目指せへいおんライフ!……波乱万丈なんて望んでない!!

おいしいクルミ

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第1部

17:厄介ごとの始まりの予感

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ギルドから宿に戻る途中、夜ご飯を買いに、露店がたくさん並んでいる広場のようなところに来た。




「いらっしゃーい!きょうは、オーク肉が安いよー」




オークっておいしいのかなぁ。

ためしに食べてみようかな。

大銅貨1枚と銅貨3枚(130円)

それなりに安い。




ポケットからお金を取り出そうとしたその時、




「こんにちわぁ~。そこのかわいいお嬢さん、不思議な魂を持ってるねぇ~。」




「え?えっと、わたし?」




全体的に黒くて、フードをかぶった占い師のような、不思議な格好をした、怪しい女の人が私の目を見て声をかけてきた。町の中でその恰好は浮いて見えるのだが、誰も気にしていない。まるで見えていないみたいだ。

不思議な魂、とは、転生してきたからだろうか?

なんでそんなことがわかるのだろう。




「そうだよぉ~。」




「んー?あなたの魂、少し歪んでいるねぇ。ちょっと、ゆっくりお話ししたいなぁ、みんなじゃま。」




そういった瞬間、歩いていた人、買い物をしていた人、落ちてきた葉っぱでさえも、そのまま止まった。

時間が止まって、私とその人だけが残った。




危険だ。




本能がそう告げている。




逃げないと。




わかっているのに、その女の人の言葉が気になって、自分がおかしいとつきつけられて、体が動かなかった。




 前世の私、荒川英理菜として生きたとき、両親の愛情が欲しいと嘆いた。認められたいと頑張っても無駄だった。周りの、自分の能力だけを見ている人が、内面を見てくれない人が嫌だった。

 いつしか、あきらめて、自分からアピールできなかった自分が情けなくて、何より醜く見えて、本や知識へと逃げた。それらは何も変わらない、誰が読んでも知っても公平に同じことがわかって、そして何より自分を裏切ることもないから。

 最初は楽しかったそれを逃げに使ってしまったことは、もっと嫌だったのにそんな気持ちを心の底に押し込めて。

 親がいなくなって、引き取り先でもめている声を聞いたとき思ってしまったのだ。”わたしはうまれてこないほうがよかったの?”と。

 悲しいとか、苦しいとか、そういうことを忘れるために無心でいることにしたら、うれしい、とか、楽しい、もわからなくなってしまっていた。でも、わからなくなっていたこともわからなくなっていて。




 転生してきて、エレナとして生を受けて、あたたかい、家族の愛情を注がれて、そういう過去を忘れて楽しく過ごしていた。そのあたたかさをあたりまえだと勘違いしていた。前世に忘れた、感情をしっかり持った。

 それが急に終わって、愛されていたと思っていた兄に恨まれていたと知って、衣食住をとりあえず揃えられて落ち着いたとき

あぁ、そうか、人間は、表面だけ見たってわからないんだった。愛情って、当たり前に、無償でもらえるものじゃないんだった。

と思い出した。




 私がおかしいのは、ゆがんでいるのは、確かにそうかもしれない。




 そういう自覚が、本当は心の中にあったから、この女の人の言葉は、心の奥深くまで突き刺さった。




「何か大事なところにふたがされてるねぇ~。そのふたのせいで、人生の大切なことを勘違いしてるんじゃないかなぁ~。」




どういうこと?

だいじなこと?

ふたをしている?

なにに?




「ねぇ、あなたの心の中にある、大きな負の感情をつかって、私たちの役に立つ気はなぁい?当たり前に愛情をもらっている人たちに、真実をしっかり教えてあげましょうよ。『人間ってそんなにやさしいもんじゃないんだよ』って。」




私の中の”フノカンジョウ”?

ヒトノヤクニタツ?

ソレハイイカモシレナイ。

ミンナガニンゲンノヤサシサヲウタガエバ――――――――――




っ!

だめ、なにかんがえてるの?

私の過去は、万人にあてはまるわけじゃない。

私の魂がゆがんでいたとしても、負の感情が多かったとしても、こんな怪しい、見るからに危険な雰囲気の人に乗せられて力を使わされるのは、正しい力の使い方じゃない。

私の持つ力は大きいって知っているから、こんな言葉に惑わされてはたくさんの人に、世界に危害が及ぶ。




「お断りします。誰だかわかりませんが、そんなに怪しいお誘いに乗るわけにはいきません。」




「ふぅ~ん。ずいぶん心が揺れてたわよぉ~?そんな、正論に従ってるばかりじゃいつか破滅するよぉ~?それだけあなたの魂には負の感情が多いのよぉ~?」




「それでも、です。」




「後悔しても、知らないわよぉ~。私たちの世界変革を黙ってみてるといいわぁ~。」




「私の私的な感情で世界を変えることは、許されないことなはずです。私の感情は、自分でけじめをつけていきたいです。」




「そぉ。使えそうだったんだけどねぇ。でも、いつかあなたが悔しがって私たちを見てひざまずく姿が目に見えるわぁ。またねぇ~。」




言い終わった瞬間、また時間が流れ出した。

色の戻った町で、私は動くことができず、立ちすくんだ。




誘いに乗らなくてよかった。よく思いとどまれた。

そう思う一方で、

人間の優しさを疑う目がまた戻ってしまった。










『あなたの魂、少し歪んでいるねぇ。』というあの女の声が耳に残った。










心の奥深くがちくっと痛んだ。

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