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3-2 雑用
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プロメザラの地には大陸の西端に位置する、海に臨む港街と城下街がある。
街から見える海の景色は穏やかであり、海運が盛んなことで有名である。「魔の海域」と呼ばれる大陸南方から東方にかけて激しく流れ込む海域とは異なり、この西端の地は大陸間を結ぶ航路や停泊地として昼夜を問わず賑わいを見せている。
大陸の旅人たちの間でこの街は「安息と始まりの地」と呼ばれ、憧憬の地としてしばしば話題に上る。
リンカは城下の娼館街、通称「貧民街」に生まれた。
憧れの地としてのプロメザラを知ったのは八歳の頃、生業である暗殺の対象が酔いに任せて怒鳴り散らす言葉から拾った。
初めてナイフで刺したその男は貿易商であり、その道の人間であれば多少名も知れている程度の男だった。男は娼館街にいる女子供を買い漁っては乱暴をはたらくどうしようもない人間であり、実際にリンカ自身も殴られた覚えがあった。
「殺しに私情を持ち込むな」。幼い頃から意味も分からず刷り込まれてきた言葉である。
リンカの親代わりであるヒョドーという男は、彼女に殺しをさせるために最低限の教育を施していた。そのため、幸いにも大陸言語の読み書きについては拙いながらも日常に不便はない。
しかし、殺しだけであれば読み書きなどの必要はさほどないが、彼女の探究心は並み以上のものがある。何事にも深いところまで突き詰めたいという強い欲求を持ち合わせていた。
娼館では時折、恐らく客が忘れていったか肩代わりにしたであろう古い書物を、こそこそと解読するリンカの姿が見られる。それを見た者の大半が笑い捨てるか、怒鳴り散らしてやめさせる。彼女を取り巻く環境は彼女が智を深めるには余りにも恵まれていない。
毎日の娼館での雑務や不規則に入る殺しの仕事とは別にして、数少ない自由な時間を見付けては、街中を散策することが彼女の日課となっている。
その甲斐あってか、街の北東部にある魔石商近くの宿屋には、プロメザラ城に品を献上した商人が多く泊まること、その厨房の裏口から入ると大抵豪勢な食事をつまみ食いすることができることに加え、厨房奥の棚には硬貨がずっしり入った袋が入っていることを知っている。
報酬もろくにない生業でも、いざとなればこの金を盗めばいい――腹が空けば盗み食い、物が欲しければ盗むか、金を盗んで手に入れる。
物心ついてからこの方、十五年余りを斯様に過ごしてきた。
「露店街にある、魔素工房のラザコックという男を消してこい」
剃り上げた頭、顎が張り頭頂から首にかけて刺青を入れた見るからに悪そうな人相、豪奢な服を纏った浅黒の大柄な男ヒョドーが、下品なほどに装飾の施された大仰な椅子に凭れながら、溜息でも吐くかのように言う。
娼館街の一角にある元締め「ヨニャルーヤ」の一室。無言のままに軽く頷き、背にした扉に向かって踵を返す少女。
「寂しいじゃねぇか、リンカ。たまには父さんに声を聞かせてくれよ」
刹那立ち止まり、去っていくリンカの背後に下卑た笑いが響き渡る。人を人とも思わぬ男の、心底人を馬鹿にした鳴き声。
それを遮るようにして乱暴に扉を送る少女の顔が憎しみに軋る。
ここでは子に対して当然のように殺しの「依頼」が下される。親の命令は絶対である。
子が親の擁護を必要とするのはこの街も例外ではなく、子供が一人で生きていける仕組みはない。殊に娼館街では、子が親に服従するのは勿論のこと、その生死を決めるのもまた大人の権利となっている。
望みもせずに孕んだ娼婦が子を産み、望みもせずに荒んだ環境下に生を強いられる子供。
