ問い質す。恐怖に顔を歪めながら吐いた。苛立ち砂迦はらしくもなくヴィペラを床に叩き付けた。兄を傷付けたのだから当然だ。その間に綴が砂楽をベッドに寝かせ、解毒剤が入った注射を刺した。
いまだに苛立ちを隠せない砂迦は、二人を弟子に任せ連行させた。
「毒を体内で分解できなかったのかな」
「ああ。そもそも本調子ではなかったからな。免疫力が落ちていたと考えていい」
「そういうことでしたか・・・お兄様にこんなにダメージを負わせるなんて」
全員座ることができるほど広いベッドで、砂遠は砂楽の手を握る。風邪をひいていたとしてもこれほど酷い目には遭わない。毒がよっぽどキツかったのだと容易に想像がつく。
「薬を作っている場合ではなかった・・・」
「綴さまが自分を責める必要はありません。解毒剤がなければ回復もできませんから」
「砂遠ちゃんの言う通りだよ」
「黙っておけと言われたんだが・・・やはり無理だったな」
砂迦の柳眉がピクリと動く。それを見た灯夜が何もしないように落ち着かせ座らせた。今の機嫌の悪さのままでは、寝ている兄に掴みかかってもおかしくない。砂遠はとにかく不安げな表情。こんなに弱った兄は記憶の中にない。
「大蛇の血、持ってきたぞ」
全ての個体を気絶させた夜刀が、採取した血を持って現れた。修鬼は、飲みたくならないんだろうかと心配になる。綴は採取した血を一滴手の甲に垂らす。
・・・え、まさか
どんな効果があるのかも分からないのに口に含むのは危険ではないか、と夜刀が冷や汗をかく
「ふむ、なるほど。これなら作れそうだな。まずは・・・砂楽の血を採らなければ」
「待て。私にしろ」
「わたしではいけませんか?」
「蛇の毒を分解中の砂楽さんじゃないと意味がないんじゃ・・・」
献血ということはまぁまぁ血を採られる。さらに言えば、朝ごはんとして綴に血を吸われているのだ。貧血になること間違いなし。というか既に貧血気味である。
「修鬼の言う通りなんだ・・・不満そうだな」
「あの数の蛇を戻そうと思ったらかなりの血が必要ではないか」
「いや。砂楽の血液の型をコピーするのだ。この男の血だからな、コピーとはいえ効力は絶大だろう」
光側の中でもトワイライト王国の王家は血液までもが貴重な型を持つ。どういう仕組みかは不明だが、王である砂楽の血液はさまざまな効力を発揮する。修鬼は、光側ってなんでもあり?と首を傾げた
「兄上は創造の力を持つ」
「そういえば初めて会った時に言ってましたっけ?」
砂遠は、地面に出来た穴を閉ざしたり壊死した細胞を再生したりすることができる。砂迦は、その血一滴で枯れた花をもう一度咲かせたり干からびた池の水を復活させたりといった、セレス使い離れした効果を持つ。
「砂楽の血は翳すだけで生ける土人形や妖精なんていうものも生み出せる。もはや何でもあり」
「す、すごいね」
「そりゃ三人とも命狙われるよな。不老不死なんてものだって実現できそうなレベルじゃね?」
この三兄妹は、血を混ぜれば死んだものも蘇生できるのではと思えるほど強い。セレス使いとしての実力だけではない。
「・・・そういえば、学校どうしよう」
「先生に叱られてしまいますね」
「無断休みはヤバイよな」
ふと我に返った修鬼は、ここにきてようやく学校の存在を思い出した。「王が倒れたのでと言えば解決だろ」というヴァルアからの助言に、修鬼たちは胸を撫で下ろした。
少しずつ雰囲気が戻ってきた隣で、綴は薬を調合していた。
「よし。これでいい」
完成した薬を砂迦の弟子に渡した。人間に戻して来いと言わなくても察したのか、弟子たちはすぐに出て行った。
「ふむ・・・消えたようだな」
