捨てられた令嬢はイケメン王子に舐められる

斯波@ジゼルの錬金飴③発売中

文字の大きさ
11 / 11

10.

「もう少しだけ待って欲しい。来週には姫が国に帰るから」
「でも留学はまだ残っていて……」
「僕がアンナとこれ以上離れたくないって無理言って早めてもらったんだ。この留学は姫の結婚を整えるための時間稼ぎだったから」

 エイリーフはこれ以上勘違いされたくないからと、今回のことを話してくれた。
 本当は機密事項なのだけど、と添えて。

 姫は昔からエイリーフが好きだった。だがエイリーフの叔母がかの国に嫁いでいるので、権力バランスを考えると結婚は難しい。彼女には自国の公爵令息と婚姻を結んでほしいと王様は考えていた。だが我儘を言ってなかなか進まない。そんな時にエイリーフが伯爵令嬢と婚約を結んだと聞いて騒ぎ出した。

 なのでそれを利用することにした。
 すでに結婚相手は決まっているので、結婚の準備も整えてしまうことに。そして一昨日ようやくその準備が整ったと連絡があった。

「王妃様が倒れたという名目で国の使いが来る。それで留学は終わり。姫様をこの国に留める役を勤め上げた僕は晴れてアンナと結婚が出来る」
「けっ、こん?」
「実はもう伯爵の許可ももらっているんだ。本当はアンナにも伝えたかったんだけど、言ったら僕が姫様に隠せなくなりそうだから」
「私は……」
「今はまだ返事は言わないで。姫様が帰った後で教えて欲しい。答えが良くても悪くても、受けた仕事は全うしないといけないから」

 エイリーフは「いい答えだと嬉しいけどね」と優しく微笑みながらアンナの髪を撫でる。そして髪先に一つキスを落としてから立ち上がった。

「さて、僕はそろそろあの人の元に戻るよ」
「……あの、エイリーフ様」
「なあに?」
「えっと、その……頑張ってください」
「ありがとう。アンナの応援があれば僕は何でもできるよ」

 爽やかに笑い、部屋を去っていった。……アンナが履いていた靴下を持って。残されていたのは新品の靴下だった。履いていた靴下と同じ色だが、刺繍が違う。

 変態趣味があるのもあながち嘘ではないのではないか。
 新しい靴下を履きながら変な人を好きになったものだとため息を吐く。けれど少し前よりも気持ちが軽い。

 時間をくれた彼はきっとどちらの答えも受け入れてくれるのだろう。けれどアンナの答えはもう決まっている。

「私も好きって言おう」

 好きでなければここまで悩むこともなかったのだ。図書館に戻り、落とした本を拾ってから貸し出し処理を行なってもらう。

 エリックがエイリーフだと知り、ますますこの本が読みたくなった。また二人で話せる時間が出来たらこの本の話をしよう。

 本を抱えて御者が待つ場所へと向かう。遅くなってしまったので心配していたようだが、アンナの顔を見て柔らかく笑ってくれた。訳は聞かず、ただ「良いことがあったようで、私も嬉しいです」と言ってくれた。



 週が変わってすぐ、姫様は国に帰っていった。
 国を越えたと報告が来るや否や、エイリーフはアンナを抱きしめた。

「アンナ、この前の返事を聞いてもいいかい?」
「はい。喜んで。私もエイリーフ様が好きです」
「ありがとう。ありがとう、アンナ」

 突然の告白に、事情を知らない周りは目を丸くしていた。ただエイリーフとアンナの友人、それからガウロだけは良かったと胸を撫で下ろしていた。


 エイリーフはガウロをちらっと見て彼にも小さく「君にも心配かけたな」と呟いた。
 後で聞いた話だが、二人でクッキーを食べた時すでにガウロは王家サイドの事情を知っていたようだ。

「王家の婚姻ともなればいくら隠していても大きな動きがある。商人はそれをめざとく見つけるのが仕事なんだ」

 エイリーフはアンナを捨ててなんていないと知っていても、悲しむ仲間を見捨てられなかったのだと。エイリーフに招待された王城の客間で、ガウロは困ったように笑いながら教えてくれた。

 だがそれだけではない。彼はこの情報を得るために奔走してくれていたのだ。
 エイリーフは少し焼いていたが、変な男に目をつけられなくて良かったとも付け足した。アンナ同様、エイリーフもガウロのことを信頼してくれたようだ。



 誤解が解けたアンナは陛下達にも挨拶を済ませ、姫様の国の王家からも不安にさせて済まなかったとの手紙を受け取った。

 さすがの姫様も帰ってすぐに結婚式を挙げられては拒むことも出来なかったらしく、今は公爵家の妻として生活しているようだ。

 平穏な生活に戻り、今は結婚の相談ごとをするため、朝も夜もエイリーフと共にいる。
 すでに結婚式についての話し合いは完了しており、ウェディングドレスの注文も済ませている。エイリーフたっての希望で半年後には盛大な式を挙げる予定だ。

「アンナ、どんな家に住みたい?」

 なんでも今回の功績を認め、家を建ててくれることになったらしい。姫様の結婚相手が港を有する領を治めており、今回のことで相手国との貿易で有利な契約を結べたとか。それでかなりの収入が見込めるとのこと。

