自殺探偵 刹那

玻璃斗

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投身自殺

第4章 首吊り自殺 5

「う、うえぇぇ……」

校舎一階の端。

警備室から遠く離れた女子トイレから嗚咽に似たような声が漏れていた。

その声を出した少女はトイレ内に設置された洗面台に手をつき項垂れた。

き、気持ち悪い……

少女は襲いくる頭痛に耐えながら酸っぱくなった口をゆすぎ目の前にあった鏡を見つめた。

黒色の瞳に毛先が跳ね茶色がかった黒髪。

そして鏡に写し出された顔は血の気が引き青白くなっていた。

まあ、当然といえば当然だ。

何てったって死体を目にしたのだから。

刹那は冷たくなった警備員の体に触れていたりしていたが私にはその姿を直視することさえ堪らなかった。

葬式で何度か死んだ人見たことあったがあれはそれとは違う。

垂れ下がった二度と動かない手足に生気が抜かれた瞳。


死を目の当たりにした瞬間だった。


少女は再び襲ってきた吐き気に思わず口元を手で覆う。


「大丈夫ですの?」

その時入口のほうから聞き覚えのある声が聞こえた。


ーーーー
ーーーーーー
ーーーーーーーー



「た、他殺って本当ですか?」

探が動揺しながら詰め寄ると刹那は静かに頷いた。

「ああ、警備員は誰かに殺されたんだ」
「で、でもどうしてそんなことわかるんですか。遺体を少し見ただけなのに……」
「それぐらいで大体のことはわかる。まず不自然だと思ったのは眼瞼結膜と眼球結膜にあった溢血点だ」
「溢血点ってなんですか?」
探は刹那が口にした言葉に首を傾げた。
その様子を見て刹那は肩をすくめると自分の右目を指差した。

「溢血点とは毛細血管が破綻することによって生じる点状の出血だ。つまり眼瞼結膜と眼球結膜にあった溢血点とはまぶたや眼球に生じた赤い点のこと。これは主に窒息死した場合見られる」
「ならおかしくないじゃないですか。警備員さんは首吊りによる窒息死だったんですから」

東根の死因は頚部圧迫による窒息死。
つまりロープによって首がしまったため呼吸ができず死んだということだ。
刹那が言っている溢血点が出ていても何らおかしいことはない。

しかし刹那は首を左右に振った。

「いや、これは非定型縊死で出るものであって定型縊死ではほとんど現れない」
「あ、あの縊死って首吊りで死んだってことですよね。定型縊死と非定型縊死ってなんですか?」
探は聞き覚えのない言葉にまた首を傾げた。

「それも知らんのか。定型縊死とは首を括った時完全に身体が浮いた状態で死亡することをいい、普通首吊りと言われまず想像するのが定型縊死だ。そしてそれ以外、足や膝がついた状態で死亡することを非定型縊死という」

なるほど。

つまり被害者は非定型縊死をした後定型縊死の形になった。

ということは……

「窒息死した後に誰かが被害者を吊り上げたってことですね! だとすると警備員さんは誰かに殺された!」
「だからさっきから他殺だと言っているだろ……」
探の納得した顔を見て刹那は呆れ顔でため息をつくと今度は探の首を指差した。

「それに索条痕も左右対象じゃなかったしな。そんなことも知らずに偽装工作しているところをみると犯人は殺しに関しては素人なのだろう。まあ、遺書のほうは筆跡を残さないようにパソコンを使うぐらいの知恵は回るようだかな」

こんな所に殺しのプロがいたりしたら嫌ですよ……

と探は心の中で思いながら刹那に別の疑問点を訊ねた。

「でも抵抗したような痕はありませんでしたよ? 普通殺されそうになったら必死になって抵抗しませんか?」

被害者の首には索条痕しかなく、絞殺されそうになった時よく首から縄を外そうとしてできる引っ掻き傷などは見当たらなかった。
しかし殺害されたのであれば抵抗しなければおかしい。

「別に簡単なことだ。睡眠薬などの薬でも盛って眠らせてから殺害したのだろう。まあ、睡眠薬じゃなくても睡眠作用がある風邪薬や乗り物酔い止めの薬でも飲ませればいい」
刹那はそう言うと鼻を鳴らした。
探はその推理に感心するように首を縦に振る。

「あ、でも刹那さん。そこまでわかっているならそのこと警察に言わないと……」
「安心しろ。警察も一応プロだぞ。これが他殺ということにはとっくに気づいている。だから俺らのアリバイを確認したんだ」
「やっぱり僕達疑われてたんですか!?」
探は警察に殺人犯だと疑われていたと知り焦りの表情を浮かべる。

「第一発見者を疑うのは定石だからな。だが俺らにはアリバイがあった、だから事情聴取を後回しにしたのだろう」
「でも実月さんに話を聞いていませんよ? 彼女も第一発見者の一人なのに」

「実月は運動しているとはいえ女だ。殺された警備員は背が低いとはいえ見た目的に体重は七五キロから八〇キロはあるだろう。つまり実月が一人で遺体を吊り上げ、偽装工作をするには物理的に無理がある。実月が犯人ならわざわざ他人に手伝わせてまで偽装工作する理由がないからな。だから一応容疑者から外したのだろう」

確かに実月さんの細い腕じゃ被害者を吊り上げるなんて芸当無理そうですもんね。

探は納得したように頷くと重大なことを思い出した。

「で、でもちょっと待ってください!僕達が遺体を発見した時ドアや窓、小窓にも鍵がかかっていて、二本ある鍵のうち一本は死亡推定時刻の間職員室に置かれていました。そしてもう一本は警備員さんの腰のベルトについて、つまり……」




密室殺人。




その言葉を頭に思い浮かべたとき、探の胸は高鳴った。

ドラマのようなことが今、自分の目の前で?

探は感情が高揚し思わず唾を呑み込んだ。
しかしその考えを否定するように慌てて首を左右に振った。

人が亡くなっているんです。
こんな気持ちになってはいけません。

そう自分を押さえつけると探はまた刹那に疑問を投げかけた。

「でも犯人はどうやって警備室を密室にしたのでしょうか?」
「さあ、そこまでは。しかし……」

「刹那様ぁぁぁぁ!」
刹那が何かを言いかけたその時、彼の名前を大声で叫びながら誰が全速力で廊下を駆けてきた。

服装を見るに悠仁高校の女子生徒のようだ。

「お会いしたかったですわぁ!」
少女はそう言いながら刹那に抱きつこうとしたが刹那が素早く横に避けたため、その抱擁は無情にも地面に向けられた。
少女は「うぐっ!」と小さなうなり声をあげると地面に倒れこんだ。

「ちょっと大丈夫?」
後から倒れた少女を心配する声をかけながら別の少女が小走りでこちらへ向かってきた。

「実月さん! もう大丈夫なんですか?」
探は駆け寄ってきた実月に声をかけた。

「うん。心配かけてごめんね。もう大丈夫」
実月はそう言って笑ったがその笑顔は弱々しかった。
顔色はうっすらと青白く、体調は万全ではなさそうだ。

「無理しないでくださいね」
「ありがとう。それよりも……」

実月は廊下に倒れた少女を覗きこんだ。
探も少女に視線をやる。

紅色の椿の髪止めに艶やかな長い黒髪。

クラスは違うが彼女のことは知っている。

彼女は有名だし、昨日の自殺未遂はかなり騒ぎになったからだ。



「黒音……椿さん?」

探が名前を呼ぶと彼女は起き上がり満面の笑みを浮かべた。




「お会いできて嬉しいですわ。刹那様」


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