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第一章―イニティウム皇国 『皇国の悪女』

11-2.迫る窮地

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 地面に座り込んで目を回す騎士は敗北を悟ったのか、剣を手放して大人しくその言葉に従う。
 一方で先に転倒していた騎士はエリアスの隙を窺って反撃の機会を窺っていたようで地面に這いつくばりながらも己の剣との距離を詰めていた。

「動いたら……殺しはしないけどどっかしら燃やすからな」

 エリアスが炎の魔法を使えることは周知の事実である。だからこの言葉が決してはったりではないということは相手もよくわかっているはずだ。
 案の定、身の危険を察したもう一人の騎士も悪足搔きをやめてその場で両手を挙げた。

「まー、聞きたいことは色々あるけどさぁ。まず、誰からの指示なわけ」

 エリアスの問いに驚きを顕わにする二人の騎士。
 その様子に深く息を吐きながら彼は続けた。

「あのさぁ、いくらオレが頭良くないからって流石にわかるからな。気に入らないからって理由だけでほいほい暗殺を企むような騎士がいてたまるかっての。……それも無関係ってわけではないかもだけど」

 自分で言いながら虚しさを感じてしまう。
 自身が嫌われ者であることを肯定しながら話をするのはなかなか精神に来る作業だ。

「オレ、ここに配属されてからまだ半年しか経ってねーし。その短期間で命狙われる程の何かをした覚えもねーよ。だからオレ個人の命が狙われてるってより条件満たしてりゃあ誰でもよかったんじゃねーかって思ったんだけど……」

 難しいことを考えることは苦手だが、この場に味方が誰もいない以上ない頭を必死に働かせるしかないのが現状だ。剣を握っていない方の手で雑に頭を掻きながらエリアスは二人の騎士の様子を窺う。
 口を閉ざしたままではあるが目が泳いでいる様(一名は脳震盪のせいかもしれないが)を見たところ、概ね予想は外れていないようだ。

「誰かに嗾けられたとかなら自白しとけば減刑されるかもー……だけど? 詳しい話知らないから絶対じゃねーけどさぁ、話しとく気ねーの?」

 剣術ばかり極めて来たエリアスは生憎正しい尋問の方法などというものは知らない。
 これでも話す様子が見られなければ班長に引き渡して処遇は丸投げしてしまおうと思考停止をした時。脳震盪で目を回していた騎士が重々しく口を開いた。

「……わかった、話す。話せばいいんだろう」
「お」
「おい……!」
「失敗したんだしどうせ罪には問われるんだ。なら少しでも素直に話しておいた方がいい」

 意外な進展だ。
 エリアス這いつくばっている騎士を制するように睨みつけてから話を切り出した方の騎士へ視線を移し、話の先を促す。
 その視線に従うように彼は声を絞り出した。

「そうだ、確かに俺達は依頼されたし標的は騎士団の人間なら誰でもよかった。俺達に話を持ち掛けたのは――」
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