 設計士に書いてもらった図を眺めながら、エイリーフはアンナの首を舐める。
 舐めるのが目的の婚約ではなかったとはいえ、彼は今でも毎日アンナを舐める。もう癖みたいなものなのだろう。

 まだ恥ずかしさはある。
 それでもこれもエイリーフからの愛情表現の一つだと思うと、アンナも強く言うことは出来ず、今日も今日とて彼を受け入れるのだった。
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

片思いの貴方に何度も告白したけど断られ続けてきた

アリス
恋愛
幼馴染で学生の頃から、ずっと好きだった人。 高校生くらいから何十回も告白した。 全て「好きなの」 「ごめん、断る」 その繰り返しだった。 だけど彼は優しいから、時々、ご飯を食べに行ったり、デートはしてくれる。 紛らわしいと思う。 彼に好きな人がいるわけではない。 まだそれなら諦めがつく。 彼はカイル=クレシア23歳 イケメンでモテる。 私はアリア=ナターシャ20歳 普通で人には可愛い方だと言われた。 そんなある日 私が20歳になった時だった。 両親が見合い話を持ってきた。 最後の告白をしようと思った。 ダメなら見合いをすると言った。 その見合い相手に溺愛される。

すみっこ婚約破棄同盟〜王子様による婚約破棄のすみっこで〜

まりー
恋愛
   ある夜会で王子とその側近達の婚約破棄が行われた。腕に恋人をぶら下げて。所謂、王道断罪劇である。  でもこのお話の主役は麗しのヒロインでも、キラキラ王子でも、学園一の秀才や騎士団期待のホープでもない。これは王道のすみっこで行われた、弱小貴族と商人の子息たちの婚約破棄のお話である。 _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ 「もう俺ら、恋なんてしない!」と言う小学生の息子の話を参考に書きました。登場人物の男子たちの頭は小学生レベルだと思って読んでください。    

「やはり鍛えることは、大切だな」

イチイ アキラ
恋愛
「こんなブスと結婚なんていやだ!」  その日、一つのお見合いがあった。  ヤロール伯爵家の三男、ライアンと。  クラレンス辺境伯家の跡取り娘、リューゼットの。  そして互いに挨拶を交わすその場にて。  ライアンが開幕早々、ぶちかましたのであった。  けれども……――。 「そうか。私も貴様のような生っ白くてか弱そうな、女みたいな顔の屑はごめんだ。気が合うな」

婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜

夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」 婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。 彼女は涙を見せず、静かに笑った。 ──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。 「そなたに、我が祝福を授けよう」 神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。 だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。 ──そして半年後。 隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、 ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。 「……この命、お前に捧げよう」 「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」 かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。 ──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、 “氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。

刺繍妻

拓海のり
恋愛
男爵令嬢メアリーは魔力も無くて、十五歳で寄り親の侯爵家に侍女見習いとして奉公に上がった。二十歳まで務めた後、同じ寄り子の子爵家に嫁に行ったが。九千字ぐらいのお話です。

悪役令嬢は激怒した

松本雀
恋愛
悪役令嬢は激怒した。 必ず、かの厚顔無恥な簒奪者を排除せねばならぬと決意した。 ローザリンデ・フォン・シュヴァルツェンベルクには、政治のことはわからぬ。流行のドレスにも疎い。けれど悪には人一倍敏感であった。なにせ、自分が悪役令嬢だったからである。 ◇ 悪役令嬢ローザリンデは、王太子に断罪され辺境に追放された。 だが薬草園を耕す日々は存外悪くなく、「悪役令嬢時代より充実してるわ」と満足していた——はずだった。 ある日、社交界に新たな悪役令嬢が君臨し、自分が「先代」呼ばわりされていると知り大激怒。悪役令嬢の座を賭けて王都に殴り込む。 完璧な縦ロール、完璧な高笑い、完璧な紅茶のかけ方。何もかもが洗練された現役悪役令嬢クラリッサを相手に、高笑い対決、ドレスの威圧感対決、嫌味対決と、誰も得をしない真剣勝負が幕を開ける。 力押しの元悪役令嬢と技巧派の現役悪役令嬢。戦いの果てに二人が見つけるものとは……?

【完結】帳簿係の地味令嬢、商会の不正を見抜いて王宮に見出されました。

夏灯みかん
恋愛
王都の商工会議所で働く、地味な帳簿係エミリー。 真面目に記録をつけることだけが取り柄の彼女は、同僚から軽く扱われ、雑用を押しつけられる日々を送っていた。 そんなある日――エミリーは、孤児院への配給物資の記録に、わずかな“ズレ”があることに気づく。 数量は合っている。 だが、なぜか中身の重量だけが減っている。 違和感を覚えたエミリーは、自ら倉庫へ足を運び、現物を確認する。 そこで見つけたのは、帳簿では見えない“静かな不正”だった。 しかしその矢先――不正の責任を押しつけられ、職場から追い出されそうになってしまう。 それでもエミリーは諦めない。ただ一つ、自分が積み上げてきた“記録”を信じて。 「では、正式な監査をお願いいたします」 やがてその記録は、王宮の政務監査官リオンの目に留まり―― 隠されていた不正はすべて暴かれる。 そして、彼女を軽んじていた者たちは、その代償を支払うことになる。 これは、地味で目立たなかった一人の帳簿係が、 “正しく記録した”ことで不正を暴き、王宮に見出されるまでの物語。