捨てられた令嬢はイケメン王子に舐められる

斯波@ジゼルの錬金飴③発売中

文字の大きさ
9 / 11

8.

しおりを挟む
 けれど十日が経ってもエイリーフからの返事が届くことはなかった。

 なぜ返事をくれないのだろう。

 姫様がいるから難しいのか。それともあの言葉はアンナをキープするためのもの? 今動かれたら困る、とか。

 嫌な想像ばかりしてしまうのは、元婚約者との時にも似たような経験があるから。
 もう一度手紙を出したい。けれどそれでも返って来なかったら。

 信じていた相手から捨てられるのは辛い。
 いつ切り捨てられるのかが怖くて、毎晩涙で枕を濡らす。少しでもリラックス出来るようにと枕元に置いたポプリはあの手紙に描かれていた花で作ったものだ。なんという皮肉だろうか。毎朝温めたタオルで腫れた目を癒やし、学園へと通う。

 ずううんと暗い気を背負っているからか、たまらずガウロが声をかけてきてくれた。

「ちゃんと眠れているか?」
「……少しだけ」

 アンナの肩を軽く叩きながら、ベンチへと連れていってくれる。人目を避け、庭ではなく校舎裏にあるものだ。

 婚約者のいる令嬢が他の男性と二人きりになるなんてどんな噂がたつか分からない。彼もアンナも分かっていて、この場所を選んだ。それでも外なので完全に人がいない訳ではない。何かあった時には言い訳だって出来る。

 そもそも言い訳が必要となるようなことをするなという話ではあるが、二人にとって元婚約者との婚約破棄以上の醜聞などないのだ。

「何かあったのか?」
「手紙が来たんです」
「よくないことが書いてあった?」
「良いことばかり書いてありました。けど、返事が来ないんです。……前もそうだった」
「それは怖いよな。俺も知ってる」

 彼も同じ記憶があるようだ。アンナに同意する声が暗い。

「気を遣ってもらってばかりで」
「気にするな。俺はただ君に笑って欲しいだけだから。とりあえずこれ」

 ガウロはポケットから袋を取り出した。紐を解き、中から何かを取り出した。

 チョコチップクッキーだ。エイリーフが用意してくれたお菓子には必ず入っていた。おそらく彼の好きなお菓子なのだろう。ガウロは自分の分を取り出してからアンナに袋を差し出した。

「一緒に食べよう」
「いただきます」

 一枚もらい、彼と並んでパクリと食べる。
 しっとり系だ。エイリーフが用意してくれるものはサクサク系。けれどこちらも美味しい。思わず頬が緩んだ。

「美味しいです」
「気に入ってくれてよかった。俺のお気に入りのクッキーなんだ」
「いつも持ち歩いてるんですか?」
「ああ、学園に通うようになってからは。また食べたくなったら声をかけてくれればいつでも分ける」
「ありがとうございます」
「クッキーで君が笑えるなら安いものだ」

 彼は二枚目に手を伸ばす。ん、と差し出された袋からアンナももう一枚。

「ちゃんと決まったら、私がお茶を用意しますね」
「……その時は、クッキー以外のお菓子も持ってくる。二人でやけ食いしよう」

 彼はサクサクと食べながら遠くを見つめる。アンナも彼と同じように空を見上げた。
 晴れ渡る空のように、この悩みもすっきりと晴れればいいのに。

「っ!」
「どうかしたか」
「今、目が合いました。向こうの棟にいたみたいで。でもすぐにどこかへ行っちゃいました……」
「これで何か動きがあるといいんだが……」
「エイリーフ王子があそこを通ること、知ってたんですか?」
「いつも同じルートだからな」

 ガウロはなんてことないように笑う。彼はアンナのおかげで前に進めたと言ってくれたが、何かした覚えはない。なんだか助けられてばかりだ。

 二人して次の授業をサボってしまった。
 何をする訳でもなく、ぼおっと二人して空を眺めるのである。不思議とサボタージュをしてしまった罪悪感はなかった。

 そして終わりの鐘が鳴ってからすくりと立ち上がる。

「それじゃあ次の授業に行くか」
「はい」

 次の授業からはしっかりと受けて、いつものように図書館で迎えの馬車を待つ。今日は冒険小説を読もう。図書館奥の本棚を目指す。上の方に見たことのあるタイトルを見つけた。

「あ、これ読んだことある」

 エリックから教えてもらった小説が面白くて、何冊か父に買ってきてもらったのだ。その後、親戚の男の子が冒険小説にはまっているという話を聞き、譲ってしまったので家にはない。久しぶりに読んでみたくなった。

 つま先を伸ばしながら、手を上へと伸ばす。けれど関節一つ分くらい届かない。もう少し頑張れば届く。踏み台を持ってくるまでもない。視線を落としながらぷるぷると身体を震わせている。すると自分の影に大きな影が被さった。

「これ?」
「はい」

 返事をすれば、頑張っても届かなかった本を取ってくれる。
 親切な人だ。ありがとうございます、とお礼を告げるために視線をあげる。そして目を丸くした。

「エイリーフ様……なぜここに?」

 ずっと会いたいと思っていた人がそこにいたのだから。思わず回りを確認してしまう。けれど姫様はいないようだ。ほっと息が漏れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。 新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。 二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。 ところが。 ◆市場に行けばついてくる ◆荷物は全部持ちたがる ◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる ◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる ……どう見ても、干渉しまくり。 「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」 「……君のことを、放っておけない」 距離はゆっくり縮まり、 優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。 そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。 “冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え―― 「二度と妻を侮辱するな」 守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、 いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。

