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第一章―イニティウム皇国 『皇国の悪女』

6-2.双子の姉

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「……はい、お姉様」
「最近、貴女がグレンヴィル伯爵令嬢を虐めたのではという噂が広まっているのだけれど」
「そのようですね」

 アリシアは持ち歩いていた扇子で口元を隠しながら眉を下げた。
 その表情は呆れているというよりも妹を心から心配しているのだと言いたげなものだ。

「勿論事実だなんて思ってはいないけれど、貴女は昔から誤解されやすいから……。何か事情があったとしても、きちんと分かり合えるように話し合わなければ貴女が損をしてしまうわ」
「……ご忠告ありがとうございます」

 クリスティーナは改めて一礼してから今度こそその場を速足で去った。
 その後に続くリオがアリシアの横を通り抜ける際、穏やかな口調で彼女が一言添える。

「妹がいつも迷惑を掛けているみたいでごめんなさいね」
「……いいえ」

 声を掛けられ、その足を止めたリオは薄く笑みを浮かべる。

「クリスティーナ様は、アリシア様が考えていらっしゃるよりも賢いお方ですよ」
「……そう。それを聞いて安心したわ」

 双方笑みを湛えているのにも拘らず、冷めたような感情の灯らない瞳で視線を交わす。
 リオはアリシアに一礼してからクリスティーナの後を追った。



 クリスティーナは幼少期から自身の感情を表に出すことが苦手な性格であった。
 それに加えて口数は多くなく、口を開けば必ず棘のある物言いをしてしまうことからよく誤解をされることが多く、本人もそれが性分だからと交友関係を広げることに対しては早々に諦めを付けていた。

 しかし棘のある物言いで他人から距離を取ってしまうという特性は本来、公爵令嬢であるクリスティーナの家名や人脈に目を付けた人々が下心を持って幼い彼女と距離を詰めようとしたことがきっかけで生まれた産物である。結果として他者への警戒心が高まった彼女は円滑にコミュニケーションを図る能力と引き換えに他者の心情をその表情から読み取り、推し量ることが得意となったのだ。

 速足で廊下を進みながらクリスティーナはアリシアとのやり取りを思い返す。
 優しく助言を与える彼女の表情ははたから見れば不出来な妹を思いやる出来の良い姉に映ることだろう。

 しかしその翡翠の瞳が冷たく光っていたことをクリスティーナは見逃さなかった。無関心よりも嫌悪に近い感情を含んだ冷たい視線……。
 アリシアはクリスティーナと顔を合わせる時、決まって同じ目をしている。少なくとも良い感情を抱いていないだろうことが明白である故に自分に優しく接する彼女の態度の意図がわからず不信感が募ってしまう。

(やはり、苦手だわ……)

 クリスティーナは深く息を吐いた。
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