転生隠者のまったり生活日記

ひらえす

文字の大きさ
2 / 7

2.夕焼けを映すうどん

しおりを挟む


 ずっとアイテムボックスの中の本を読み続けて、気がついたら夕焼け空が美しい時間だった。

「もう夕方なんだ」

 本当はやらないといけないことがひとつだけあったのだが、今日はなんとなくやらなかった。やれなかったのかもしれない。
 リッカはひとつ息をついて、クッションから立ち上がった。
 ちなみにこのクッションも、アイテムボックス内にあったもので、割と自由に形を変え、好きに座れるタイプのものだ。

「これに座ってるから、ダラダラしちゃう……ってことでもないか」

 人間をダメにするとかなんとかいう触れ込みだったクッションを、とりあえずアイテムボックスに収納した。

「朝から何も食べてなかった。流石にお腹すいたわ」

 ダイニングテーブルのところまで行くと、朝と同じく操作盤ディスプレイを見ながら夕飯か軽食かになるものを探す。

(水は飲んでたとは言え、これは流石に不健康すぎる……)
 反省とため息をそっとこぼして、いよいよ赤く色づく外の景色を眺めた。

「あ……」

 リッカの操作盤の上を滑る手が止まった。
(冷凍のうどん……シンプルに素うどん)
 ペタペタとスリッパの音を立てて、久しぶりに台所の鍋を取り出していく。
 次の瞬間、調理場の目の前に現れたのは冷凍うどんと刻み葱とうどんつゆのペットボトルだった。

「あれ、そういえばガス台が無いんだ」

 本来ガス台が置かれているはずの場所には、何も無い。

「カセットコンロ……」
 もしかしたらあるかもと探せば、やはりアイテムボックスの中にあった。

「セカイさん、日本にいたことがあるのかも……?」

 リッカの口角がゆるりと上がった。

 お湯はお湯のまま、アイテムボックスから必要な量を取り出す。
 5分もすると、片手鍋の中にはネギを散らしたうどんが出来上がった。
 思いつきで最後に卵を入れた。

「もう素うどんでは無いよね」

 なんとなく、鍋を片手に、箸を持って板張りのバルコニーに降りる。

「月見うどん……いいや」

 鍋の中には、見事な夕焼けが映っている。

「夕焼けうどん、ね」

 極めて行儀が悪いのは分かっていたが、そのまま鍋からうどんを啜ってみた。
(あ、あったかい)
 胃に温かいものが滑り落ちる感触に、思わずほうっと息をついた。

「いい加減に神殿を探さないとなぁ……」

 転生する時の条件として『月に1回神殿で祈る』というものがあったのだが、リッカはここ2週間ほど、どうしても調べる気になれなかった。

「なぜって言われても困るんだけど、なんとなく、やりたくなかったんだよね」

 独り言に応えるのは、虫の音やそろそろおきだしてきたのだろう、夜の鳥の声だけ。

 リッカはまた息を吐くと、食べ終えた鍋と箸をことりと傍に置いて、操作盤で地図を出した。

「ええと。やっぱり近くには無いよね……」
(転生初日になんとなく見た時に、そう思ったんだよね……)

 リッカのクラスこの場所は、国境付近であり、ちょうど険しい山の上の方にある。道らしい道もない。

「聖サントリアナ王国の『バルガ』。ここなら神殿があるし、人もそれなりにいる、か……」
 1時間ほど地図と睨めっこして、リッカがようやく目をつけた町は、離れたところではあるが、それでも1番近い街。
(小さな村にも神殿やそれに準ずる場所はあるかもしれないけど、多分よそ者はとっても目立つだろうし……それなりの街のほうがいい)
 
「あとは、移動手段……」

 一度操作盤をしまって、鍋と箸を洗うために家の中に戻ることにした。

 空は夕焼けの余韻を含んだ夜になろうとしている。

———————————————

今日のメニュー

アイテムボックスより

冷凍うどん一玉
刻み葱(小ネギ)
うどんつゆ(350ccペットボトル)
生卵

素うどんからの月見うどん化。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貞操逆転世界に転生してイチャイチャする話

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が自分の欲望のままに生きる話。

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

無属性魔法しか使えない少年冒険者!!

藤城満定
ファンタジー
「祝福の儀式」で授かった属性魔法は無属性魔法だった。無属性と書いてハズレや役立たずと読まれている属性魔法を極めて馬鹿にしてきた奴らの常識を覆して見返す「ざまあ」系ストーリー。  不定期投稿作品です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

貞操逆転世界で出会い系アプリをしたら

普通
恋愛
男性は弱く、女性は強い。この世界ではそれが当たり前。性被害を受けるのは男。そんな世界に生を受けた葉山優は普通に生きてきたが、ある日前世の記憶取り戻す。そこで前世ではこんな風に男女比の偏りもなく、普通に男女が一緒に生活できたことを思い出し、もう一度女性と関わってみようと決意する。 そこで会うのにまだ抵抗がある、優は出会い系アプリを見つける。まずはここでメッセージのやり取りだけでも女性としてから会うことしようと試みるのだった。

転生したら幽閉王子でした~これどうすんの?

サクラ近衛将監
ファンタジー
 神様の眷属の過失が原因の事故に遭って死んだ桜庭雄一が異世界に転生したら、とある国の忌避すべき王子として幽閉されていた。  転生にはチートがつきもののはずだが、事故で死んだ者が300名を超えるために、個別にチートは与えられず、転生先の者の能力を生かせと神に告げられている。  「神の加護」ではないけれど、「恩寵」が与えられているので、当該異世界では努力を為した分、通常に比べると成果があるらしい。  これはとある国の幽閉王子に転生した男の冒険譚である。  原則として、毎週月曜日20時に投稿予定です。

処理中です...