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第一章 青き誓い
6、王子と赤薔薇姫(9)
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三回で止まったそれが、今日のお茶会の合図であることをグレイズも思い出した。
「春の盛りを過ぎぬ間に、薔薇の咲くを摘むがごとし」
そして歌うようなメゾソプラノが天から降り注いだ。
と思いきや、金色の光を纏った婦人が、東屋のウィスティリアのすだれをくぐってきた。
神子姫の歩みに合わせて、金色の光が移動する。
「お楽しみはとっておおき、可愛い子たち」
グレイズは悪戯っぽく微笑むミゼリア・ミュデリアにすぐさま跪き、彼女の足に最敬礼を、そして立ち上がって手をとり、くちづけた。
「叔母様。セルゲイにお話はお済みで?」
「ええ。せっかくのケーキが傷んでしまってはね」
グレイズがちらと彼女の背後を窺うと、中庭の入り口で、見慣れた従騎士がいた。
セルゲイはお茶会の支度に行き交う女中に鼻の下を伸ばしていた。
彼の瞳ならば、娘たちのお仕着せの中まで見通せてしまうのかもしれない。
マルティータにも色目を使ってはいないだろうか。グレイズは警戒を強めた。
セルゲイは、長身にしっかりと蓄えられた筋肉、均整のとれた戦士の体つきに加え、高い庇と立派な鼻に挟まれた甘い瞳を持つ。その様々な表情を見せてくれる緑青色の瞳が特に魅力的だと思えばこそ、憧れながらも嫉妬してしまう。
「グレイズ様」
と、従騎士をじっとねめつけていた王太子の腕が温かく柔らかいものに包まれた。
「わたくしにグレイズ様しかいませんように、セルゲイ様にも運命の方が訪れるはずです」
マルティータだ。彼女は婚約者の腕を全身で抱きしめてくれていた。
心を濁らせた妬み、黒い気持ちがそれだけで浄化されるようだ。
「それを探すのに、出会う女性を手あたり次第に?」
「きっと寂しがりやなのです」
「どうしてわかるんだい、マルー?」
「目を見たら、なんとなく……でしょうか」
睦みあう二人の目前で、神子姫がくるりときびすを返した。踊り子のような美しいターンだ。
羽のように薄く透けたショールが彼女の軌跡を追いかける。
「さあ、お茶にしますよ」
ふわりと舞うようにそれでいて足音も立てず中庭を闊歩するミゼリア・ミュデリアはまさに妖精の女王のようだった。
「お前も。おいでなさい」
「はっ!」
白い首筋を伸ばした神子姫に手招きされたセルゲイは身体を棒きれのようにまっすぐにした。
「春の盛りを過ぎぬ間に、薔薇の咲くを摘むがごとし」
そして歌うようなメゾソプラノが天から降り注いだ。
と思いきや、金色の光を纏った婦人が、東屋のウィスティリアのすだれをくぐってきた。
神子姫の歩みに合わせて、金色の光が移動する。
「お楽しみはとっておおき、可愛い子たち」
グレイズは悪戯っぽく微笑むミゼリア・ミュデリアにすぐさま跪き、彼女の足に最敬礼を、そして立ち上がって手をとり、くちづけた。
「叔母様。セルゲイにお話はお済みで?」
「ええ。せっかくのケーキが傷んでしまってはね」
グレイズがちらと彼女の背後を窺うと、中庭の入り口で、見慣れた従騎士がいた。
セルゲイはお茶会の支度に行き交う女中に鼻の下を伸ばしていた。
彼の瞳ならば、娘たちのお仕着せの中まで見通せてしまうのかもしれない。
マルティータにも色目を使ってはいないだろうか。グレイズは警戒を強めた。
セルゲイは、長身にしっかりと蓄えられた筋肉、均整のとれた戦士の体つきに加え、高い庇と立派な鼻に挟まれた甘い瞳を持つ。その様々な表情を見せてくれる緑青色の瞳が特に魅力的だと思えばこそ、憧れながらも嫉妬してしまう。
「グレイズ様」
と、従騎士をじっとねめつけていた王太子の腕が温かく柔らかいものに包まれた。
「わたくしにグレイズ様しかいませんように、セルゲイ様にも運命の方が訪れるはずです」
マルティータだ。彼女は婚約者の腕を全身で抱きしめてくれていた。
心を濁らせた妬み、黒い気持ちがそれだけで浄化されるようだ。
「それを探すのに、出会う女性を手あたり次第に?」
「きっと寂しがりやなのです」
「どうしてわかるんだい、マルー?」
「目を見たら、なんとなく……でしょうか」
睦みあう二人の目前で、神子姫がくるりときびすを返した。踊り子のような美しいターンだ。
羽のように薄く透けたショールが彼女の軌跡を追いかける。
「さあ、お茶にしますよ」
ふわりと舞うようにそれでいて足音も立てず中庭を闊歩するミゼリア・ミュデリアはまさに妖精の女王のようだった。
「お前も。おいでなさい」
「はっ!」
白い首筋を伸ばした神子姫に手招きされたセルゲイは身体を棒きれのようにまっすぐにした。
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