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第1部
26:精霊の丘で見つけたもの
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「さ、帰るわよ。」
「あの、ソフィアナさんの大切な人って、どんな人なのですか?お墓、ここにあるのですよね?」
話を聞いてからどうしても聞いてみたいと思っていた。
ソフィアナさんが大切に思う人なのだ。
「そうよ。折角だからエレナちゃんもお祈りしていってくれる?」
「もちろんです!」
石舞台のちょうど真反対の端に小さな石碑のようなものがあった。
周りには色とりどりの花が咲いていて、風が吹く度にふわふわと揺れるその光景はとてもきれいで、穏やかで、そしてなぜか、初めて見たはずなのに懐かしい気持ちにさせられた。
「ここよ。」
ソフィアナさんはやさしい表情で小さな石碑の前にしゃがんだ。
そして、石碑の文字をなぞるようにそっとなでる。
リエ=アラカワ
ハヤト=アラカワ
え……
私はその名前に見覚えが、聞き覚えがあった。
「あの二人はね、夫婦だったの。子供が一人いてね、その子のことが大好きだったんだって。でも、二人はどうしても仕事のせいで子供と関わることが少なくなってしまっていて、気づいた時にはどうやって接すればいいのかわからなくなっていたの。ある時、その子が自分たちの仕事のまとめを読んでることに気づいて、うれしくって余計に仕事に熱が入ってしまったのですって。それで入りすぎた仕事を、急いで片づけて、子供との時間をつくるために一生仕事しなくても生きていけるくらい稼いだんだって。最後の仕事の日、これが終わったら子供と向き合おう、幸せにしてあげられる親になろう、って家を出たら、もう会えなくなっちゃったそうよ。何をしているのかしらね、ホント。」
「でも、私はね―――――――――――――――――」
その言葉は、バカにしている様子はない。ソフィアナさんは慈悲のこもったまなざしで語る。
しかし、そんなことは今、私の目には入っていなかった。
言葉の続きも耳に入ってこない。
私は、その石碑の文字を見ることしかできないでいた。
かあさんととうさんなの……?
どうしてここに?
飛行機事故で亡くなったんじゃなかったの?
ねぇ、ソフィアナさんの言ってる”子供”って『私』―――――英理菜なの?
母さんと父さんは、『私』との時間をつくりたかったの?
……っどこまで不器用なの、ホントにっ
私だって、二人ともっと話したかったし、周りのみんなみたいに旅行とか言ってみたかったしっ
なんで、なんでかってにいなくなっちゃったのっ……!
どんどん涙が零れ落ちてくる。
涙を流さないようにするなんて器用なこと、今の私には出来なかった。
「エ、エレナちゃん!?どうしたの?!」
ソフィアナさんの焦った声が聞こえる。
答えようとしても声がふにゃりと消えてしまう。
私は、石碑の前までふらふらと近づいて行った。
正面まで来るとおもわずぺたりと座り込んでしまう。
石碑の文字に、母さんと父さんであろうその名にそっと触れる。
涙で視界がゆがんですべてがはっきりとした形に定まらない。
ねぇ、かあさん、とうさん、わたし、もっと仲のいい家族に憧れてたんだけどね、二人のこと、ひどいって思ってたんだけどね、二人はちゃんと私のことが好きだったんだね。二人とも、不器用すぎだよ。私、全然わかんなかったよ?ねぇ、わたしは二人を完全には許せないよ。いまさらだもん。もう会えないし、結局ちゃんと家族になれなかった。でも、二人のこと、今ならもう一度自慢のかあさんと父さんだ、って言える気がするよ。
「……かあさん、とうさん…………」
口からこぼれたその言葉にこたえるものはなかった。
ただ私の涙が零れ落ちて石碑にしみこまれる音だけが丘に響く。
「……かえりましょう。」
静けさを最初に壊したのはソフィアナさんだった。
なぜ泣き始めたのかもわからず、困惑していたが、そこはあえて触れずにいてくれているのだろう。
