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第一章 青き誓い

2、御前試合(1)

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 神聖騎士団の闘技場にて、全身を鎧に包んだ二人が立ち会う。
 兜を被る前にちらりと見たところ、特別にあつらえられた貴賓席に国王が、そしてその隣に黒い頭の少年がちょこんと座っていた。あれが。頭の位置からすると小柄ではないのだが、今にも消えてしまいそうなこぢんまりとした印象がした。親の過保護が加速するのも頷ける。
 アルバトロス家の両親と二人の兄もいるに違いないが、どこで見ていたかは後日新聞記事で明らかになるだろうから、敢えて探さずにおいた。
 友と対峙するのは初めてではない。しかし目前に立ちはだかるブロンズの髪の青年の、なんと立派なことだろう。胸を張り顎をそびやかし英雄然としている彼に対し、まるで自分は悪役の気分だ。
 どうせ俺は野良犬だよ。小さな溜め息とともにセルゲイの屈折はとどまるところを知らない。
 適当にやって、いい感じにフェネトを勝たせてやって、さっさとパブに行こう。
 セルゲイには不要に思える式次第が粛々と進められ、決闘者たちが現れると、観客たちの歓声が否応なしに高まった。
 かき消されてしまった号令に合わせて二人は剣を引き抜き、構え、交わらせた。
 試合が始まってすぐ、セルゲイは異変に気づいた。振った感じが違う。
 続くフェネトの一撃の重たさと、自分の長剣からした軽薄な音で、確信した。

「嘘だろ!」

 これ、レプリカだ! セルゲイは愕然とした。
 他でもない己の身体が握る長剣の重さや重心の位置を憶えているので間違いようがない。
 俺が間違ったのか? 混乱する頭で咄嗟に思う。しかしテントには、剣は一本しかなかった。
 公正を期すため、神聖騎士団がテントと装備を用意する手筈となっていたので、誰かが間違ったのかもしれない。
 確かに、日頃の訓練や練習試合では万一を避けるために専用のレプリカ――柄が軟鋼製の剣が用いられる。他の従騎士(エスクワイア)同様、セルゲイもレプリカの扱いのほうが身体に馴染んでいる。
 しかしそれでは騎士や剣術の凄味に欠けるという騎士団長デ・リキアの提案のもと、今日は特別に全てが鋼製の本物の長剣を使用することになっていた。
 実際、剣を斧のように振り下ろす〈殺撃〉の凄まじい衝撃で、練習の時にレプリカを何本も折ってきた。つまり、今手にしているレプリカは〈殺撃〉に適さない。
 だから、セルゲイとフェネトはこの数週間、慣れぬ本物を握ってこの日のために準備を続けてきたのだ。少年の手にできた無数の豆がその証拠だ。
 でも、こんなときに間違うか?
 王子の〈盾仲間〉を選出する御前試合を知らぬ者はいないはずだ。では、誰かが意図的に?

「フェネト! 待て! 剣が! やりなおそう!」
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