大人たちの鬱憤の捌け口も、大人たちのどうしようもない時間や金を稼ぐのも子供。気に入られなければ笑い者にされ、いずれ飽きれば捨てられる。捨てられた子供の行き着く先は良ければ娼、悪くて奴隷――「子供」より過酷な待遇――、果ては野良犬の餌というのも間々ある。
旅人たちが見るこの街は大概が美しい。表の通りを見て回り、精々が裏道を一瞥して「汚い所がある」程度の感想を持って去るからだ。
遠くから見た美しい花園も、何てことはない。近くで見ればただの雑草だったのだ。
街に住めば、負の連鎖が娼館街の一角のみならず城下街全体に渦巻いていることが解る。
学のないリンカでさえ感覚的にそれを心得ている。だからこそ彼女はこの「美しい」街が嫌いだ。
ヒョドーが嫌いだ。大人たちが嫌いだ。卑屈な子供も、幸せの内にいる人々も悉く嫌いだ。
焼き串の良い匂いが漂ってくる。何の物とも知れぬ心臓、腎臓、肝臓などの臓物を寄せ集めて焼いた粗野なものだ。
一本あたり銅貨五枚もする代物だが、彼女にかかれば貨幣価値など無にも等しい。
人混みを後にし露店街を抜ける頃には、その手に香ばしい獣の焼き串が三本と包み紙が一つある――紙の中は動物を模した焼き菓子が入っている。
食べること、腹を満たすことは好きだ。食事に比べれば、その他すべてのことが彼女にとって付属、副産物、手段に過ぎないのだ。
「ラザコックについて教えろ」
少女は露店街の外れにある反物の露店に潜り、唐突に凄む。
「教えろとはなんだい。相変わらず口の利き方がなってないガキだね」
頭巾に前掛け姿、小柄な身長の割にしっかりした骨格の恰幅の良い中老の女性が、浅黒く皺の多い顔をしかめて毒づく。
大陸言語ではあるものの、若干の訛りが混じっているのは、彼女が大陸東方のルドラチャ出身だからであろう。大崩落後に魔素が枯渇したとされるルドラチャの人々は、古くから魔素に頼らない生き方をしているためその気性も逞しく、彼女もその血を脈々と引いているらしい。
ルドラチャにいた者の多くは「土を耕す者」を意味するドワル族であり、「地」の加護を多く授かっていることからも、その土地土地への順応性も高い。
「仕事なんだよ」
少女は煩そうに地面に視線を落とし舌打ちをする。苛立ちを串に向け、乱暴に肉を頬張る姿はまるで幼い子供である。対する中老クィミナは飛んできた蠅を払うような仕草でリンカに出ていくよう促す。
「人をぶっ殺すのが仕事かい。少しは殺される方の身にもなってみな」
「うるせぇな! 俺が殺すのは大体糞みてぇな奴ばっかだよ!」
人の生死が事も無げに安い天秤に掛けられる世において、殺される人間がどうだとか、殺す理由がどうかなどと追及するのは野暮である。
殊に子供にとっては全くどうでもいいことなのだ。
捨て台詞を吐いて去っていく背をドワルの女性は悲しそうに見詰める。
去り際に叩き落とされた幾何学模様の一反が午後の光を怪しく照り返した。
*
前方から呻き声が聞こえてくる。
荒々しくもどこか押し殺したような息遣いからは、夜な夜な路地裏を騒がせるような手合いでないことが分かる。
「……はぁ……ぅあ……」
昼は日も当たらず、夜は灯火一つないような湿り切った路地。そこに居つく者など大抵がろくでなしと決まっている。何にしても相手にしないことだ。
「……たぁ……けぇ……くぇ……ぅう」
申し訳程度に襤褸布を一枚巻きつけた見るからに貧相な男が倒れている。
伸び放題の髪に髭面、背丈には不釣り合いなほどにやせ細った手足が纏った布から見え隠れしている。
何ら変わり映えもしない、いつも路地裏にある風景の一部だ。
物を取り上げようにもヘドロに塗れ汚れた布ではかえって高くつく。
「――あぐぅう! ……ぅう……たぁ……」
どこにそんな気力があったのか、身を起こし縋り付こうとした男を足蹴にした。
構わず踏み超えるも、うつ伏せに倒れ伏した男は尚も腕を伸ばしてきた。
