53 / 579
第一章―イニティウム皇国 『皇国の悪女』
19-1.二つの選択
しおりを挟む
「質問の意図がわからないので一つ目で」
意味深に選択肢を提示したセシルを涙目にしたのはクリスティーナの躊躇いない選択だった。
「わからないならせめて詳細を聞いて欲しかったなぁ……」
「今のでお話は終わりですか? 自室へ戻ります」
「待った待った! 本当に聞いてくれないの!?」
辛辣な態度に肩を落とす兄を無視して失礼しますと頭を下げ、踵を返すクリスティーナ。それを引き留めようとする情けない声が背中越しに聞こえる。
自身が話す必要性を感じるのであれば自ら話せばいいだけのことで、それだけの価値すらない話なのであればクリスティーナは耳を傾けるつもりもなかった。
しかし兄へ背を向けたクリスティーナの前に立ったのは意外にも、先ほど彼と睨み合っていたリオであった。
「クリスティーナ様、お気持ちはわかります。しかし少しだけ付き合って差し上げてください……」
「……驚いたわ。貴方はお兄様のことが嫌いだと思っていたのに」
セシルがリオを気に入っており友と呼ぶのは昔からのことだが、対する彼は日頃の外面の良さからは考えられない程セシルに対しての当たりが強かった。
それを知っている為クリスティーナは彼が兄を嫌っているのだと認識していたのだ。だから彼の肩を持つことに意外だと感じたのだが……。
「嫌いですよ」
「やっぱりそうなのね」
「聞こえてるからね!!」
本人の前であるのにもかかわらず、リオはあっさりとその事実を認めた。
誰も庇ってはくれない自身の悪口に半泣きになる兄を置いてクリスティーナは少々考え込む。
兄を毛嫌いするリオが彼の肩を持つのは、恐らく彼の為ではなく自身の……もしくは主人であるクリスティーナにメリットがあると考えているからだろう。
「当初の予定通り動くとしても時間に余裕はあります」
確かに、出立の時刻まで余裕があることを先に指摘したのはクリスティーナだ。
この後部屋へ戻ったとしても本を読んで時間を潰す程度の予定しかない。
「俺はクリスティーナ様がどのような決断をなさろうがその意思を尊重します。ただ……決断した後に後悔しない選択を取っていただきたいのです」
「貴方は私が後悔するかもしれないと考えているのね」
「……わかりません。ただ、話を聞いておけば後から不安を抱く可能性も低くなるのではと」
裏庭に用意された馬車といい、兄は自身の提示した二つ目の選択を選んで欲しいと考えているのだろうということをクリスティーナは察していた。
元より田舎での生活を望んでいたクリスティーナにとって彼の発言は愚問な上、話を聞いてやること自体が掌で転がされているような心地がして面白くはない。
しかしリオがクリスティーナにここまで食い下がることも珍しい。
「わかったわ。話を聞くだけなら」
恐らくリオはクリスティーナ以上にこの状況を理解しているはずだ。でなければ彼がクリスティーナに食い下がって進言するに至るまでの材料がない。
そしてクリスティーナは自身の予想が正しければ、数日前の夜彼が話した『今はまだ話せないこと』にこの件が絡んでいるのではないかと踏んでいた。
意味深に選択肢を提示したセシルを涙目にしたのはクリスティーナの躊躇いない選択だった。
「わからないならせめて詳細を聞いて欲しかったなぁ……」
「今のでお話は終わりですか? 自室へ戻ります」
「待った待った! 本当に聞いてくれないの!?」
辛辣な態度に肩を落とす兄を無視して失礼しますと頭を下げ、踵を返すクリスティーナ。それを引き留めようとする情けない声が背中越しに聞こえる。
自身が話す必要性を感じるのであれば自ら話せばいいだけのことで、それだけの価値すらない話なのであればクリスティーナは耳を傾けるつもりもなかった。
しかし兄へ背を向けたクリスティーナの前に立ったのは意外にも、先ほど彼と睨み合っていたリオであった。
「クリスティーナ様、お気持ちはわかります。しかし少しだけ付き合って差し上げてください……」
「……驚いたわ。貴方はお兄様のことが嫌いだと思っていたのに」
セシルがリオを気に入っており友と呼ぶのは昔からのことだが、対する彼は日頃の外面の良さからは考えられない程セシルに対しての当たりが強かった。
それを知っている為クリスティーナは彼が兄を嫌っているのだと認識していたのだ。だから彼の肩を持つことに意外だと感じたのだが……。
「嫌いですよ」
「やっぱりそうなのね」
「聞こえてるからね!!」
本人の前であるのにもかかわらず、リオはあっさりとその事実を認めた。
誰も庇ってはくれない自身の悪口に半泣きになる兄を置いてクリスティーナは少々考え込む。
兄を毛嫌いするリオが彼の肩を持つのは、恐らく彼の為ではなく自身の……もしくは主人であるクリスティーナにメリットがあると考えているからだろう。
「当初の予定通り動くとしても時間に余裕はあります」
確かに、出立の時刻まで余裕があることを先に指摘したのはクリスティーナだ。
この後部屋へ戻ったとしても本を読んで時間を潰す程度の予定しかない。
「俺はクリスティーナ様がどのような決断をなさろうがその意思を尊重します。ただ……決断した後に後悔しない選択を取っていただきたいのです」
「貴方は私が後悔するかもしれないと考えているのね」
「……わかりません。ただ、話を聞いておけば後から不安を抱く可能性も低くなるのではと」
裏庭に用意された馬車といい、兄は自身の提示した二つ目の選択を選んで欲しいと考えているのだろうということをクリスティーナは察していた。
元より田舎での生活を望んでいたクリスティーナにとって彼の発言は愚問な上、話を聞いてやること自体が掌で転がされているような心地がして面白くはない。
しかしリオがクリスティーナにここまで食い下がることも珍しい。
「わかったわ。話を聞くだけなら」
恐らくリオはクリスティーナ以上にこの状況を理解しているはずだ。でなければ彼がクリスティーナに食い下がって進言するに至るまでの材料がない。
そしてクリスティーナは自身の予想が正しければ、数日前の夜彼が話した『今はまだ話せないこと』にこの件が絡んでいるのではないかと踏んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。
享年は25歳。
周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。
25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた
ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。
今の所、170話近くあります。
(修正していないものは1600です)
俺、何しに異世界に来たんだっけ?
右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」
主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。
気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。
「あなたに、お願いがあります。どうか…」
そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。
「やべ…失敗した。」
女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!
ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主』
雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。
荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。
十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、
ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。
ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、
領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。
魔物被害、経済不安、流通の断絶──
没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。
新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる