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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

201-3.浅はかな罠と胸騒ぎ

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 そして取締局が新たな方法を模索していた際、協力を申し出たのがオリヴィエだ。彼の空を飛ぶ手段は逃走に於いて非常に有用であり、陽動役としての適性があった。

 彼の協力によって取締局はオークション商品の回収の手段をいくつか手に入れることが出来た。
 まず、時間的猶予が増えた。競りが終わるまでにオリヴィエが舞台へ上がり込み、商品を回収さえできれば無理に保管場所から盗む必要がなくなったのだ。

 『遊翼の怪盗』による被害を何度も被っているジョゼフ等は暫くしてから落札者が確定するまでは本物を隠しておく、今回と同じ手段を用いたがそれについても対策は成されている。

 オリヴィエは裏方を引っ掻き回し、更に壇上で人目を惹く。そうすれば誰もがその目立つ侵入者へ注目せざるを得ない。
 舞台上に本物が存在する場合は彼自身が盗み出し、裏方に本物が隠されている場合にはオリヴィエが引き起こした混乱に乗じて別の仲間が回収をする。そういう手筈で今までやって来たのだ。

 そして今回は後者であった。民間オークション側で対策がされ始めた事に多少の意外性はあったがそれまでの事。
 今回の画策は予想外の事でも何でもないのだ。

「だから安心してくれたまえ。本物もきちんと私が頂いて行くからね」

 耳元で意地悪く囁く声。それに対し司会者が反発を示そうと暴れ回るが、程なくしてハンカチに染み込ませていた睡眠薬の効果が表れ、彼を眠りへと誘った。

(ジョゼフ・ド・オリオールの入れ知恵か。……だが、これが罠のつもりならあまりにも浅はかだぞ)

 自らが仕掛け、何度も失敗している手段を今更他者に教えたとて、それが打破されない可能性の方が低い。それはジョゼフ自身が良くわかっているはずである。
 ならばまだ何か仕掛けがあるのかもしれないと考えるのが妥当である。オリヴィエは周囲を警戒し、気を引き締めた。

(国家魔導師らの件もある。奴らは怪盗の存在を聞きつけ、その正体に辿り着いたからこそこの街へやって来たはずだ。……ジョゼフ・ド・オリオールだけを警戒すれば済む話ではないというのが厄介だな)

 体から力が抜け、行けに倒れ伏した司会者を見下ろしながらオリヴィエは深く息を吐いた。
 やがて煙が晴れる。

 その頃には彼の憂える顔は、どこか胡散臭さを感じる微笑へとすり替えられていた。

「レディース・アンド・ジェントルメン。どうか貴方方の楽しみを奪う事を許して欲しい」

 オリヴィエは客席へ向かって深々と頭を下げた。
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