その拍子に開けた男の背中に子供の顔が覗いた。
「ガキまでいるのかよ……今は虫の居所が悪くてな」
食いかけの焼き菓子を投げてやる。地面に投げ出された包み紙が解け中の菓子が散らばった。
「……けぇえ……くぇ……」
男は投げ与えられた物が見えていないのか、ただこちらに腕を伸ばすばかりだ。
先の方から二人ばかり新手の足音が近付いてくる。
「いたぞ。こいつだ」
路地を曲がり姿を表したのは、時折娼館近くをうろついている赤ローブの連中だった。
「ぅう……ああ!」
「くそっ、手間取らせやがって」
二人組の赤ローブは思いの外抵抗する男の手足を抑える。
男の体が持ち上がった瞬間、纏った襤褸布が地面に落ちた。
「チッ、化物か……」
やせ細った胴体からは枝のような腕が六本は見える。背中にあった子供の顔は男の胴体から伸び、胸から上だけが重力に揺さ振られている。
ここのところ街にこうした「化物」がうろついている噂が立っている。
「おまえ、娼館の雑用だったな」
「……それがどうした」
赤ローブの一人が銅貨を突き出してくる。口封じかと思い受け取りかけたが、担いだ男まで下ろそうとするのを見て手を引っ込めた。
街をうろつく化物の噂と、良い噂の聞かない魔術師の集団。姿を現わしては消えていたのはこいつらが化物を連れ去っていたからだ。
ローブの下に隠れた顔が歪む。雑用を押し付けられずに不快を感じているに違いない。
人間を始末するにもかなり労力を要するものだ。殺すだけとは勝手が違う。
「ぁだぁ――」
布に収められた男が運ばれていく。あの男の事情など知ったことではない。
人が攫われる、奴隷にされる、殺される。そんなことは日常茶飯事だ。
だが妙に苛立つのは路地に漂う臭気のせいばかりではない。
「――ちくしょうが!」
汚泥に浸かった焼き菓子を思い切り踏み付けた。今日はどうにも虫の居所が悪い。
ぐちゃぐちゃに潰れ歪んだ動物の顔が先の子供の顔と重なる。
プロメザラの地には大陸の西端に位置する、海に臨む港街と城下街がある。
街から見える海の景色は穏やかであり、海運が盛んなことで有名である。「魔の海域」と呼ばれる大陸南方から東方にかけて激しく流れ込む海域とは異なり、この西端の地は大陸間を結ぶ航路や停泊地として昼夜を問わず賑わいを見せている。
大陸の旅人たちの間でこの街は「安息と始まりの地」と呼ばれ、憧憬の地としてしばしば話題に上る。
リンカは城下の娼館街、通称「貧民街」に生まれた。
憧れの地としてのプロメザラを知ったのは八歳の頃、生業である暗殺の対象が酔いに任せて怒鳴り散らす言葉から拾った。
初めてナイフで刺したその男は貿易商であり、その道の人間であれば多少名も知れている程度の男だった。男は娼館街にいる女子供を買い漁っては乱暴をはたらくどうしようもない人間であり、実際にリンカ自身も殴られた覚えがあった。
「殺しに私情を持ち込むな」。幼い頃から意味も分からず刷り込まれてきた言葉である。
リンカの親代わりであるヒョドーという男は、彼女に殺しをさせるために最低限の教育を施していた。そのため、幸いにも大陸言語の読み書きについては拙いながらも日常に不便はない。
しかし、殺しだけであれば読み書きなどの必要はさほどないが、彼女の探究心は並み以上のものがある。何事にも深いところまで突き詰めたいという強い欲求を持ち合わせていた。
娼館では時折、恐らく客が忘れていったか肩代わりにしたであろう古い書物を、こそこそと解読するリンカの姿が見られる。それを見た者の大半が笑い捨てるか、怒鳴り散らしてやめさせる。彼女を取り巻く環境は彼女が智を深めるには余りにも恵まれていない。
毎日の娼館での雑務や不規則に入る殺しの仕事とは別にして、数少ない自由な時間を見付けては、街中を散策することが彼女の日課となっている。
