純白の抒情詩〈リューリカ〉

黒井ここあ

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第一章 妖精と呼ばれし娘

三、カラスとの約束(6)

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「もしかして、妖精か?」

 独りごちたばかりだったが、いや、姿かたちは人間そのものじゃないか、と彼は思い直した。
 刹那、穏やかな時間を割く物があった。
 それはアルフレッドの腹の虫が鳴く音だった。
 彼は咄嗟に少女の方を見た。
 耳が熱くなるのを感じながら、慎重に少女の様子を窺ったが、彼女は身じろぎすらしなかった。
 ほっと一息つくと、彼はハンナに渡された包みを開けることにした。
 結び目を解くとバターの香りが漂う。
 中には色とりどりの野菜が入ったマフィンがいくつも入っていた。
 悔しいことに、乳母の予想した通りの事態になってしまったが、彼女の気遣いのお陰で食いっぱぐれることはなさそうだった。
 一つだけ取り出して、一思いに齧りつく。
 空腹のあまり、満足に噛まずに一飲みすると喉を詰まらせてしまった。
 盛大に咳き込みながら、泉に駆け寄って、両手にすくった水で流し込む。
 それでも誤嚥は彼を苦しめた。

「っ! ごほっ……。……ふう。俺は一体何やってんだ……」

「ひゃうっ! こないでえぇ!」

 水とマフィンを飲み下したアルフレッドの後ろから、気の抜けるような声が聞こえてきた。
 驚いて振り向くと、横たわったまま瞳を真ん丸に開いている少女と目があった。
 どうやら自身の寝言で目覚めたらしい。
 二人は驚愕の表情で顔を見合わせたまま、固まった。
 アルフレッドは濡れている口元を拭うのも忘れて、彼女の瞳に見入ってしまった。
 それは針のような睫毛に縁どられ、瑞々しい若葉のような翠色をしていた。
 魔法めいた煌めきは、まさにエメラルドのようだった。

「あ……。えっと……」

 少女の翠の瞳が、ぱちくりと二回またたく。
 アルフレッドは何か言おうとするも、言葉が見つけられずに灰色の瞳を同様にまばたかせた。
 急に彼女が目覚めたものだから、矢を放ったことから謝るべきか、なぜ雨のような矢の全てをよけきれたのか問うべきか、あるいは春風のような愛らしい声を誉めるべきか、はたまた、彼女がどこから来たのかを聞くべきか、全ての考えに優先順位をつけられなくなっていた。
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