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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

26-2.情報共有

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「……私達は仮にも今後暫く時間を共有する同士なのだけれど。もう少し詳細を聞きたいだとかそういうのはなかったのかしら」
「個人的に気になることならいくらでもありますけど……オレの仕事って剣を振るって主人を守ることなので。聞かされてないことがあろうがなかろうがそこまで変わらないんですよね」

 随分とあっさりとした返答だ。

 確かにクリスティーナが聖女であり、彼女が旅に出る手筈になっていることだけ把握していれば深く事情を聞いていなくとも護衛の仕事は成り立つのかもしれないが。
 二人という人数で聖女を守れという正直言って無理難題を突然押し付けられた人間の立場としては二つ返事で頷けるものだろうか。

 せめて詳細を聞かせて欲しいだとか守れという命令の外具体的かつ的確な指示を仰ぐだとかそういう事があるのが普通ではなかろうか。

 クリスティーナの訝しむような視線に居心地の悪さを感じたのだろう。エリアスは困ったように頭を掻いた。

「オレは頭とかそんな良くないし。話せないことの中には頭良い人達がその人なりに考えた結果のものだってあるかもじゃないですか。なので基本話してくれるまで待ってよっかなって……そういう感じです」
「……そう」
「後はその……オレ、死んでる扱いみたいなので……そもそも選択肢が実質一つだったというか……」
「……は?」

 少々品性に欠ける声が漏れてしまった。
 声音が高圧的だったのだろう。エリアスが怯える声が聞こえた。

「目が覚めたらオレは死んでて……」
「わかるように話してくれるかしら」

 詳細を聞くとエリアスはワッとべそを掻きながら話し始める。

 要約すると目が覚めて早々にセシルがやってきて二日前の顛末を本当に簡潔に説明した後、公にはアリシアが聖女の能力に目覚めて治療に当たるもエリアス・リンドバーグという騎士が死んでしまった扱いになっているという旨の話をしたらしい。

「もうオレ、騎士団から除名されてるって言われるし! 無職を避ける方法がこれしかないって言われたんですぅ……!」
「……あの公爵代理、横暴が過ぎませんか」
「お兄様……」

 自分も同じく外堀を埋められた側の人間ではあるがあまりにもぞんざいな扱いを受けた赤髪の騎士へ対して同情を禁じ得ない。

 発言がとても目上の人間に抱く感想とは思えないが、今回ばかりはリオの言葉には全面的に同意だ。疲労とは別の要因から頭痛を感じ、こめかみを押さえながらため息を吐く。
 自身が能動的に動いたわけではないものの、身内の招いた出来事である以上、多少なりとも罪悪感を抱かされる。

「クリスティーナ様をきちんと守りきったら相応の措置と報酬は用意してくれるらしいので……はい、頑張ります……」

 虚ろな目で遠くを見る騎士に掛ける言葉も思いつかず口を閉ざしていると、気にせず話し合いを始めてくれと片手を持ち上げて促される。
 クリスティーナは一つ小さく頷いて促されるがまま話題を変えた。
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