その甲斐あってか、街の北東部にある魔石商近くの宿屋には、プロメザラ城に品を献上した商人が多く泊まること、その厨房の裏口から入ると大抵豪勢な食事をつまみ食いすることができることに加え、厨房奥の棚には硬貨がずっしり入った袋が入っていることを知っている。
報酬もろくにない生業でも、いざとなればこの金を盗めばいい――腹が空けば盗み食い、物が欲しければ盗むか、金を盗んで手に入れる。
物心ついてからこの方、十五年余りを斯様に過ごしてきた。
「露店街にある、魔素工房のラザコックという男を消してこい」
剃り上げた頭、顎が張り頭頂から首にかけて刺青を入れた見るからに悪そうな人相、豪奢な服を纏った浅黒の大柄な男ヒョドーが、下品なほどに装飾の施された大仰な椅子に凭れながら、溜息でも吐くかのように言う。
娼館街の一角にある元締め「ヨニャルーヤ」の一室。無言のままに軽く頷き、背にした扉に向かって踵を返す少女。
「寂しいじゃねぇか、リンカ。たまには父さんに声を聞かせてくれよ」
刹那立ち止まり、去っていくリンカの背後に下卑た笑いが響き渡る。人を人とも思わぬ男の、心底人を馬鹿にした鳴き声。
それを遮るようにして乱暴に扉を送る少女の顔が憎しみに軋る。
ここでは子に対して当然のように殺しの「依頼」が下される。親の命令は絶対である。
子が親の擁護を必要とするのはこの街も例外ではなく、子供が一人で生きていける仕組みはない。殊に娼館街では、子が親に服従するのは勿論のこと、その生死を決めるのもまた大人の権利となっている。
望みもせずに孕んだ娼婦が子を産み、望みもせずに荒んだ環境下に生を強いられる子供。
大人たちの鬱憤の捌け口も、大人たちのどうしようもない時間や金を稼ぐのも子供。気に入られなければ笑い者にされ、いずれ飽きれば捨てられる。捨てられた子供の行き着く先は良ければ娼、悪くて奴隷――「子供」より過酷な待遇――、果ては野良犬の餌というのも間々ある。
旅人たちが見るこの街は大概が美しい。表の通りを見て回り、精々が裏道を一瞥して「汚い所がある」程度の感想を持って去るからだ。
遠くから見た美しい花園も、何てことはない。近くで見ればただの雑草だったのだ。
街に住めば、負の連鎖が娼館街の一角のみならず城下街全体に渦巻いていることが解る。
学のないリンカでさえ感覚的にそれを心得ている。だからこそ彼女はこの「美しい」街が嫌いだ。
ヒョドーが嫌いだ。大人たちが嫌いだ。卑屈な子供も、幸せの内にいる人々も悉く嫌いだ。
焼き串の良い匂いが漂ってくる。何の物とも知れぬ心臓、腎臓、肝臓などの臓物を寄せ集めて焼いた粗野なものだ。
一本あたり銅貨五枚もする代物だが、彼女にかかれば貨幣価値など無にも等しい。
人混みを後にし露店街を抜ける頃には、その手に香ばしい獣の焼き串が三本と包み紙が一つある――紙の中は動物を模した焼き菓子が入っている。
食べること、腹を満たすことは好きだ。食事に比べれば、その他すべてのことが彼女にとって付属、副産物、手段に過ぎないのだ。
「ラザコックについて教えろ」
少女は露店街の外れにある反物の露店に潜り、唐突に凄む。
「教えろとはなんだい。相変わらず口の利き方がなってないガキだね」
頭巾に前掛け姿、小柄な身長の割にしっかりした骨格の恰幅の良い中老の女性が、浅黒く皺の多い顔をしかめて毒づく。
大陸言語ではあるものの、若干の訛りが混じっているのは、彼女が大陸東方のルドラチャ出身だからであろう。大崩落後に魔素が枯渇したとされるルドラチャの人々は、古くから魔素に頼らない生き方をしているためその気性も逞しく、彼女もその血を脈々と引いているらしい。
ルドラチャにいた者の多くは「土を耕す者」を意味するドワル族であり、「地」の加護を多く授かっていることからも、その土地土地への順応性も高い。
