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第一章 青き誓い

5、従騎士、ふたり(8)

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 このように、二人は他愛ない話をしながら聖都ピュハルタを観光した。
 話してみれば、なんてことはない、生まれと境遇が特別なだけの奥ゆかしい少年だ。確かに騎士団ではあまり見かけないけれど、大学に行けば少なくない人種であろう。
 また、ゼ・メール街道での自らの言い分に誤りがあったことも認めねばならない。
 グレイズには対話の余地がある。この点で父王ブレンディアン五世と決定的に違った。
 セルゲイが従騎士として一年、ケルツェル城で見た限り、国王はほとんど独裁者であった。
 国会や議員という手綱が無ければ、敵とみなした者に全て噛みつくような狂犬であり、武器なきときには言葉の暴力を大いに振るうのだ。
 なんだ、全然話せるじゃねえか。セルゲイはこっそりとグレイズを認めながら反省した。
 王子と従騎士の間に深い溝を作り出していたのは、他ならぬ己であると。
 そのうちに、がたがたと重たい車輪の音が近づいてきた。
 王子は上機嫌で、すれ違う人々の顔の一つ一つを見ていて気づかない。

「よそ見すんなって」

 グレイズの首根っこを掴んで引っ張ると、彼のいた場所を商人の馬車が揚々と進んでいった。

「す、すまない」

 主君は何かにつけてすぐに謝り恐縮するから、セルゲイはそのたびに彼の猫背を軽く叩いた。
 その瞬間だけは背筋がしゃんと伸びて、元来の格好よさが現れる。
 いつもそうしていればいいのに。同時に師の気持ちを理解した気分でもある。
 むかし、ドーガスさんも同じ気持ちで俺を指導してくれてたのかな。

「あと、すぐ簡単に謝るなよ。なんでも先に謝るとなめられちまうぜ」

 今のはきつすぎたか。けれど本音には違いない。
 セルゲイは王侯貴族特有の奥ゆかしさや婉曲表現は苦手だ。商家の出身だからかもしれない。嘘をつくなどもってのほか、常に本音しか言えない。だから、師ドーガスから余計なことを言うなと釘を刺され続けてきた。グレイズとは毛色の違う不器用の自負がある。だからだろうか、彼が意見を口の中で弄びつつも、何も言えないのが鼻につくのは。

「そういうものか」

 サファイアブルーの瞳がしゅんと曇ると、セルゲイの罪悪感が音を立てて芽生える。

「勉強になる……」
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