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第一章 青き誓い
3、王太子グラスタン(1)
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グラスタン・ウィスプ・スノーブラッド・ヴァニアスはヴァニアス王国の第一王子である。
兄弟はなく始祖王と同じ黒髪碧眼なことから、生まれた時から王太子の肩書と〈獅子王の再来〉のあだ名という大きな期待を背負ってしまった。
始祖王とは、ヴァニアス国王の永遠の憧れであるエドゥアルガス獅子王を指す。
それは九〇〇年以上も昔のこと。スノーブラッド伯爵家長男エドゥアルガスは、当時入植者同士の小競り合いが絶えなかった君主なきヴァニアス島の〈耐え難き沈黙の時代〉に終止符を打った。伝説によれば〈神隠し〉――無数の人々を連れ去り喰らっていた悪しきドラゴンを討伐したともいわれている。彼は協力者であった原住民族の神子を妻に迎え、民意ごとダイヤモンドの島を統一し、島と原住民族の名をとってヴァニアス王国を建国した。彼の出身家名は、世継ぎの称号として王太子に与えられるものとなった。彼の墓は見つかっていないが、代わりに王族のみが立ち入れる場にレリーフが祀られ、国会議事堂には伝説をなぞらえたステンドグラスが設置されている。
奇しくもこの獅子王と同じ色彩を持って王家に生まれてしまったがために、グラスタンの人生は重苦しい期待と落胆で満たされていた。
臣民が期待する〈獅子王の再来〉の二つ名、そして、その名に恥じぬ世継ぎたれと息巻いた両親は、熱心にグラスタンを教育を施した。
特に金髪の国王ブレンディアン五世の拘りは常軌を逸していた。
忘れもしない。過熱しはじめたのはグラスタンが九歳になってからだ。線が細く病気がちであった王子はしばらくの間聖都ピュハルタのベルイエン離宮にて、叔母ミゼリア・ミュデリア姫の庇護の下、療育の日々を送っていた。
しかし九つの誕生日、人並みの顔色になったグラスタンを見た父ブレンディアンは、半ば引きずるようにして彼をケルツェル城に連れていった。
それからは、真逆の生活を強いられるようになった。父は十六の成人も迎えていない子どものグラスタンを城内に限り常に随伴させ、大人の議論や父の趣味である稽古にも参加させた。
後になって気付いたのだが、それはまるで、騎士と小姓のようであった。
誰かが言うように、嫉妬を孕んでいたのかもしれない。なぜなら彼が生まれた当時、ヴァニアス諸島の南、フィスティア大陸で繰り広げられたという帝国の解体――通称エスパディア統一戦争はとっくに終結していた。血の気の多さを自覚したブレンディアン王子がいかに武勲を立てたくとも、時代が許さなかったのだ。
エスパディア統一戦争から六〇年余が経った平和な現代にもかかわらず、父は覇道――武力と策略のなんたるかを息子に叩き込んだ。
「人徳など不要。人民一人一人の意見などいちいち汲んではおれん。従わせるにはとにかく武力だ。強大な力に恐れを抱かせれば抑止力となり、歯向う場合にはそれをもってねじ伏せる。結局は力だ。そして力を行使する機会はいつでも最適でなくてはならない。策は常に自ら持て。部下とて信用してはならない。決して騙されるな、騙すほうになれ。馬鹿では王は務まらぬ」
このようにして文武両道を課せられたが、伸びるのは書き物の成績と身長ばかり。
成人を越え十七歳になった今でも父からは一人前とは認められず、公の場に顔を出すことも許されていない。
兄弟はなく始祖王と同じ黒髪碧眼なことから、生まれた時から王太子の肩書と〈獅子王の再来〉のあだ名という大きな期待を背負ってしまった。
始祖王とは、ヴァニアス国王の永遠の憧れであるエドゥアルガス獅子王を指す。
それは九〇〇年以上も昔のこと。スノーブラッド伯爵家長男エドゥアルガスは、当時入植者同士の小競り合いが絶えなかった君主なきヴァニアス島の〈耐え難き沈黙の時代〉に終止符を打った。伝説によれば〈神隠し〉――無数の人々を連れ去り喰らっていた悪しきドラゴンを討伐したともいわれている。彼は協力者であった原住民族の神子を妻に迎え、民意ごとダイヤモンドの島を統一し、島と原住民族の名をとってヴァニアス王国を建国した。彼の出身家名は、世継ぎの称号として王太子に与えられるものとなった。彼の墓は見つかっていないが、代わりに王族のみが立ち入れる場にレリーフが祀られ、国会議事堂には伝説をなぞらえたステンドグラスが設置されている。
奇しくもこの獅子王と同じ色彩を持って王家に生まれてしまったがために、グラスタンの人生は重苦しい期待と落胆で満たされていた。
臣民が期待する〈獅子王の再来〉の二つ名、そして、その名に恥じぬ世継ぎたれと息巻いた両親は、熱心にグラスタンを教育を施した。
特に金髪の国王ブレンディアン五世の拘りは常軌を逸していた。
忘れもしない。過熱しはじめたのはグラスタンが九歳になってからだ。線が細く病気がちであった王子はしばらくの間聖都ピュハルタのベルイエン離宮にて、叔母ミゼリア・ミュデリア姫の庇護の下、療育の日々を送っていた。
しかし九つの誕生日、人並みの顔色になったグラスタンを見た父ブレンディアンは、半ば引きずるようにして彼をケルツェル城に連れていった。
それからは、真逆の生活を強いられるようになった。父は十六の成人も迎えていない子どものグラスタンを城内に限り常に随伴させ、大人の議論や父の趣味である稽古にも参加させた。
後になって気付いたのだが、それはまるで、騎士と小姓のようであった。
誰かが言うように、嫉妬を孕んでいたのかもしれない。なぜなら彼が生まれた当時、ヴァニアス諸島の南、フィスティア大陸で繰り広げられたという帝国の解体――通称エスパディア統一戦争はとっくに終結していた。血の気の多さを自覚したブレンディアン王子がいかに武勲を立てたくとも、時代が許さなかったのだ。
エスパディア統一戦争から六〇年余が経った平和な現代にもかかわらず、父は覇道――武力と策略のなんたるかを息子に叩き込んだ。
「人徳など不要。人民一人一人の意見などいちいち汲んではおれん。従わせるにはとにかく武力だ。強大な力に恐れを抱かせれば抑止力となり、歯向う場合にはそれをもってねじ伏せる。結局は力だ。そして力を行使する機会はいつでも最適でなくてはならない。策は常に自ら持て。部下とて信用してはならない。決して騙されるな、騙すほうになれ。馬鹿では王は務まらぬ」
このようにして文武両道を課せられたが、伸びるのは書き物の成績と身長ばかり。
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