悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う

千秋颯

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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

60-3.難儀な弱点

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「お前達の話だと、その時の僕は今と姿が違ったんだろう。なら素顔はわかり辛かったはずだ。多少視線が外れていても違和感は抱きにくかったのかもな」
「そもそも初めから視線を外していたという事ね」
「それしか考えられないな。どんな姿をしていようと僕の性分が変わることはないし」
「そう」

 確かに以前の彼は仮面をつけていた。仮面から瞳の色は確認できたもののその視線の先まで明確に認識できていたかと言えば否だ。
 彼の言い分では目が合わないように工夫していたという事らしく、それが事実ならば彼と初めて会った時にクリスティーナが何かしてしまったという訳でもなさそうだ。
 そして元からこの性格で変えようがないと言われてしまえばクリスティーナにどうこうできる問題でもないだろう。

「……わかったわ。不服だけど、ここで物申しても時間の無駄だもの」
「悪いね。彼も君に何か思うことがある訳ではない。それは本当だよ」
「難儀だなぁ」

 クリスティーナとリオの後方で一連の流れを見守っていたエリアスが哀れむようにオリヴィエを見る。
 そこでふと思うことがあったのか、彼はそういえばと手を打った。

「じゃ、戦闘時は問題ないって事か」
「ん?」
「ほら、オリヴィエの魔法って触れたものにしか効かないって話だけど、さっきは魔族の動き止めてくれたじゃん。だから私情に左右されない、メリハリつけられるタイプなのかなって思ったんだけど……あれ」

 クリスティーナはふとベルフェゴールの姿を思い出す。
 彼女と相対したのはほんの一瞬であったが、その見た目は明らかに少女たるものであった。
 オリヴィエがベルフェゴールとの戦いに手を貸したのだとすれば、勿論彼女と接触したことになる。

 視線が一斉にオリヴィエへ集まる。
 エリアスが途中で話すのをやめたのは彼の異変に気付いたからだろう。

「霧濃かったし……というか余裕なくて全然見てなかった、けど……待てよ」

 彼は見る見るうちに顔に大量の冷や汗を掻き、最早溶岩のように赤くなる。
 冷静さを取り持とうと努力をしているつもりなのか、小刻みに震えた手で眼鏡を押し上げる素振りを繰り返すその姿は逆に忙しない。

「という事はあ、あれ……ぼ、僕、もしかして女性の…………」

 眼鏡を押し上げていない方の手を凝視している彼は脳の処理速度が限界を迎えたらしい。
 ほんの一瞬、全ての動きが停止したかと思えばオリヴィエは勢いよく仰向けに倒れ込んだのだ。

「だ、大丈夫か!?」
「あーあーあ」
「この方、予想の数倍は面倒臭そうですよ」

 情けない顔のまま鼻血を噴き出し、目を回す青年を見下ろすリオの言葉にクリスティーナは内心で激しく同意した。
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