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三章
12.好きなタイプ
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「好みは人それぞれですし、それに好きなタイプと実際好きになる人って案外違ったりするじゃないですか!」
「本当に?」
「本当本当。憧れと現実は別枠ですし、ちょっとしたところにときめいたらその人しか見えなくなったりするものです」
実際のところどうなのかは知らないけど、と付け足しそうになった言葉をグッとこらえる。それに一般論がどうあれ、リガロが気にしている女性が彼を見てくれれば問題ない訳だ。言い換えれば多くの女性がそうであっても特定の誰かが当てはまらなければ意味をなさない。ヒロインの性格はざっくりと把握しているとはいえ、この世界で会話をしたこともないイーディスが彼女の好みなど分かるはずがない。どのルートに入るつもりかの確認も取っていない。そういえば当たり前のように婚約が解消される想定だったけど、彼女が別キャラのルートに入ったらこのまま結婚するんだよぁとぼんやりと思う。気が早すぎるとは思うが、今のフライド家側はイーディスをリガロの妻として迎えようとしてくれている。案外、卒業後には彼の弟がデザインしたウェディングドレスを着ているかもしれない。もしもの未来を想像しそうになったイーディスは軽く頭を振る。そんなことよりも今はリガロ復活が第一だ。
「トキメキ……」
「そう、トキメキ! トキメキは大事です。男の人に安心感を求める人もいますけど、それは振り向かせた後! まず心の片隅にでも居座らなければ意味がありません!」
ーーと、この前に読んだ恋愛小説に書いてあった。友人からの言葉にヒーローは鼓舞され、ヒロインとの距離を縮めることになる。だから的外れなアドバイスにはなっていない……はずだ。実際、リガロの表情は少しずつだが明るいものへと変わってきている。
「心の片隅くらいにはいるはず……」
小声で繰り返しているのでよく聞こえないが、自信が取り戻せているのは確かなようだ。普通の女性なら婚約者の前で恋愛計画立てるんじゃないと気を悪くする所なのだろうが、イーディスはとりあえず面倒事を切り抜けられたらしいことにホッと息を吐く。
「ご飯食べません?」
「食べる!」
元気よく返事した彼にサンドイッチを手渡せば、満面の笑みで口いっぱいにそれらを頬張った。何も一気に食べることはないだろうに……。お腹でも減っていたのだろうか。とりあえずバッカスの名前は今後なるべく出さない方向で行こう。彼も巻き込まれたくないだろうし……。イーディスはサンドイッチをかじりながら、上機嫌の婚約者を眺めるのだった。
「こちらの青い布はいかがでしょうか」
二カ月後には控えた夜会は王家主催のもの。スチュワート王子の入学もあり、例年よりも開催期間は後ろ倒しになっている代わりに招待客は幅広い。普段は上級貴族しかお声がかからないのだが、今回は下級貴族にもお声がかかっている。学園に在学中の貴族には下級貴族も多いからだろう。理由はともかく、イーディスにも招待状が贈られていた。王家からの招待は断ることは出来ない。リガロも会場までのエスコートくらいはしてくれるだろう。ゲームでもエスコート自体はしていたようだ。……ヒロインを見つけた後くらいに放置されたような描写はあったが。あの夜会は一つのイベントとなっており、ヒロインはその時点で一番好感度の高い男性キャラのイメージカラーのドレスを身にまとう。リガロルートなら青だ。海みたいな深い色。ちょうど今、針子がイーディスの前で広げているような色だ。
「綺麗ね。これにしましょうか」
「お嬢様!!」
メイドは目を輝かせ、喜んでいる。リガロの色を選んだことがよほど嬉しかったのだろう。イーディスの気が変わらないように針子に布を押しつけている。「装飾品はどちらにしましょうか!」と鼻息を荒くする彼女にほんの少しだけ申し訳なさを感じる。イーディスが抱いている気持ちは恋情などではなく、ただの対抗心のようなもの。結婚式どうのこうのを鵜呑みにした訳ではなく、本来それはイーディスが着るべき色だと主張したいだけ。メイドがノリノリなのをいいことに令嬢の武装服のデザインを決めていく。シンプルで機能的な服を好むイーディスとはかけ離れたような装飾が散りばめられたドレス。レースは下品にならないように、けれど大胆にデザインの上に追加されていく。ドレスと同系色の色の刺繍も入れましょうと提案したのは針子と共にいたデザイナーだった。こちらは裾や袖、襟などに入れようと。また細かいパールが散りばめて全体的に海のようなドレスにしようとメイドは話を進めていく。
一体いくらかけるつもりなのか。元々王家の夜会というだけあって予算は多めに確保してあるのだろうが、一回こっきりの服には少し勿体ないと思ってしまう。レースは着脱可能にしてもらって、普段着として使えるようにならないかと考えるイーディスは貴族に向いていないのかもしれない。けれど仕上がっていくデザインは派手なのにイーディス好みで、夜会が終わったらリメイクをオーダーするくらいは許されるかもしれないと思ってしまうのだ。