「よかった。ありがとう」
「わたしからも」
砂楽を蝕む毒が完全に消滅した。滲んでいた汗も次第に引いていった。完全に痛みがひいたのか寝返りを打ちうつ伏せになった。砂楽にとって一番落ち付く体勢である。寝息を規則正しいものに変わった。
「ふぅ、もうさ。王子とかお姫様が倒れるのもやばいのに、王様なんてもっとやばいからね。他の国だったら処刑だよ。アイツら」
砂楽を散々痛めつけた二人のことである。殺した訳では無いため、処刑には至らない。アスクと同じく島流しとなるのは間違いないのだが。
「相変わらず、寝顔は絵画のようだ。はぁ、腹が空いた・・・」
このタイミングで綴が禁句を吐いた。腹が空いた。それ即ち血を下さいということなのだ。さすがに止めろと砂迦に恐ろしい目で睨みつけられ、クッキーで我慢した。
「こんなに腹が空いたが怖い人いないって」
「ある意味急いで戻ってきて正解だったかもな」
修鬼たちの預かり知らぬところで、もしくは修鬼たちがちょうど戻ってきたところで血を吸っている場面に出くわすところだった。
「あの蛇使いたち、もう一度城に侵入してくる可能性がある。派遣される蛇使いは一人や二人ではないと聞いた」
「それは早く言おうか」
修鬼たちは、てっきりアスクだけなのだと思っていたのだ。知らないうちに蛇使い二人が侵入して襲撃。またもう一度別の人間が来る可能性が高い。安心出来ない。
「そうか。蛇使いの狙いは殺すことではなく兄上の血」
「なるほど。お兄様の血を利用しようと企んでいるのでしょうか」
「砂楽さんの血を盗んだところで、兵器になるようなものができるとは思えねぇんだけど」
夜刀の言葉に苦笑する面々。とてつもなく強力な兵器が出来たとしても、それを人を傷つけるために使えるとは思えない。
「いや、自分たちを守れとか言ったらその通りに動くかも。あれ、でも砂楽さんよくわかんない所で賢いんだよなぁ」
どのみち砂楽の血では少なくとも悪属性の存在は出てこないだろうと予想した。
「んぅっ・・・」
一斉に砂楽を見た。うつ伏せだったが仰向けになると、重たげに瞼が開いた。
「兄上、よかった。気が付いたか」
「お兄様ご気分はいかがです?」
「えっと・・・何があったんだったか・・・」
「この部屋で蛇使いに襲撃されたんだ」
寝起きで頭が起きていないらしく、何があったのか状況を掴めていないらしい。
「外にいたはずなんだが・・・」
とんでもない言葉が放たれた。蛇に噛まれたところから既に激痛で意識がなかったのだ。その状態で槍を持って抵抗したのだ。
「すっごい危ないことしますね」
意識がなくても戦えるほど戦ってきたのだ。砂楽は腕で上体を起こそうとしたが、何故か眉を顰めた。
「ど、どうないました?」
「腕が痛い・・・」
すぐにキラを呼んだ。検査が無くてもで症状がわかる眼で腕を見た
「ヒビが入っていますね」
「えぇっ!?」
「りょ、両方に?」
槍使いの腕にヒビ。聴いているだけである意味恐ろしい。本当に殺されてもおかしくない。砂楽からすれば、腕が折れていても関係ない。折れているなら折れているで、砂迦に行かせればいいのだから。
「ふむ・・・明日にアルバ国に行く予定なのだが」
「アルバ国に来てくれるんですか?」
トワイライトの王がアルバ国に来る。大ニュース間違いなしだ。おそらく、観光のために来る訳では無いのだろう
「まあ、そちらの王と話しに。そこで・・・修鬼と夜刀に私のボディーガードを頼みたいのだ」
沈黙。トワイライトの国王のボディガード。それを任されるのがまさかの自分たち。王に頼まれれば頷くしかないのだが。
「綴さんは?」
