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第一章 青き誓い
2、御前試合(2)
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「集中しろ、セルゲイ! 試合中だぞ!」
親友は容赦なくセルゲイに〈殺撃〉を叩き込もうとする。
振り下ろされる勢いに腕と剣本体の重さが加味されて、いつもの防御ではかなわない。
こちらも腕と重心を用いて、相手の攻撃を受ける。
その衝撃を受け止めるだけで精一杯で、こちらから攻撃に出る隙を食われている。
「僕に勝ってみたまえ、セルゲイ!」
フェネトが海色の瞳をぎらつかせて打ち込んでくる。何度も、何度も。
「難しいだろうがな!」
それこそ、こちらの長剣をへし折るつもりがあるのだろう。
爵位ある騎士団長を父に持つ誇り高き優等生のフェネトのこと、騎士の戦いのなんたるかを、そして己の実力を観客たちに見せつけたいはずだ。もちろん、国王と王太子にも。
その意気込みはよくわかる。彼はそういう生真面目な向上心の持ち主なのだ。
「馬鹿野郎!」
しかしひとたび勝負が始まれば、セルゲイにも勝利への炎が灯るというもの。
ここで無様に泥にまみれるつもりなどさらさらなくなるのが常であった。
試合の果てに得られる栄光など知ったことではない。
ただ、ひたすらに勝利が欲しい。戦士としてのプライドはセルゲイにも備わっていた。
だが技術の上では拮抗しているからこそ、剣の材質によるハンデは殊の外大きい。
下手をすればセルゲイの命に関わる。まだ十七だ。こんなところで死ぬつもりはない。
加えて、本物に対し、レプリカの剣がいつまで保つかもわからない。
セルゲイは、もう何度目かわからぬ相手の容赦ない〈殺撃〉を全身で受け止めた。
友の重たい一撃にレプリカがしなる。やはり心許ない。
狙われた首を兜が守ってくれたが、その代償に大きくへこんだ。それを脱ぎ捨てる。
命の危機をすぐ傍に感じて、セルゲイは腹をくくった。
「覚悟決めろよ!」
何が起ころうとも、揺るがぬ友の信念に答えるべきだ。
己の命と戦士の誇りを守るためにも。
だから、本気のカウンターに出た。
フェネトが柄と剣身を握る第二の構えをとった瞬間、セルゲイは両手で自らの剣身を掴んだ。
そして、フェネトが剣を突き入れてくる隙を狙い、大きく振りかぶった。
大きく外側から狙った〈首打ち〉の一撃がフェネトの首を確実に捉える。
友の首に引っかけた柄は、たちまち彼の頭を大地に叩きつけた。
甲冑を纏った人体が大地に打ち付けられた拍子に、レプリカも砕け散り、重たく濁った音が練習場に響き渡った。
「ほら! 勝ったぞ! これでいいかよ!」
セルゲイは吠えた。難所の攻略か、勝利の昂揚か。甲冑の中で全身の血が沸いている。
あっという間の逆転劇に、場内が静まりかえり、そして沸きに沸いた。
「血が!」
だが一つの悲鳴をきっかけに、勝利の興奮は一瞬にして別の物に変わり果てた。
「なんと野蛮な」
「ひどい! あそこまでしなくてもいいでしょうに!」
あちこちから起こった非難の声で、セルゲイは初めて気づいた。
対戦相手が倒れた地面に、赤い血だまりが広がっている。
「フェネト!」
セルゲイは脇目も振らず友に駆け寄った。海色の瞳からも血が出ている。
「お前、大丈夫か! しっかりしろ! フェネト!」
呼びかけるも返事はなく、つまり意識がない。
「フェネト!」
親友は容赦なくセルゲイに〈殺撃〉を叩き込もうとする。
振り下ろされる勢いに腕と剣本体の重さが加味されて、いつもの防御ではかなわない。
こちらも腕と重心を用いて、相手の攻撃を受ける。
その衝撃を受け止めるだけで精一杯で、こちらから攻撃に出る隙を食われている。
「僕に勝ってみたまえ、セルゲイ!」
フェネトが海色の瞳をぎらつかせて打ち込んでくる。何度も、何度も。
「難しいだろうがな!」
それこそ、こちらの長剣をへし折るつもりがあるのだろう。
爵位ある騎士団長を父に持つ誇り高き優等生のフェネトのこと、騎士の戦いのなんたるかを、そして己の実力を観客たちに見せつけたいはずだ。もちろん、国王と王太子にも。
その意気込みはよくわかる。彼はそういう生真面目な向上心の持ち主なのだ。
「馬鹿野郎!」
しかしひとたび勝負が始まれば、セルゲイにも勝利への炎が灯るというもの。
ここで無様に泥にまみれるつもりなどさらさらなくなるのが常であった。
試合の果てに得られる栄光など知ったことではない。
ただ、ひたすらに勝利が欲しい。戦士としてのプライドはセルゲイにも備わっていた。
だが技術の上では拮抗しているからこそ、剣の材質によるハンデは殊の外大きい。
下手をすればセルゲイの命に関わる。まだ十七だ。こんなところで死ぬつもりはない。
加えて、本物に対し、レプリカの剣がいつまで保つかもわからない。
セルゲイは、もう何度目かわからぬ相手の容赦ない〈殺撃〉を全身で受け止めた。
友の重たい一撃にレプリカがしなる。やはり心許ない。
狙われた首を兜が守ってくれたが、その代償に大きくへこんだ。それを脱ぎ捨てる。
命の危機をすぐ傍に感じて、セルゲイは腹をくくった。
「覚悟決めろよ!」
何が起ころうとも、揺るがぬ友の信念に答えるべきだ。
己の命と戦士の誇りを守るためにも。
だから、本気のカウンターに出た。
フェネトが柄と剣身を握る第二の構えをとった瞬間、セルゲイは両手で自らの剣身を掴んだ。
そして、フェネトが剣を突き入れてくる隙を狙い、大きく振りかぶった。
大きく外側から狙った〈首打ち〉の一撃がフェネトの首を確実に捉える。
友の首に引っかけた柄は、たちまち彼の頭を大地に叩きつけた。
甲冑を纏った人体が大地に打ち付けられた拍子に、レプリカも砕け散り、重たく濁った音が練習場に響き渡った。
「ほら! 勝ったぞ! これでいいかよ!」
セルゲイは吠えた。難所の攻略か、勝利の昂揚か。甲冑の中で全身の血が沸いている。
あっという間の逆転劇に、場内が静まりかえり、そして沸きに沸いた。
「血が!」
だが一つの悲鳴をきっかけに、勝利の興奮は一瞬にして別の物に変わり果てた。
「なんと野蛮な」
「ひどい! あそこまでしなくてもいいでしょうに!」
あちこちから起こった非難の声で、セルゲイは初めて気づいた。
対戦相手が倒れた地面に、赤い血だまりが広がっている。
「フェネト!」
セルゲイは脇目も振らず友に駆け寄った。海色の瞳からも血が出ている。
「お前、大丈夫か! しっかりしろ! フェネト!」
呼びかけるも返事はなく、つまり意識がない。
「フェネト!」
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