まだ涙が止まらない私に近づいて、転移の魔法を唱えた。
「あの、ソフィアナさんの大切な人って、どんな人なのですか?お墓、ここにあるのですよね?」
話を聞いてからどうしても聞いてみたいと思っていた。
ソフィアナさんが大切に思う人なのだ。
「そうよ。折角だからエレナちゃんもお祈りしていってくれる?」
「もちろんです!」
石舞台のちょうど真反対の端に小さな石碑のようなものがあった。
周りには色とりどりの花が咲いていて、風が吹く度にふわふわと揺れるその光景はとてもきれいで、穏やかで、そしてなぜか、初めて見たはずなのに懐かしい気持ちにさせられた。
「ここよ。」
ソフィアナさんはやさしい表情で小さな石碑の前にしゃがんだ。
そして、石碑の文字をなぞるようにそっとなでる。
リエ=アラカワ
ハヤト=アラカワ
え……
私はその名前に見覚えが、聞き覚えがあった。
「あの二人はね、夫婦だったの。子供が一人いてね、その子のことが大好きだったんだって。でも、二人はどうしても仕事のせいで子供と関わることが少なくなってしまっていて、気づいた時にはどうやって接すればいいのかわからなくなっていたの。ある時、その子が自分たちの仕事のまとめを読んでることに気づいて、うれしくって余計に仕事に熱が入ってしまったのですって。それで入りすぎた仕事を、急いで片づけて、子供との時間をつくるために一生仕事しなくても生きていけるくらい稼いだんだって。最後の仕事の日、これが終わったら子供と向き合おう、幸せにしてあげられる親になろう、って家を出たら、もう会えなくなっちゃったそうよ。何をしているのかしらね、ホント。」
「でも、私はね―――――――――――――――――」
その言葉は、バカにしている様子はない。ソフィアナさんは慈悲のこもったまなざしで語る。
しかし、そんなことは今、私の目には入っていなかった。
言葉の続きも耳に入ってこない。
私は、その石碑の文字を見ることしかできないでいた。
かあさんととうさんなの……?
どうしてここに?
飛行機事故で亡くなったんじゃなかったの?
ねぇ、ソフィアナさんの言ってる”子供”って『私』―――――英理菜なの?
母さんと父さんは、『私』との時間をつくりたかったの?
……っどこまで不器用なの、ホントにっ
私だって、二人ともっと話したかったし、周りのみんなみたいに旅行とか言ってみたかったしっ
なんで、なんでかってにいなくなっちゃったのっ……!
どんどん涙が零れ落ちてくる。
涙を流さないようにするなんて器用なこと、今の私には出来なかった。
「エ、エレナちゃん!?どうしたの?!」
ソフィアナさんの焦った声が聞こえる。
答えようとしても声がふにゃりと消えてしまう。
私は、石碑の前までふらふらと近づいて行った。
正面まで来るとおもわずぺたりと座り込んでしまう。
石碑の文字に、母さんと父さんであろうその名にそっと触れる。
涙で視界がゆがんですべてがはっきりとした形に定まらない。
ねぇ、かあさん、とうさん、わたし、もっと仲のいい家族に憧れてたんだけどね、二人のこと、ひどいって思ってたんだけどね、二人はちゃんと私のことが好きだったんだね。二人とも、不器用すぎだよ。私、全然わかんなかったよ?ねぇ、わたしは二人を完全には許せないよ。いまさらだもん。もう会えないし、結局ちゃんと家族になれなかった。でも、二人のこと、今ならもう一度自慢のかあさんと父さんだ、って言える気がするよ。
「……かあさん、とうさん…………」
口からこぼれたその言葉にこたえるものはなかった。
ただ私の涙が零れ落ちて石碑にしみこまれる音だけが丘に響く。
「……かえりましょう。」
静けさを最初に壊したのはソフィアナさんだった。
なぜ泣き始めたのかもわからず、困惑していたが、そこはあえて触れずにいてくれているのだろう。
まだ涙が止まらない私に近づいて、転移の魔法を唱えた。
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