「綴はもちろん来る。亜紗と雅紗は城に残る。砂迦も残る。あと、お前たちの学校の様子も見せてもらおうかと」
この前は高校生にしてまさかの参観日があり、そこに王子が出席するという異例の事態だった。今回は参観ではないにせよ、どのようなことをしているのかを見るために王が直接来る。授業中に寝てしまわないかという不安もある。
「先生に言わないと!!」
世界中で知らないものはほぼいない砂楽。本人がテレビに映ることを嫌うのかテレビに出たことは一度もないが、その名を聞けば驚くを通り越して跪く。
「観光はしないのですか?」
「したいんだがな。あくまで外交がメインだから。国際同盟に入らないかと持ち掛けなければ」
「入るメリットって何なんだ?」
「国際同盟に入ると、同盟に所属している国が侵略されそうになったら守ってくれるんだ」
「アルバ国は守りが手薄だ。同盟に入ってくれないから、トワイライト王国が直接守ることにした」
手薄なことを分かっているのかいないのかは定かではないが、まともな兵隊もいないのだ。ならば貿易しようと持ち掛けたこちらには守る権利があるのではないか、と砂楽は考えたのだ。今回はこのことともうひとつ話しておきたいことがあるため、電話でするよりも直接がいいだろうと砂楽から誘ったのだ。アルバ国の王は、引きこもりか何かかと思うほど国からも城からも出ない。
「なんか、すごいですね。王様って感じ」
普段見ていれば全く感じないのだが、こういうことを聞けば本当に王なのだと納得する。
「ゆっくり出来るんですか?あー、でもいいホテルないな・・・」
「王の宿泊に相応しいホテルか旅館がねぇな」
「よし、オレが探して予約するしかない!」
ボディガードの仕事の範疇ではないが、こうなっては仕方がない。良いホテルをこちらで探すまで
「観光する時は変装しようと思ってな。ただ、この腕ではなぁ」
じっとキラを見つめる砂楽。治してくれないかと目で伝える。出来れば休んでくださいと言いたいがそういうわけにもいかず、渋々治療した。
「土曜日とかになりませんか?」
「ふむ。それは構わんが・・・外交を始めるのは学校が終わってからだと思うぞ」
修鬼としては、学校を休みたくない。砂楽の目的は王と話に行くだけではない。学生をはじめ国民の姿をこの目で見ることもその一つだ。
「ところで、変装って?」
変装するための服を新調してもらったのだと言って何着も取りだした。
「まず、オーラを消すところから始めた方がいいんじゃ・・・」
隠しきれないオーラにより、どんなに変装してもただものでは無いと分かってしまう。本人は自覚無しだ。砂迦の時も同じで、変装になっていなかった。
「着物とか袴とかはいかがでしょう。お兄様」
「ほう、アルバ国にはそんなものがあるのか」
・・・モデルになるからダメでしょ
外国の人が観光する時にするやつだ。着物体験とか抹茶体験とか。
「そういえば、刀鍛冶がいると聞いたのだが」
「あぁ、俺っすね」
「夜刀がそうなのか?」
「夜叉族は鍛冶師が多いんです。もう夜刀しかいないのかな」
特級鍛冶師である夜刀。旅をしている間も、武器を売って金を稼いでいたのだ。
「それはぜひ作ってもらいたいものだ」
「勿論っす。槍、持ってみていいか・・・ですか?」
客相手なのでさすがの夜刀も敬語を使わなければと、不慣れすぎる敬語で言った。砂楽はニコニコしながら槍を渡した。
「なるほど。オッケーっす」
「それは有難い」
「兄上の槍の重さに合わせるとは・・・かなり難しいそうだぞ」
「あらゆる鍛冶師を捕まえても砂楽に合う武器は作れなかったからな」