「本当に?」
「本当本当。憧れと現実は別枠ですし、ちょっとしたところにときめいたらその人しか見えなくなったりするものです」
実際のところどうなのかは知らないけど、と付け足しそうになった言葉をグッとこらえる。それに一般論がどうあれ、リガロが気にしている女性が彼を見てくれれば問題ない訳だ。言い換えれば多くの女性がそうであっても特定の誰かが当てはまらなければ意味をなさない。ヒロインの性格はざっくりと把握しているとはいえ、この世界で会話をしたこともないイーディスが彼女の好みなど分かるはずがない。どのルートに入るつもりかの確認も取っていない。そういえば当たり前のように婚約が解消される想定だったけど、彼女が別キャラのルートに入ったらこのまま結婚するんだよぁとぼんやりと思う。気が早すぎるとは思うが、今のフライド家側はイーディスをリガロの妻として迎えようとしてくれている。案外、卒業後には彼の弟がデザインしたウェディングドレスを着ているかもしれない。もしもの未来を想像しそうになったイーディスは軽く頭を振る。そんなことよりも今はリガロ復活が第一だ。
「トキメキ……」
「そう、トキメキ! トキメキは大事です。男の人に安心感を求める人もいますけど、それは振り向かせた後! まず心の片隅にでも居座らなければ意味がありません!」
ーーと、この前に読んだ恋愛小説に書いてあった。友人からの言葉にヒーローは鼓舞され、ヒロインとの距離を縮めることになる。だから的外れなアドバイスにはなっていない……はずだ。実際、リガロの表情は少しずつだが明るいものへと変わってきている。
「心の片隅くらいにはいるはず……」
小声で繰り返しているのでよく聞こえないが、自信が取り戻せているのは確かなようだ。普通の女性なら婚約者の前で恋愛計画立てるんじゃないと気を悪くする所なのだろうが、イーディスはとりあえず面倒事を切り抜けられたらしいことにホッと息を吐く。
「ご飯食べません?」
「食べる!」
元気よく返事した彼にサンドイッチを手渡せば、満面の笑みで口いっぱいにそれらを頬張った。何も一気に食べることはないだろうに……。お腹でも減っていたのだろうか。とりあえずバッカスの名前は今後なるべく出さない方向で行こう。彼も巻き込まれたくないだろうし……。イーディスはサンドイッチをかじりながら、上機嫌の婚約者を眺めるのだった。
「こちらの青い布はいかがでしょうか」
二カ月後には控えた夜会は王家主催のもの。スチュワート王子の入学もあり、例年よりも開催期間は後ろ倒しになっている代わりに招待客は幅広い。普段は上級貴族しかお声がかからないのだが、今回は下級貴族にもお声がかかっている。学園に在学中の貴族には下級貴族も多いからだろう。理由はともかく、イーディスにも招待状が贈られていた。王家からの招待は断ることは出来ない。リガロも会場までのエスコートくらいはしてくれるだろう。ゲームでもエスコート自体はしていたようだ。……ヒロインを見つけた後くらいに放置されたような描写はあったが。あの夜会は一つのイベントとなっており、ヒロインはその時点で一番好感度の高い男性キャラのイメージカラーのドレスを身にまとう。リガロルートなら青だ。海みたいな深い色。ちょうど今、針子がイーディスの前で広げているような色だ。
「綺麗ね。これにしましょうか」
「お嬢様!!」
メイドは目を輝かせ、喜んでいる。リガロの色を選んだことがよほど嬉しかったのだろう。イーディスの気が変わらないように針子に布を押しつけている。「装飾品はどちらにしましょうか!」と鼻息を荒くする彼女にほんの少しだけ申し訳なさを感じる。イーディスが抱いている気持ちは恋情などではなく、ただの対抗心のようなもの。結婚式どうのこうのを鵜呑みにした訳ではなく、本来それはイーディスが着るべき色だと主張したいだけ。メイドがノリノリなのをいいことに令嬢の武装服のデザインを決めていく。シンプルで機能的な服を好むイーディスとはかけ離れたような装飾が散りばめられたドレス。レースは下品にならないように、けれど大胆にデザインの上に追加されていく。ドレスと同系色の色の刺繍も入れましょうと提案したのは針子と共にいたデザイナーだった。こちらは裾や袖、襟などに入れようと。また細かいパールが散りばめて全体的に海のようなドレスにしようとメイドは話を進めていく。
一体いくらかけるつもりなのか。元々王家の夜会というだけあって予算は多めに確保してあるのだろうが、一回こっきりの服には少し勿体ないと思ってしまう。レースは着脱可能にしてもらって、普段着として使えるようにならないかと考えるイーディスは貴族に向いていないのかもしれない。けれど仕上がっていくデザインは派手なのにイーディス好みで、夜会が終わったらリメイクをオーダーするくらいは許されるかもしれないと思ってしまうのだ。
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