悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う

千秋颯

文字の大きさ
320 / 579
第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

epilogue2-3.幸先不安な移動

しおりを挟む
 二人のやり取りを見守っていたエリアスはクリスティーナの身分と悪評を知っていることもあってか、凍り付いた空気に小さな悲鳴を上げた。
 間違っても主人の地雷を踏むことがない様にと顔を青くさせながら息を呑むエリアスだったが、今のクリスティーナの眼中に彼の存在はない。

「お前だってあの程度の魔物を倒すことくらい出来るだろう。どれだけ大層なご身分かは知らないが、自分は働かなくて当然という態度を取っている時点で僕に指図できる立場ではないんじゃないか」

 押し黙るクリスティーナへとオリヴィエは言葉による猛攻を更に続ける。

 そこで二人が言い合いを繰り広げている間、道を塞いでいた魔物の死骸を移動させたり商人の安否を確認していたリオが途中で自分へ向けられている視線に気付き、馬車の荷台へと顔を向けた。

「……何事ですか」

 一目見てわかる程凍えた空気と、今にも泣きだしそうなエリアスが助けを求めるように向ける視線。
 ハンカチで返り血を拭っていたリオは速足で荷台へと戻り、状況を窺う。

 しかしオリヴィエはそっぽを向いたまま口を閉ざしており、エリアスはあまりの狼狽具合に冷静に説明できる状況ではなさそうだ。
 クリスティーナはというと口を引き結んだまま俯いており、その両手はきつく握りしめられている。

「……お嬢様?」

 どうしたのかとクリスティーナの顔を覗き込んだリオはそこで目を見開いたまま固まってしまう。

「お、お嬢様……」
「次は私が出るわ」
「はい?」

 クリスティーナは肩を小刻みに震わせながら呟く。
 先程までの話の流れを知らないリオは何の話をしているのかと聞き返す。

「次、魔物が現れたら私が出るわ」
「え? どうして急にそんな話に……?」

 言い直されたことで漸く主人の言葉を理解するも、今度は予想外の話題の方向性に狼狽えてしまう。
 困惑を隠せない従者が再び聞き返すも、クリスティーナはそれ以上話そうとしない。

「え、駄目ですよ? ……お嬢様? 聞いてますか……!?」

 何とか諭そうと声を掛けようとも耳を傾けようとしない主人の態度にリオはほとほと困り果てる。
 今は何を言っても聞いてくれないだろうことを悟ったリオは仕方なくエリアスへと近づくとこっそり耳打ちした。

「何がどうしてこんな流れになったんですか。お嬢様が滅多になさらない形相をしていらっしゃるのですが」
「ひぇ……っ、やっぱめちゃくちゃ怒ってるのか……!?」

 未だ飛び火に怯えて縮こまる騎士が同じく耳打ちを返す。
 リオはエリアスの問いにどう答えたものかと考えつつ、主人の様子をこっそりと盗み見る。

「激昂というよりは……そうですね……」

 困ったように眉を下げ、リオはため息を吐く。

「五歳くらいを境に見られなくなった、怒りと羞恥で泣きたくなっている複雑な感情を無理矢理堪えているようなお顔をなさってます」
「予想の数倍は具体的な例えでビビったんだけど。ってかそんな時の気持ち冷静に分析されたくねーよ」

 冷え切った空気の中、口を閉ざす二人と主人の様子を窺いながらひそひそと相談をする護衛達。
 そんな四人を乗せて、馬車は再び動き始めた。

 旅の再開は最悪な空気を伴って幕を開ける。
 あまりにも不安な幸先に、護衛の二人は小さく息を吐いたのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主』

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

【完結】辺境の魔法使い この世界に翻弄される

秋.水
ファンタジー
記憶を無くした主人公は魔法使い。しかし目立つ事や面倒な事が嫌い。それでも次々増える家族を守るため、必死にトラブルを回避して、目立たないようにあの手この手を使っているうちに、自分がかなりヤバい立場に立たされている事を知ってしまう。しかも異種族ハーレムの主人公なのにDTでEDだったりして大変な生活が続いていく。最後には世界が・・・・。まったり系異種族ハーレムもの?です。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

処理中です...