下手をすればこの槍の重さも足りない可能性があるのだ。砂遠や砂迦とは違い、砂楽の武器はかなり複雑な構造となっていた。夜刀も一度持っただけでどこか違和感を覚えていた。すると夜刀は、なんの断りもなく砂楽の腕に触れた。
「な、なにしてんの!?」
修鬼が驚き制止しようとしたが、これは必要なことなんだと言われてしまう。
「確かに、この重さじゃ軽いっすね。砂楽さんの槍は重いからこそ威力も高い。でも筋力にあう重さにしないと痛めやすい」
武器はその人の筋力に合わせて作るものというのが夜刀の美学。この重さでは軽いと言われた砂楽は、驚いた様子で夜刀を見つめた。綺麗な宝石のような瞳で見つめられ、夜刀は俯いた。
「ちょっと弄っていいっすかね」
「あぁ。構わんぞ。その槍もまぁまぁ使い古していてな。何度も修理している。その度に重さが変わる」
「それは不便すぎる」
修鬼が顔を顰める。やっと慣れたと思いきや、重さが変わって違和感を覚えたまま戦う羽目になる。せっかく修理してくれたのだから文句は言えないと使い続けているのだ。ただ、セレスの威力に槍が耐えられないのは確かだ。
「何年持つんですか?」
「五年持てばいいほうだな。基本物持ちはいいほうなのだがな」
「もうクレームつけてもいいレベルだと思うんですけど・・・武器いくつも持ってるんですか?」
「ああ。私の武器コレクションを見せてやろう」
自慢のコレクションなのか、砂楽は若干体を引き摺りながら降りた。なんでベッドなのにちょっと歩くんだろうと首を傾げるのは修鬼と夜刀とヴァルアである。
「ふむ・・・砂楽、毒は消えたが体調は良くないようだな」
「そうらしいな」
「砂楽お兄様・・・明日そのお身体で国を渡るのですか?」
「ホテルの用意とか、色々準備することがあるので一日待ってもらえませんか?」
修鬼が交渉を持ちかける。準備のために一日予定を遅らせてくれないか、と。王に直接アポイントメントをとったはいいが、残念ながらそれを国民に伝えるような王では無い。
「それもそうだな。わかった。では明日は別の仕事をするか」
「別の仕事?」
「ザイド国の国王と会食の約束をしていたのだが私の予定と合わなくてな」
「ザイド国って・・・結構貧乏じゃ」
「金を返してくれないのだ」
・・・大問題だよね
・・・それ優先事項じゃねぇか?
ザイド国はトワイライト王国に対して借金をしていたのだ。さらにいえば、貿易をしているのにも関わらずこちらは渡すばかりで相手側は何も送ってこない。メリットないですよね?と少しだけ釘を刺すための会食。
「会食って楽しいもんだと思ってたぜ・・・」
「その・・・普通その国の金融機関が貸すんじゃないんですか?」
「ザイド国が破綻しかけたのだ。その時にいくつかの国が金を貸した」
お金については砂遠もしくは砂迦の担当であるため、彼から説明を受けた。ザイド国はエネルギー源となる物質を多く保持している。それを少しでいいから分けてくれと砂楽や他国の王たちが交渉した。しかし蓋を開ければ、本当に少ししか分けてくれず、金も返さない。そろそろ脅しにでもいかなければ渡すだけでメリットゼロ。
「ストレスさらに溜まりそうな会食ですね」
「本当に疲れる。雷のセレスを発動しながら世界一周するよりも疲れる」
「したことあるのかよ」というのは砂楽と綴以外全員の心の声である。
「砂楽さん」
さて、と踵を返した砂楽に声をかけたのはキラだ。コレクションを見に行くよりも回復の方を優先してもらおうかという医者として一言告げた。キラと綴が看病し、修鬼たちは砂遠と砂迦に案内してもらうことにしたのだった。
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