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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
156-1.企ての恐れ
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今後の方針の擦り合わせを終え、席を立ったクリスティーナ達はディオンに先導され、階段を上っていく。
ディオンの後ろ姿を見上げながらクリスティーナは声を掛ける。
「そういえば、彼とは何を言い合っていたの?」
「んぁ?」
「私達が来た時の事よ」
「ああ、ニコラか」
クリスティーナの言う『彼』が誰のことを指すのかがわからず聞き返される声。
それの意味を察したクリスティーナは言葉を足す。
そこで『彼』がオリヴィエのことを指しているのだと思い至ったらしいディオンが納得する様に頷いた。
「ジョゼフ・ド・オリオールが二日後に開かれる民間オークションに自身の所持する古代魔導具の一部を出品することを知って、自分が乗り込むと言い出したんだ」
「旦那様が民間のオークションに……?」
「ああ。自分主催のオークションでしか所有物を見せなかった奴が民間オークションでも動きを見せるのは今までにないケースだ」
「富裕層の中でも上位の者を招待して行われる旦那様のオークションと民間オークションなら競りの相場も前者の方が比べ物にならない程高くつくのは明らか……。何かしらの考えがあると見ていいですね」
どうやら初耳であったらしいジルベールは驚きを滲ませながらも状況を冷静に分析する。
館の者にも秘匿にした上で行われる出品。更に損失が目に見えている選択であるとなれば考えなしやただの気分で動いているとは到底考えられない。
「そうオレも伝えたんだがなぁ。特にあいつはジョゼフ関連の魔導具を回収する際、毎度陽動役として動いていることもあって奴に一番敵視されていると言っても過言じゃあない。今回のがニコラを誘き寄せる為の罠である可能性だって十分にある」
「しかし、あの様子だと納得されていなかった様ですが」
「あいつは頭が固いからなぁ。一度やると決めたことを曲げるのは難しいだろうし、結局オレらがあいつに合わせてやる形になるだろうな。……何事もなければいいんだが」
ディオンがぼやいた時、一行は階段を上りきる。
出入口の扉の前には退屈そうに壁へ凭れ掛かるヴィートがいた。
「もう帰るの?」
あどけない顔の少年はワイヤーのような物で作られた輪に持ち手を加えたような不思議な道具を口元に当てながら声を掛ける。
そこから漏れるのは見た目に反した低く濁った声。行きに案内を買って出てくれた時の声ではなく、中へ招かれる前に扉を隔ててジルベールと問答を繰り返していた声だ。
「おい、ヴィート。それは仕事道具なんだから、遊び道具にするなって言ってるだろ」
「ごめんなさーい! 自分の声が変わるのが新鮮でさぁ」
道具を口元から離しながら、ヴィートは悪びれなく謝る。
その声は変声期を終えていない少年の物へとすぐさま変化する。
彼が持っているのは声音を変える魔導具の一種なのだろう。ジルベールと応対していた声はどうやら道具によって偽られたものであったらしい。
「全く……。やんちゃして無くしたり壊したりするなよ」
「しないしない。おっさんキレるとマジで怖いし」
魔導具をポケットへしまい込み、扉を開ける。
そしてヴィートはクリスティーナ達へ道を譲る様に一歩後ろへ下がった。
ディオンも彼の傍で足を止めると、クリスティーナ達を見送る姿勢を取る。
「じゃ、何かわかったらまた来てくれ。ここを通るには少々厄介な問答があるが……そいつがいれば大丈夫だろう」
そいつ、とディオンが顎で示したのはジルベール。
彼は小さく頷きを返した。
ディオンの後ろ姿を見上げながらクリスティーナは声を掛ける。
「そういえば、彼とは何を言い合っていたの?」
「んぁ?」
「私達が来た時の事よ」
「ああ、ニコラか」
クリスティーナの言う『彼』が誰のことを指すのかがわからず聞き返される声。
それの意味を察したクリスティーナは言葉を足す。
そこで『彼』がオリヴィエのことを指しているのだと思い至ったらしいディオンが納得する様に頷いた。
「ジョゼフ・ド・オリオールが二日後に開かれる民間オークションに自身の所持する古代魔導具の一部を出品することを知って、自分が乗り込むと言い出したんだ」
「旦那様が民間のオークションに……?」
「ああ。自分主催のオークションでしか所有物を見せなかった奴が民間オークションでも動きを見せるのは今までにないケースだ」
「富裕層の中でも上位の者を招待して行われる旦那様のオークションと民間オークションなら競りの相場も前者の方が比べ物にならない程高くつくのは明らか……。何かしらの考えがあると見ていいですね」
どうやら初耳であったらしいジルベールは驚きを滲ませながらも状況を冷静に分析する。
館の者にも秘匿にした上で行われる出品。更に損失が目に見えている選択であるとなれば考えなしやただの気分で動いているとは到底考えられない。
「そうオレも伝えたんだがなぁ。特にあいつはジョゼフ関連の魔導具を回収する際、毎度陽動役として動いていることもあって奴に一番敵視されていると言っても過言じゃあない。今回のがニコラを誘き寄せる為の罠である可能性だって十分にある」
「しかし、あの様子だと納得されていなかった様ですが」
「あいつは頭が固いからなぁ。一度やると決めたことを曲げるのは難しいだろうし、結局オレらがあいつに合わせてやる形になるだろうな。……何事もなければいいんだが」
ディオンがぼやいた時、一行は階段を上りきる。
出入口の扉の前には退屈そうに壁へ凭れ掛かるヴィートがいた。
「もう帰るの?」
あどけない顔の少年はワイヤーのような物で作られた輪に持ち手を加えたような不思議な道具を口元に当てながら声を掛ける。
そこから漏れるのは見た目に反した低く濁った声。行きに案内を買って出てくれた時の声ではなく、中へ招かれる前に扉を隔ててジルベールと問答を繰り返していた声だ。
「おい、ヴィート。それは仕事道具なんだから、遊び道具にするなって言ってるだろ」
「ごめんなさーい! 自分の声が変わるのが新鮮でさぁ」
道具を口元から離しながら、ヴィートは悪びれなく謝る。
その声は変声期を終えていない少年の物へとすぐさま変化する。
彼が持っているのは声音を変える魔導具の一種なのだろう。ジルベールと応対していた声はどうやら道具によって偽られたものであったらしい。
「全く……。やんちゃして無くしたり壊したりするなよ」
「しないしない。おっさんキレるとマジで怖いし」
魔導具をポケットへしまい込み、扉を開ける。
そしてヴィートはクリスティーナ達へ道を譲る様に一歩後ろへ下がった。
ディオンも彼の傍で足を止めると、クリスティーナ達を見送る姿勢を取る。
「じゃ、何かわかったらまた来てくれ。ここを通るには少々厄介な問答があるが……そいつがいれば大丈夫だろう」
そいつ、とディオンが顎で示したのはジルベール。
彼は小さく頷きを返した。
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