「仕事なんだよ」
少女は煩そうに地面に視線を落とし舌打ちをする。苛立ちを串に向け、乱暴に肉を頬張る姿はまるで幼い子供である。対する中老クィミナは飛んできた蠅を払うような仕草でリンカに出ていくよう促す。
「人をぶっ殺すのが仕事かい。少しは殺される方の身にもなってみな」
「うるせぇな! 俺が殺すのは大体糞みてぇな奴ばっかだよ!」
人の生死が事も無げに安い天秤に掛けられる世において、殺される人間がどうだとか、殺す理由がどうかなどと追及するのは野暮である。
殊に子供にとっては全くどうでもいいことなのだ。
捨て台詞を吐いて去っていく背をドワルの女性は悲しそうに見詰める。
去り際に叩き落とされた幾何学模様の一反が午後の光を怪しく照り返した。
*
前方から呻き声が聞こえてくる。
荒々しくもどこか押し殺したような息遣いからは、夜な夜な路地裏を騒がせるような手合いでないことが分かる。
「……はぁ……ぅあ……」
昼は日も当たらず、夜は灯火一つないような湿り切った路地。そこに居つく者など大抵がろくでなしと決まっている。何にしても相手にしないことだ。
「……たぁ……けぇ……くぇ……ぅう」
申し訳程度に襤褸布を一枚巻きつけた見るからに貧相な男が倒れている。
伸び放題の髪に髭面、背丈には不釣り合いなほどにやせ細った手足が纏った布から見え隠れしている。
何ら変わり映えもしない、いつも路地裏にある風景の一部だ。
物を取り上げようにもヘドロに塗れ汚れた布ではかえって高くつく。
「――あぐぅう! ……ぅう……たぁ……」
どこにそんな気力があったのか、身を起こし縋り付こうとした男を足蹴にした。
構わず踏み超えるも、うつ伏せに倒れ伏した男は尚も腕を伸ばしてきた。
その拍子に開けた男の背中に子供の顔が覗いた。
「ガキまでいるのかよ……今は虫の居所が悪くてな」
食いかけの焼き菓子を投げてやる。地面に投げ出された包み紙が解け中の菓子が散らばった。
「……けぇえ……くぇ……」
男は投げ与えられた物が見えていないのか、ただこちらに腕を伸ばすばかりだ。
先の方から二人ばかり新手の足音が近付いてくる。
「いたぞ。こいつだ」
路地を曲がり姿を表したのは、時折娼館近くをうろついている赤ローブの連中だった。
「ぅう……ああ!」
「くそっ、手間取らせやがって」
二人組の赤ローブは思いの外抵抗する男の手足を抑える。
男の体が持ち上がった瞬間、纏った襤褸布が地面に落ちた。
「チッ、化物か……」
やせ細った胴体からは枝のような腕が六本は見える。背中にあった子供の顔は男の胴体から伸び、胸から上だけが重力に揺さ振られている。
ここのところ街にこうした「化物」がうろついている噂が立っている。
「おまえ、娼館の雑用だったな」
「……それがどうした」
赤ローブの一人が銅貨を突き出してくる。口封じかと思い受け取りかけたが、担いだ男まで下ろそうとするのを見て手を引っ込めた。
街をうろつく化物の噂と、良い噂の聞かない魔術師の集団。姿を現わしては消えていたのはこいつらが化物を連れ去っていたからだ。
ローブの下に隠れた顔が歪む。雑用を押し付けられずに不快を感じているに違いない。
人間を始末するにもかなり労力を要するものだ。殺すだけとは勝手が違う。
「ぁだぁ――」
布に収められた男が運ばれていく。あの男の事情など知ったことではない。
人が攫われる、奴隷にされる、殺される。そんなことは日常茶飯事だ。
だが妙に苛立つのは路地に漂う臭気のせいばかりではない。
「――ちくしょうが!」
汚泥に浸かった焼き菓子を思い切り踏み付けた。今日はどうにも虫の居所が悪い。
ぐちゃぐちゃに潰れ歪んだ動物の顔が先の子供の顔と重なる。
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