捨てられた令嬢はイケメン王子に舐められる

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9.

「誰を探してた?」

 エイリーフはそんなアンナの様子を勘違いしたようだ。眉間に皺を寄せながらふっと鼻で笑った。自分の知っている彼とは違って、ビクッと身体を震わせてしまう。

「あ、あの私……」
「いいや。こっち来て」

 強引に腕を引かれ、先ほど取ってもらった本が手からすり抜けてしまう。けれどエイリーフは構わずずんずんと進んでいく。

 連れて行かれたのは空き教室だった。バンッと大きな音を立ててドアを閉める彼の目は冷たい。何を考えているのか分からない。そのまま椅子に腰掛けるように指示される。

「靴下脱いで」
「え?」
「早く。時間がないから」

 訳も分からぬまま、アンナは右の靴下を脱ぐ。そして左に手を伸ばそうとすると、エイリーフがアンナの裾をめくった。驚きで声すら出ない。

 彼はそんなのお構いなしでふくらはぎに舌を這わせる。今まで手や首だったのに。

「やっ……」
「逃げないで。まだ終わってない」

 アンナの頭の中はパニック状態。
 いきなりやってきて舐め始めたことはもちろん、今日はなぜかわざと水音を立てるように舐めるのだ。

 今までは馬車の中や彼の部屋で知らない人が突然入ってくることのない、完全にプライベートな場所だった。けれど今は放課後とはいえ、まだ学園には生徒が残っている。誰かが来て、突然ドアを開けるのではないかとヒヤヒヤする。

 静かな部屋に響く水音が卑猥だからなおのこと。ますます恥ずかしくなっていく。アンナは声が漏れないように自分の口を押さえる。


 恥ずかしい。けれど彼を拒絶することは出来ない。
 終わるまで、彼が満足するまで受け入れるしかない。

 たとえ姫様と比べられていたとしても、今ここで拒絶したら彼は婚約を解消してしまうかもしれない。嫌だ。嫌われたくない。離れたくない。そう思うのに、自らの身を差し出すことしか出来ない自分がふがいない。

 足りないのは家格だけではない。
 悔しさでボロボロと涙があふれた。

「うっ……うぅ」
「ア、アンナ? 嫌だった? ごめんね」

 アンナが泣いていると気づいたエイリーフは途端に焦り始める。太ももから手と舌を離し、おろおろと手を動かし始める。

「拒絶されないからって調子に乗っていた。ごめん。もうこんなことしないから」
「違います」
「何が違うの? 僕に教えて?」

 優しく両手を包まれる。アンナはすんすんと鼻を鳴らしながら、彼に思いを打ち明けた。

「私には都合の良さしかないから。それが情けなくて」
「昼間の男に何か言われたんだな! あんなやつの言葉なんて気にしなくて良いから」
「ガウロ様を悪く言わないでください。彼はこんな私を励ましてくれたの」
「どんなに優しい言葉を吐いたところで、僕の大事なアンナを傷つけた事実は変わらない」
「嘘」

 大事だなんて、そんなの嘘に決まっている。

 エイリーフは姫様を選ぶのだ。それが国のためだから。なぜ選ばれたのか本人ですら分からない伯爵令嬢と天秤にかけるまでもない。分かっているから、そんな見え透いた嘘は言わないで欲しい。惨めでたまらなくなってしまうから。

「嘘なんかじゃない」
「私は舐められるだけの役だもの。それ以外何にもないの。姫様を選ぶに決まってる」
「僕はアンナだけを愛している。舐められるのが嫌だって言われてもこの気持ちは変わらない」
「エイリーフ様は舐めるために私と婚約したんでしょ?」
「まさか! あれはただの牽制だ。初めて会った日からずっとアンナしか見てなかった。もう二度と他の男に奪われたくなくて……」
「でもエイリーフ様は初めて会ったあの夜から」
「あの日が初めてじゃないんだ」
「え……」

 エイリーフの言葉の意味が分からず、首を傾げる。
 あの日が初めてのはず。アンナが忘れているだけなのかと記憶を必死に辿った。けれど答えを見つけることは出来ない。

 不思議そうなアンナに、エイリーフは優しく微笑んだ。

「以前、冒険小説の話をしただろう? あの本をアンナに教えたのは、エリックは僕なんだ。事情があってあの後すぐに迎えに行くことは出来なかったけれど……君の中に残っていたことが嬉しかった」
「エリックがエイリーフ、さま?」
「ああ、そうだ。十年間ずっと思い続けてきた。だからアンナが他の男を愛していたとしても逃がしてあげることは出来ない」
「ガウロ様とはそんなんじゃないです!」

 ガウロはただ捨てられ仲間を気にしてくれていただけだ。アンナも同じ状況を体験したことのある彼だからこそ頼った。恋愛感情なんてない。あるのは互いに幸せになって欲しいという気持ちだけだ。

「ではなぜ二人であの場所にいた? 僕の手紙には返事をくれなかったのに」
「返事をくれなかったのはエイリーフ様の方ではないですか! だから諦めようって」
「それはいつのこと」
「手紙をくれたその日に返しました」
「……姫か」
「え?」

 エイリーフは頭を抱えながら「ごめん。僕が悪かった」と零した。

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