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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

92-2.身内の陰謀

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「六人って?」
「リヴィを呼んだのさ。人は多い方がいいし、彼も今回の件の功労者だろう?」

 テーブルを移動させるノアへ問うとあっさりと答えが返ってくる。

「……誘ったところで来たがるとは思えないのだけれど」

 クリスティーナは今まで目の当たりにしてきたオリヴィエの態度や言動を思い出し、苦い顔をする。
 彼からは昨晩苦言を呈されたばかりであるし、そもそも深い関わりにない相手と進んで飲み交わすような人物であるようにも思えない。

 そう思っての言葉をノアは笑い飛ばした。

「確かにね。馬鹿正直に言えば彼は来ないだろう」
「貴方まさか……」
「何、俺は久しぶりに食事でもどうかと誘っただけだよ」

 クリスティーナの言わんとしていることを肯定するように彼は悪戯っぽく笑みを深める。
 嘘は吐いていないだろうというのが彼の主張なのだろう。その誘い方であれば親しき間柄であるらしい彼も応じるかもしれない。
 だが、同行者がいるという肝心な部分が伏せられている。これでは何も知らずにやってきた彼とクリスティーナ達が気まずい思いをするのは明白だ。

 確かにベルフェゴールとの件で彼が大いに貢献した事実はあるし、除け者のように扱うのもおかしな話ではあるだろうが、何も無理に引き合わせる必要もないだろうに。
 そんな思いの元、クリスティーナは物言いたげな顔でノアを睨みつける。

「大丈夫だよ。君達が本当に嫌がるなら俺もこんな無茶はしないし、彼に対しても同様だ。本当に嫌なら彼ははっきり断るだろうし、それは直にわかることだよ」

 確かにオリヴィエの物言いははっきりとしたものであるし、変に相手を気遣うような性格ではないように思える。
 そしてクリスティーナもまた、気まずい空気になることが厄介だとは思うものの避けたいと思う程彼を嫌悪している訳でもなかった。

 どの道誘ってしまったものは取り消しようもない。
 後のことは本人がやって来た後に当人同士でなんとかしてもらおうという考えが過ったその時。
 タイミングよく入口のベルが鳴った。

 ローブのフードを深く被った客人が一人。
 彼は室内へ足を踏み入れると同時にそのフードを取っ払った。

「お、噂をすれば」

 受付の女将と必要最低限の会話を交わした彼はその途中で自分へ手を振る存在に気付き、そちらを見やる。
 そしてそこでぴたりと動きを止めた。

 友人の顔に紛れて居座るクリスティーナ達の姿を見つけた彼は黄緑の瞳を見開き、酸素を求める魚のように口を何度も開閉させる。
 そして自身の動揺を押し殺すように眼鏡を押し上げてから深々とため息を吐いた。

「謀ったな……ッ!」

 オリヴィエはへらへらとした笑みを浮かべ続ける友人を睨みつけた。
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