『婚約破棄された令嬢、白い結婚で第二の人生始めます ~王太子ざまぁはご褒美です~』

鷹 綾
恋愛
「完璧すぎて可愛げがないから、婚約破棄する」―― 王太子アルヴィスから突然告げられた、理不尽な言葉。 令嬢リオネッタは涙を流す……フリをして、内心ではこう叫んでいた。 (やった……! これで自由だわーーーッ!!) 実家では役立たずと罵られ、社交界では張り付いた笑顔を求められる毎日。 だけど婚約破棄された今、もう誰にも縛られない! そんな彼女に手を差し伸べたのは、隣国の若き伯爵家―― 「干渉なし・自由尊重・離縁もOK」の白い結婚を提案してくれた、令息クリスだった。 温かな屋敷、美味しいご飯、優しい人々。 自由な生活を満喫していたリオネッタだったが、 王都では元婚約者の評判がガタ落ち、ざまぁの嵐が吹き荒れる!? さらに、“形式だけ”だったはずの婚約が、 次第に甘く優しいものへと変わっていって――? 「私はもう、王家とは関わりません」 凛と立つ令嬢が手に入れたのは、自由と愛と、真の幸福。 婚約破棄が人生の転機!? ざまぁ×溺愛×白い結婚から始まる、爽快ラブファンタジー! ---

『婚約破棄された瞬間、前世の記憶が戻ってここが「推し」のいる世界だと気づきました。恋愛はもう結構ですので、推しに全力で貢ぎます。

放浪人
恋愛
「エリザベート、貴様との婚約を破棄する!」 卒業パーティーで突きつけられた婚約破棄。その瞬間、公爵令嬢エリザベートは前世の記憶を取り戻した。 ここは前世で廃課金するほど愛したソシャゲの世界。 そして、会場の隅で誰にも相手にされず佇む第三王子レオンハルトは、不遇な設定のせいで装備が買えず、序盤で死亡確定の「最愛の推し」だった!? 「恋愛? 復縁? そんなものはどうでもいいですわ。私がしたいのは、推しの生存ルートを確保するための『推し活(物理)』だけ!」 エリザベートは元婚約者から慰謝料を容赦なく毟り取り、現代知識でコスメ事業を立ち上げ、莫大な富を築く。 全ては、薄幸の推しに国宝級の最強装備を貢ぐため! 「殿下、新しい聖剣です。使い捨ててください」 「待て、これは国家予算レベルだぞ!?」 自称・ATMの悪役令嬢×不遇の隠れ最強王子。 圧倒的な「財力」と「愛」で死亡フラグをねじ伏せ、無能な元婚約者たちをざまぁしながら国を救う、爽快異世界マネー・ラブファンタジー! 「貴方の命も人生も、私が全て買い取らせていただきます!」

【完結】元悪役令嬢は、最推しの旦那様と離縁したい

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
「アルフレッド様、離縁してください!!」  この言葉を婚約者の時から、優に100回は超えて伝えてきた。  けれど、今日も受け入れてもらえることはない。  私の夫であるアルフレッド様は、前世から大好きな私の最推しだ。 推しの幸せが私の幸せ。  本当なら私が幸せにしたかった。  けれど、残念ながら悪役令嬢だった私では、アルフレッド様を幸せにできない。  既に乙女ゲームのエンディングを迎えてしまったけれど、現実はその先も続いていて、ヒロインちゃんがまだ結婚をしていない今なら、十二分に割り込むチャンスがあるはずだ。  アルフレッド様がその気にさえなれば、逆転以外あり得ない。  その時のためにも、私と離縁する必要がある。  アルフレッド様の幸せのために、絶対に離縁してみせるんだから!!  推しである夫が大好きすぎる元悪役令嬢のカタリナと、妻を愛しているのにまったく伝わっていないアルフレッドのラブコメです。 全4話+番外編が1話となっております。 ※苦手な方は、ブラウザバックを推奨しております。

偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜

紅葉山参
恋愛
貧しいけれど、愛と笑顔に満ちた生活。それが、私(アイナ)が夫と築き上げた全てだと思っていた。築40年のボロアパートの一室。安いスーパーの食材。それでも、あの人の「愛してる」の言葉一つで、アイナは満たされていた。 しかし、些細な変化が、穏やかな日々にヒビを入れる。 私の配偶者の帰宅時間が遅くなった。仕事のメールだと誤魔化す、頻繁に確認されるスマートフォン。その違和感の正体が、アイナのすぐそばにいた。 近所に住むシンママのユリエ。彼女の愛らしい笑顔の裏に、私の全てを奪う魔女の顔が隠されていた。夫とユリエの、不貞の証拠を握ったアイナの心は、凍てつく怒りに支配される。 泣き崩れるだけの弱々しい妻は、もういない。 私は、彼と彼女が築いた「偽りの愛」を、社会的な地獄へと突き落とす、冷徹な復讐を誓う。一歩ずつ、緻密に、二人からすべてを奪い尽くす、断罪の物語。

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

顔も知らない旦那様に間違えて手紙を送ったら、溺愛が返ってきました

ラム猫
恋愛
 セシリアは、政略結婚でアシュレイ・ハンベルク侯爵に嫁いで三年になる。しかし夫であるアシュレイは稀代の軍略家として戦争で前線に立ち続けており、二人は一度も顔を合わせたことがなかった。セシリアは孤独な日々を送り、周囲からは「忘れられた花嫁」として扱われていた。  ある日、セシリアは親友宛てに夫への不満と愚痴を書き連ねた手紙を、誤ってアシュレイ侯爵本人宛てで送ってしまう。とんでもない過ちを犯したと震えるセシリアの元へ、数週間後、夫から返信が届いた。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。 ※全部で四話になります。

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

処理中です...