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第一章 青き誓い
9、金色の姉弟(3)
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ヴァニアス島を離れて七日が経った〈白羊の月(ラーム)〉九日。
サフィーラ島に着いたマルティータ一行は、ラ・ウィーマの住人およそ数百人に歓迎された。
暖流の影響だろうか、春を迎えたヴァニアス本島よりも空気が暖かく感じられた。
マルティータがよろめきながら降り立つと、人々の最前列に待機していた若い娘たちが一歩進み出た。生成りの麻でできたさっぱりとした服を身につけた彼女たちは、手にしていた花束を王太子妃へ恭しく差し出した。爽やかな甘い香りに心が洗われる。その、目の冴えるような橙色の花はロコスミアだった。
大きなゆりかごでの生活に慣れてきた矢先の上陸で、今度は陸酔いの頭痛を感じていた。
けれど、小さな娘たちの日に焼けた頬が気恥ずかしそうに、そして誇らしげに持ち上がっているのに心を打たれ、微笑みは浮かべずとも滲んだ。
「みなさん、ありがとう。ほんの少し、お邪魔させていただきますね」
ラ・ウィーマの人々が、二つ返事で色よい答えをくれたというのは本当だったらしい。
このたびの計画を、村おこしの一つと捉えてくれたのかもしれない。
ペローラ諸島は元々、島そのものを一つの町とし、数珠つなぎの島々がファーラシュ海を囲うようにゆるく繋がっている自治体である。まだ国の体をなしていない。
住民のほとんどは自給自足で生活ができているが、近年、外貨を欲しているとも聞く。
これにもルジアダズ海賊団の動きが関係しているのだろうか。いずれにせよマルティータの知らぬところで国王ブレンディアン五世と村との間に金のやりとりがあっても不思議ではない。
「お嬢様は長旅にお疲れです。また後日、時間を」
訝しむマルティータの様子に不調を見て取ったイーリスの鬨(とき)の一声で、一行はサフィーラ島唯一の砦ペデスタル城へ移動した。
借り受けたそこには城主も管理者もいなかったが、あっという間に人間でいっぱいになった。
城が人々の住まいとして蘇ってゆくのを目の当たりにして、マルティータは在りし日の姿に思いを馳せた。きっとここも、商人や船乗りの貴重な補給地だったのでしょうね。
着替えや石鹸、化粧品など、少女の生活道具は侍女の手であらかじめ用意され、船に積み込まれていたので、辺境の島でも快適に過ごせそうだった。
石鹸のよい香りに微笑んだマルティータは、それを一つ手に取ると魔術師の姿を探した。
だが、誰よりも悪目立ちしている男はいつのまにか消えていた。
サフィーラ島に着いたマルティータ一行は、ラ・ウィーマの住人およそ数百人に歓迎された。
暖流の影響だろうか、春を迎えたヴァニアス本島よりも空気が暖かく感じられた。
マルティータがよろめきながら降り立つと、人々の最前列に待機していた若い娘たちが一歩進み出た。生成りの麻でできたさっぱりとした服を身につけた彼女たちは、手にしていた花束を王太子妃へ恭しく差し出した。爽やかな甘い香りに心が洗われる。その、目の冴えるような橙色の花はロコスミアだった。
大きなゆりかごでの生活に慣れてきた矢先の上陸で、今度は陸酔いの頭痛を感じていた。
けれど、小さな娘たちの日に焼けた頬が気恥ずかしそうに、そして誇らしげに持ち上がっているのに心を打たれ、微笑みは浮かべずとも滲んだ。
「みなさん、ありがとう。ほんの少し、お邪魔させていただきますね」
ラ・ウィーマの人々が、二つ返事で色よい答えをくれたというのは本当だったらしい。
このたびの計画を、村おこしの一つと捉えてくれたのかもしれない。
ペローラ諸島は元々、島そのものを一つの町とし、数珠つなぎの島々がファーラシュ海を囲うようにゆるく繋がっている自治体である。まだ国の体をなしていない。
住民のほとんどは自給自足で生活ができているが、近年、外貨を欲しているとも聞く。
これにもルジアダズ海賊団の動きが関係しているのだろうか。いずれにせよマルティータの知らぬところで国王ブレンディアン五世と村との間に金のやりとりがあっても不思議ではない。
「お嬢様は長旅にお疲れです。また後日、時間を」
訝しむマルティータの様子に不調を見て取ったイーリスの鬨(とき)の一声で、一行はサフィーラ島唯一の砦ペデスタル城へ移動した。
借り受けたそこには城主も管理者もいなかったが、あっという間に人間でいっぱいになった。
城が人々の住まいとして蘇ってゆくのを目の当たりにして、マルティータは在りし日の姿に思いを馳せた。きっとここも、商人や船乗りの貴重な補給地だったのでしょうね。
着替えや石鹸、化粧品など、少女の生活道具は侍女の手であらかじめ用意され、船に積み込まれていたので、辺境の島でも快適に過ごせそうだった。
石鹸のよい香りに微笑んだマルティータは、それを一つ手に取ると魔術師の姿を探した。
だが、誰よりも悪目立ちしている男はいつのまにか消えていた。
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