あなたがいいって言わせてほしい

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「うん……完璧、可愛い!」

 不機嫌そうな廉を何とかなだめ、せっかくの休みなので予約していた美容院に来た。

「それって僕が?それとも髪型の話です?」

 常連という程ではないけれど、何度か担当してくれている美容師さんに褒められるとお世辞だとしても嬉しい。

「うふふ、どっちも~!涼音くんの写真SNSにあげていい?」
「いいですよ、可愛く撮ってくださいね」
「大丈夫、涼音くんどう撮っても可愛いから!前回のもさ、SNSですっごい反響あったんですよ~見てくれました?」
 
 そういや見てないなと首を横に振ると、ほら!と前回のビフォーアフターの動画を見せてくれた。確かにすごい数のいいねやたくさんのコメントが書かれている。

「でもこれ、美容師さんが有名だからじゃないんですか?」
「正直それもあるけど、でも過去一可愛いってバズったよ~」
「そうなんだ……照れますね」

 とは言え見ず知らずの人間からの好意なんてどうだっていい。マイナスな印象を持たれるよりはプラスの方がいいのは間違いないけど。

 性別がオメガだってだけで、人に好かれようと顔色伺ったらさらに舐められるって実体験で学んだから、それに気づいてからは常識の範囲内で好きにやっている。

「オッケー!じゃああっちでお会計お願いします」
「はーい」

 何枚か写真を撮られて、それらがSNSに載っても大丈夫か確認した上でお会計をした。カットとカラーとサービスでツヤツヤになるトリートメントをしてもらったからか、さすがに今日の僕はいつもより可愛い。

「ありがとうございました~!これからはると遊ぶんだよね?そろそろ頭プリンになるからお前も染めに来いって伝えておいて。弟をよろしくね」
「うん、伝えておきます。ありがとうございました」

 出口まで見送られてビルの階段を降りる。弟的には兄の美容院で染めてもらうのは恥ずかしいんだよ~だから最近は別のとこ通ってる、と以前晴が言っていた気もするけど……まあ伝えるだけ伝えるか。

 久々に美容院に行ったので視界がすごく良好。前髪はそんなに切ってないけど。

 僕の場合、背も低いしなによりオメガだとすぐわかる見た目なので、黒髪だったり服装が地味だったりしただけでやれ「お前みたいな奴相手にしてもらえないだろ?抱いてやるよ」などと舐められがちだ。なので髪を染めたり服を考えたり、必然とおしゃれというものを学ぶことになっている。

 今回は春なのでピンクにしとくね!と本当に桜みたいな色にしてもらった。髪も服もあんまりやりすぎると逆に「そんな派手な格好してるってことはビッチなんだろ?」だの「で、いくら?」だのなんだのと言われるので塩梅も難しいところだ。

 一応そういう奴とは目を合わせないように前髪だけ若干長くしてるけど。意味はあんまりないみたいだ、だって……

「ねえ君、今暇?可愛いね、良かったら俺らとお茶しない?」

 友人との待ち合わせ場所でスマホを弄っていただけで、声をかけられたのだから。


 
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