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第一章―イニティウム皇国 『皇国の悪女』
11-3.迫る窮地
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結論から言うと、エリアスは依頼主の正体を聞くことが出来なかった。
騎士が依頼主を打ち明けようとした次の瞬間――
ぴしゃり。
エリアスは唐突に鮮血を浴びる。
「……は?」
何が起こったのか理解できずに暫し呆けるエリアスの目の前で騎士が地面に突っ伏して絶命する。その頭は鼻の頂点から上を横一直線に切り離され、べちゃりと不快感を伴う音と共に地面へ滑り落ちた。
一瞬の出来事に脳内処理が追い付かず思考停止を許してしまったエリアスはしかし、未だ且つて感じたことのない程の危機感から無理矢理意識を現実へ引き戻した。
「っ、は……!」
同時に酸素供給が再開し、状況を認識し始める。
(突っ立ってる場合じゃねーだろ……! 何秒経った? もう一人は……!)
滲む汗をよそにもう一人の安否を確認する。
這いつくばっていた騎士も遅れて状況を理解したのか、悲鳴を上げて体を起こす。
生存していることに安堵しながらエリアスは周囲へ視線を巡らせる。
(目の前に立っていたのにも拘らず動きが見えなかった。ってことは十中八九魔法……遠距離か、少なくとも中距離か。剣では分が悪い)
気配に気付くことが出来なかったということは自分より格上の存在である可能性がある。むやみに応戦すべきではない。
まずは撤退し、敵の出方を窺う。追撃がある様ならば合流し戦力を底上げした上で迎撃、追いかけてくる様子がないのならすぐに報告し指示を仰ぐ……。
それがこの短時間に出したエリアスの結論であった。
しかし事態は更に悪化する。
生存している騎士へ指示を出そうとしたエリアスは背後から忍び寄る尋常ではない重圧感に体を震わせる。
もう何年と感じたことのなかった、緊張ともまた違った感情をエリアスは思い出されることになる。
恐怖。
圧倒的な力を前にした時に感じる、何をしても意味がないのではと思えるほどの無力感。
口の中はからからに乾き、柄に添えられた手は小刻みに震え、それを自覚すると同時に再び思考が白く塗りつぶされそうになるがそれでも彼の体は背後に迫る危機に対して咄嗟に動いていた。
エリアスは剣を抜きながら振り返った。
自身の正面に来るように剣を構えると同時、突風が吹き、髪を後方へ巻き込んだかと思えば彼の両の頬に亀裂が入る。
否、それだけではない。
まるでエリアスを中心に世界を上下に断裂させたかのように道を形成している両脇の壁に亀裂が入り、周囲のものが全て上下真っ二つに切り裂かれる。
どうやらエリアスが振り返ったと同時に再度魔法が放たれたようであり、咄嗟に垂直に構えた剣が地面と平行に放たれたそれを切り裂いて事なきを得た様だ。背後にいた騎士も無事である。
しかしそれは単なる偶然に過ぎない。
彼は攻撃が見えていたわけでもなければ自分が狙われていることを理解していたわけでもない。
長年洗練された基本動作が自然と現れていただけ。相手は確実に自分より格上である。
「っ、逃げろ! 応援を呼べ!」
「ひっ……!」
自分を殺そうとしていた相手が信用できるかといえば答えは否だが、互いに背を向けて逃げれば今度は間違いなく首を刎ねられることだろう。全滅してしまえば騎士団へ危険な存在を知らせることもできなくなる。
果たしてどれだけ時間を稼げるかはわからないが、もう一人より腕が立つ以上この場に残るべきは自分であろう。エリアスの言葉に我に返ったらしい騎士はどうにか立ち上がったようだ。その場を離れていく気配を感じる。
騎士が依頼主を打ち明けようとした次の瞬間――
ぴしゃり。
エリアスは唐突に鮮血を浴びる。
「……は?」
何が起こったのか理解できずに暫し呆けるエリアスの目の前で騎士が地面に突っ伏して絶命する。その頭は鼻の頂点から上を横一直線に切り離され、べちゃりと不快感を伴う音と共に地面へ滑り落ちた。
一瞬の出来事に脳内処理が追い付かず思考停止を許してしまったエリアスはしかし、未だ且つて感じたことのない程の危機感から無理矢理意識を現実へ引き戻した。
「っ、は……!」
同時に酸素供給が再開し、状況を認識し始める。
(突っ立ってる場合じゃねーだろ……! 何秒経った? もう一人は……!)
滲む汗をよそにもう一人の安否を確認する。
這いつくばっていた騎士も遅れて状況を理解したのか、悲鳴を上げて体を起こす。
生存していることに安堵しながらエリアスは周囲へ視線を巡らせる。
(目の前に立っていたのにも拘らず動きが見えなかった。ってことは十中八九魔法……遠距離か、少なくとも中距離か。剣では分が悪い)
気配に気付くことが出来なかったということは自分より格上の存在である可能性がある。むやみに応戦すべきではない。
まずは撤退し、敵の出方を窺う。追撃がある様ならば合流し戦力を底上げした上で迎撃、追いかけてくる様子がないのならすぐに報告し指示を仰ぐ……。
それがこの短時間に出したエリアスの結論であった。
しかし事態は更に悪化する。
生存している騎士へ指示を出そうとしたエリアスは背後から忍び寄る尋常ではない重圧感に体を震わせる。
もう何年と感じたことのなかった、緊張ともまた違った感情をエリアスは思い出されることになる。
恐怖。
圧倒的な力を前にした時に感じる、何をしても意味がないのではと思えるほどの無力感。
口の中はからからに乾き、柄に添えられた手は小刻みに震え、それを自覚すると同時に再び思考が白く塗りつぶされそうになるがそれでも彼の体は背後に迫る危機に対して咄嗟に動いていた。
エリアスは剣を抜きながら振り返った。
自身の正面に来るように剣を構えると同時、突風が吹き、髪を後方へ巻き込んだかと思えば彼の両の頬に亀裂が入る。
否、それだけではない。
まるでエリアスを中心に世界を上下に断裂させたかのように道を形成している両脇の壁に亀裂が入り、周囲のものが全て上下真っ二つに切り裂かれる。
どうやらエリアスが振り返ったと同時に再度魔法が放たれたようであり、咄嗟に垂直に構えた剣が地面と平行に放たれたそれを切り裂いて事なきを得た様だ。背後にいた騎士も無事である。
しかしそれは単なる偶然に過ぎない。
彼は攻撃が見えていたわけでもなければ自分が狙われていることを理解していたわけでもない。
長年洗練された基本動作が自然と現れていただけ。相手は確実に自分より格上である。
「っ、逃げろ! 応援を呼べ!」
「ひっ……!」
自分を殺そうとしていた相手が信用できるかといえば答えは否だが、互いに背を向けて逃げれば今度は間違いなく首を刎ねられることだろう。全滅してしまえば騎士団へ危険な存在を知らせることもできなくなる。
果たしてどれだけ時間を稼げるかはわからないが、もう一人より腕が立つ以上この場に残るべきは自分であろう。エリアスの言葉に我に返ったらしい騎士はどうにか立ち上がったようだ。その場を離れていく気配を感じる。
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