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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
epilogue2-3.幸先不安な移動
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二人のやり取りを見守っていたエリアスはクリスティーナの身分と悪評を知っていることもあってか、凍り付いた空気に小さな悲鳴を上げた。
間違っても主人の地雷を踏むことがない様にと顔を青くさせながら息を呑むエリアスだったが、今のクリスティーナの眼中に彼の存在はない。
「お前だってあの程度の魔物を倒すことくらい出来るだろう。どれだけ大層なご身分かは知らないが、自分は働かなくて当然という態度を取っている時点で僕に指図できる立場ではないんじゃないか」
押し黙るクリスティーナへとオリヴィエは言葉による猛攻を更に続ける。
そこで二人が言い合いを繰り広げている間、道を塞いでいた魔物の死骸を移動させたり商人の安否を確認していたリオが途中で自分へ向けられている視線に気付き、馬車の荷台へと顔を向けた。
「……何事ですか」
一目見てわかる程凍えた空気と、今にも泣きだしそうなエリアスが助けを求めるように向ける視線。
ハンカチで返り血を拭っていたリオは速足で荷台へと戻り、状況を窺う。
しかしオリヴィエはそっぽを向いたまま口を閉ざしており、エリアスはあまりの狼狽具合に冷静に説明できる状況ではなさそうだ。
クリスティーナはというと口を引き結んだまま俯いており、その両手はきつく握りしめられている。
「……お嬢様?」
どうしたのかとクリスティーナの顔を覗き込んだリオはそこで目を見開いたまま固まってしまう。
「お、お嬢様……」
「次は私が出るわ」
「はい?」
クリスティーナは肩を小刻みに震わせながら呟く。
先程までの話の流れを知らないリオは何の話をしているのかと聞き返す。
「次、魔物が現れたら私が出るわ」
「え? どうして急にそんな話に……?」
言い直されたことで漸く主人の言葉を理解するも、今度は予想外の話題の方向性に狼狽えてしまう。
困惑を隠せない従者が再び聞き返すも、クリスティーナはそれ以上話そうとしない。
「え、駄目ですよ? ……お嬢様? 聞いてますか……!?」
何とか諭そうと声を掛けようとも耳を傾けようとしない主人の態度にリオはほとほと困り果てる。
今は何を言っても聞いてくれないだろうことを悟ったリオは仕方なくエリアスへと近づくとこっそり耳打ちした。
「何がどうしてこんな流れになったんですか。お嬢様が滅多になさらない形相をしていらっしゃるのですが」
「ひぇ……っ、やっぱめちゃくちゃ怒ってるのか……!?」
未だ飛び火に怯えて縮こまる騎士が同じく耳打ちを返す。
リオはエリアスの問いにどう答えたものかと考えつつ、主人の様子をこっそりと盗み見る。
「激昂というよりは……そうですね……」
困ったように眉を下げ、リオはため息を吐く。
「五歳くらいを境に見られなくなった、怒りと羞恥で泣きたくなっている複雑な感情を無理矢理堪えているようなお顔をなさってます」
「予想の数倍は具体的な例えでビビったんだけど。ってかそんな時の気持ち冷静に分析されたくねーよ」
冷え切った空気の中、口を閉ざす二人と主人の様子を窺いながらひそひそと相談をする護衛達。
そんな四人を乗せて、馬車は再び動き始めた。
旅の再開は最悪な空気を伴って幕を開ける。
あまりにも不安な幸先に、護衛の二人は小さく息を吐いたのであった。
間違っても主人の地雷を踏むことがない様にと顔を青くさせながら息を呑むエリアスだったが、今のクリスティーナの眼中に彼の存在はない。
「お前だってあの程度の魔物を倒すことくらい出来るだろう。どれだけ大層なご身分かは知らないが、自分は働かなくて当然という態度を取っている時点で僕に指図できる立場ではないんじゃないか」
押し黙るクリスティーナへとオリヴィエは言葉による猛攻を更に続ける。
そこで二人が言い合いを繰り広げている間、道を塞いでいた魔物の死骸を移動させたり商人の安否を確認していたリオが途中で自分へ向けられている視線に気付き、馬車の荷台へと顔を向けた。
「……何事ですか」
一目見てわかる程凍えた空気と、今にも泣きだしそうなエリアスが助けを求めるように向ける視線。
ハンカチで返り血を拭っていたリオは速足で荷台へと戻り、状況を窺う。
しかしオリヴィエはそっぽを向いたまま口を閉ざしており、エリアスはあまりの狼狽具合に冷静に説明できる状況ではなさそうだ。
クリスティーナはというと口を引き結んだまま俯いており、その両手はきつく握りしめられている。
「……お嬢様?」
どうしたのかとクリスティーナの顔を覗き込んだリオはそこで目を見開いたまま固まってしまう。
「お、お嬢様……」
「次は私が出るわ」
「はい?」
クリスティーナは肩を小刻みに震わせながら呟く。
先程までの話の流れを知らないリオは何の話をしているのかと聞き返す。
「次、魔物が現れたら私が出るわ」
「え? どうして急にそんな話に……?」
言い直されたことで漸く主人の言葉を理解するも、今度は予想外の話題の方向性に狼狽えてしまう。
困惑を隠せない従者が再び聞き返すも、クリスティーナはそれ以上話そうとしない。
「え、駄目ですよ? ……お嬢様? 聞いてますか……!?」
何とか諭そうと声を掛けようとも耳を傾けようとしない主人の態度にリオはほとほと困り果てる。
今は何を言っても聞いてくれないだろうことを悟ったリオは仕方なくエリアスへと近づくとこっそり耳打ちした。
「何がどうしてこんな流れになったんですか。お嬢様が滅多になさらない形相をしていらっしゃるのですが」
「ひぇ……っ、やっぱめちゃくちゃ怒ってるのか……!?」
未だ飛び火に怯えて縮こまる騎士が同じく耳打ちを返す。
リオはエリアスの問いにどう答えたものかと考えつつ、主人の様子をこっそりと盗み見る。
「激昂というよりは……そうですね……」
困ったように眉を下げ、リオはため息を吐く。
「五歳くらいを境に見られなくなった、怒りと羞恥で泣きたくなっている複雑な感情を無理矢理堪えているようなお顔をなさってます」
「予想の数倍は具体的な例えでビビったんだけど。ってかそんな時の気持ち冷静に分析されたくねーよ」
冷え切った空気の中、口を閉ざす二人と主人の様子を窺いながらひそひそと相談をする護衛達。
そんな四人を乗せて、馬車は再び動き始めた。
旅の再開は最悪な空気を伴って幕を開ける。
あまりにも不安な幸先に、護衛の二人は小さく息を吐いたのであった。
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