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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
144-2.孤高で傲慢な嫌われ者
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「おい、いつまでそうしてるんだ。他にも来る前に早く立て」
「あ、えっと、その……」
血に塗れたまま鋭く向けられた視線に委縮したシャルロットは声を掛けられて漸く立ち上がろうとするが、体は思う様に持ち上がらない。
先程の恐怖を体が覚えているのか、足の震えが止まらず立ち上がることすらままならなくなってしまったようであった。
「ごめんなさい、腰が抜けちゃったみたいで……」
「は? そんなんでよく演習に参加できたな」
「返す言葉もないです……はい」
「はぁ……」
顔を顰めるオリヴィエからシャルロットは視線を落とす。
情けないやら友人から見捨てられてしまった悲しさやらで俯いたまま何も言えずにいると、ふと目の前に手が差し出される。
「ほら」
「え?」
「……動けないんだろう。僕が運ぶ」
噂から得る印象からは予測できなかった厚意に思わず目を丸くする。
その意外だと言わんばかりの表情に気を損ねたのだろう。オリヴィエは眉を顰めた。
「生憎、他人であろうと無暗に魔物の餌にするような趣味はない。……お前達は揃いも揃って僕のことを何だと思ってるんだ」
早くしろと急かす様に差し伸べられた手が揺らされる。
血に塗れ、汚れた手。だが、縋るには十分すぎる程心強い手だ。
シャルロットは促されるがままに彼の掌へと自身の手を伸ばした。
――そして互いの手が触れ合った時。
(……震えてる?)
シャルロットは相手の手が震えていることに気付いた。
重なった手からオリヴィエの顔へと視線を移す。するとシャルロットを視界に入れることを拒むように顔を限界まで背けた彼の姿があった。
「貴方、もしかして」
「こっちを見るな」
「……女の子が苦手とか、ある?」
遮るように挟まれた声を無視してシャルロットは問いかける。
返されたのは沈黙だ。だが気まずそうに苦々しく引き結ばれた唇が全てを物語っていた。
「ふ……っ、あははっ!」
「……笑うな!」
図星だと言わんばかりの素直な反応に思わず声を上げて笑ってしまう。
オリヴィエはそれに対し声を荒げたが、彼がどれだけ凄もうとシャルロットの内に渦巻いていた彼への恐怖心は完全に消え去っていた。
不貞腐れた態度のオリヴィエの魔法で宙を漂う様に移動をしながらも彼女の笑いが落ち着くのには時間を要し、それに対してオリヴィエは嫌味をいくつも吐き出す。
その様は孤高の天才などではなく、どちらかと言えば幼い少年みたいであった。
自分達と変わらない人としての一面を見たからか、シャルロットの中には一つの好奇心が芽生えていた。
何故自分を助けてくれたのか、本当に噂程酷い性格なのか、澄ました態度の裏にどんな姿を隠しているのか。
一度生まれた興味はなかなか冷めない。苛立ちながらも手を差し伸べてくれた彼の考えをもっと知りたい。
そんな思いからシャルロットは半ば無理矢理オリヴィエとの接触を試みるようになったのだった。
「あ、えっと、その……」
血に塗れたまま鋭く向けられた視線に委縮したシャルロットは声を掛けられて漸く立ち上がろうとするが、体は思う様に持ち上がらない。
先程の恐怖を体が覚えているのか、足の震えが止まらず立ち上がることすらままならなくなってしまったようであった。
「ごめんなさい、腰が抜けちゃったみたいで……」
「は? そんなんでよく演習に参加できたな」
「返す言葉もないです……はい」
「はぁ……」
顔を顰めるオリヴィエからシャルロットは視線を落とす。
情けないやら友人から見捨てられてしまった悲しさやらで俯いたまま何も言えずにいると、ふと目の前に手が差し出される。
「ほら」
「え?」
「……動けないんだろう。僕が運ぶ」
噂から得る印象からは予測できなかった厚意に思わず目を丸くする。
その意外だと言わんばかりの表情に気を損ねたのだろう。オリヴィエは眉を顰めた。
「生憎、他人であろうと無暗に魔物の餌にするような趣味はない。……お前達は揃いも揃って僕のことを何だと思ってるんだ」
早くしろと急かす様に差し伸べられた手が揺らされる。
血に塗れ、汚れた手。だが、縋るには十分すぎる程心強い手だ。
シャルロットは促されるがままに彼の掌へと自身の手を伸ばした。
――そして互いの手が触れ合った時。
(……震えてる?)
シャルロットは相手の手が震えていることに気付いた。
重なった手からオリヴィエの顔へと視線を移す。するとシャルロットを視界に入れることを拒むように顔を限界まで背けた彼の姿があった。
「貴方、もしかして」
「こっちを見るな」
「……女の子が苦手とか、ある?」
遮るように挟まれた声を無視してシャルロットは問いかける。
返されたのは沈黙だ。だが気まずそうに苦々しく引き結ばれた唇が全てを物語っていた。
「ふ……っ、あははっ!」
「……笑うな!」
図星だと言わんばかりの素直な反応に思わず声を上げて笑ってしまう。
オリヴィエはそれに対し声を荒げたが、彼がどれだけ凄もうとシャルロットの内に渦巻いていた彼への恐怖心は完全に消え去っていた。
不貞腐れた態度のオリヴィエの魔法で宙を漂う様に移動をしながらも彼女の笑いが落ち着くのには時間を要し、それに対してオリヴィエは嫌味をいくつも吐き出す。
その様は孤高の天才などではなく、どちらかと言えば幼い少年みたいであった。
自分達と変わらない人としての一面を見たからか、シャルロットの中には一つの好奇心が芽生えていた。
何故自分を助けてくれたのか、本当に噂程酷い性格なのか、澄ました態度の裏にどんな姿を隠しているのか。
一度生まれた興味はなかなか冷めない。苛立ちながらも手を差し伸べてくれた彼の考えをもっと知りたい。
そんな思いからシャルロットは半ば無理矢理オリヴィエとの接触を試みるようになったのだった。
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