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六章
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キャラバンが店を開いている小屋まで行き、真っ先にレターセットを探した。家族用と友人用、そしてあちらの世界のキースに送る用である。バッカスは「そんなに買わなくても……」と呆れた様子ではあったものの、最終的には家族への贈り物を一緒に選んでくれた。
母には髪留めを、父にはハンカチを。
どちらも値段の高いものではないが、二人に似合うものを選んだ。
それからお菓子作りの材料と文房具一式、屋敷に置いておく用の茶葉をいくつか。そして過去一ヶ月分の新聞、雑誌とスクラップブックをそれぞれ数冊買った。手持ちの金額から仕送り金を差し引くと、お金はほとんど残らない。けれどどれもイーディスには必要なものだった。カルドレッドはいいところではあるが、隔離されているため情報が一切入ってこないのだ。あちらの世界との違いを知りたくなってバッカスに聞いても「気にしなくて良い」と流されるばかり。他の職員達も似たような反応だった。ならば自分で集めるしかない。すぐに空白の十年間を埋めることは難しいが、それでも戻ってきてからのことは知っておきたかったのだ。
買い物を終えたイーディスはアンクレットに屋敷まで送ってもらい、手紙を書いた。
家族への仕送り金とプレゼントと手紙を一つの箱にまとめ、申請書を提出する。またそれとは別に友人にも手紙を出した。
マリアには手紙の返事と、こちらに来る日を楽しみにしている旨を。
ローザには遅くなったがカルドレッドに来る際にいろいろと準備や手回しをしてくれたお礼を。
受付で手続きを済ませてからは食事を摂り、アンクレットや他の研究員と共に能力の調査を行う。どこまでを物質の一部として認識し、発現させられるかを調べるのだ。ちょこちょこと休憩を取りつつ、能力を使っては消費魔量の確認を取る。しばらくはこの調査を重点的に行っていくらしい。
早めの夕食を摂り、お風呂に入ったイーディスは屋敷へ戻った。
らせん階段を上って真ん前にある部屋はアンクレットが帰ってから追加で作った。フランシカ家の自室とギルバート家の自室を繋げて作ったイーディスの寝室である。さすがにそのままくっつけるということは出来ず、ちょこちょこと配置を弄ったが、置かれた家具はそのまま。二つのベッドはピタリとくっつけて特大サイズになっているし、本棚も大量にある。だがイーディスの日常とお気に入りの詰まった大好きな部屋だ。
イーディスはベッドの上でゴロゴロと転がり、真ん中辺りでピタリと止まる。そして手に持った雑誌を開く。昨日、キャラバンで買った雑誌だ。情報誌や女性誌、ゴシップ誌の三種類。その中から適当に一冊選び、他のものは魔道書の横に並べた。
表紙もろくに確認せずにペラペラと捲りながら、気になったところに付箋をペタペタ貼り付けておく。後日、雑誌と一緒に買ったスクラップブックを使ってお手製ノートを作ろうというのだ。スクラップブックを何冊も購入したのは、大きな事件や重要情報などの記事を集めたものの他にも、その時流行していたものもまとめておきたかったから。
もちろん記事を切り取った後も保管しておくつもりだ。大量に付箋を張りながら、二冊買っておいた方が良かったかもなんて考えた時だった。とある記事が目にとまった。
『剣聖 リガロ=フライド特集』
まるまる六ページも確保してある記事は、リガロの活躍から始まり、インタビューまで載っている。写真に写るリガロはかつての彼ともあちらの世界で会った彼とも違う。曲がることなく真っ直ぐと伸びた視線は力強く男らしい。思わず息を飲んでしまうほど格好よかった。他のページは眺めていただけのイーディスだったが、この特集だけは一つ一つの情報を拾い上げるようにゆっくりと文字を追っていく。
「近衛兵の服も似合うな~」
「やっぱり朝早いのね」
「砂浜が一番落ち着けるんだ」
「今はあの剣、お守りになってるんだ。そうだよね、もう小さいもんね」
インタビューの答えを読みながら一人ごとをブツブツと呟く。端から見たら奇妙な光景だろう。だがこの屋敷にはイーディスしかいない。ふふふと笑いを溢しても誰も気にはしないのだ。
次々と質問は続いていき、最後のページには「身分に差のある恋人がいるとの噂がありますが」との質問があった。この質問の少し前に触れてあったが、リガロには妻も婚約者もいない状態らしい。だからこそこんな質問が出るのだろう。『恋人』の文字を見てドキリとした。けれどそのすぐ下に「恋人はいません。今後作るつもりもありません」との答えを見て、胸をなで下ろした。そんな自分がイヤになる。彼の幸せを祈らなきゃいけないのに、叶わぬ想いばかりが募っていく。
そもそもこんな噂が立つのは、剣聖の子を欲する人が多いから。通常ならば五年も待たずにイーディスとの婚約を破棄して次の令嬢を探すべきだった。リガロが律儀に待っていてくれたとしても、イーディスの死亡届が出されたのならばその時点で他の女性をあてがうのが普通だ。イーディスには子どもが出来なかったら養子を取ると言ってくれたリガロだが、養子を取っている様子もない。
フライド家は一体何をしているのだろうか。
眉間に皺を寄せて考えながらも、イーディスはリガロの特集ページに付箋を貼った。
母には髪留めを、父にはハンカチを。
どちらも値段の高いものではないが、二人に似合うものを選んだ。
それからお菓子作りの材料と文房具一式、屋敷に置いておく用の茶葉をいくつか。そして過去一ヶ月分の新聞、雑誌とスクラップブックをそれぞれ数冊買った。手持ちの金額から仕送り金を差し引くと、お金はほとんど残らない。けれどどれもイーディスには必要なものだった。カルドレッドはいいところではあるが、隔離されているため情報が一切入ってこないのだ。あちらの世界との違いを知りたくなってバッカスに聞いても「気にしなくて良い」と流されるばかり。他の職員達も似たような反応だった。ならば自分で集めるしかない。すぐに空白の十年間を埋めることは難しいが、それでも戻ってきてからのことは知っておきたかったのだ。
買い物を終えたイーディスはアンクレットに屋敷まで送ってもらい、手紙を書いた。
家族への仕送り金とプレゼントと手紙を一つの箱にまとめ、申請書を提出する。またそれとは別に友人にも手紙を出した。
マリアには手紙の返事と、こちらに来る日を楽しみにしている旨を。
ローザには遅くなったがカルドレッドに来る際にいろいろと準備や手回しをしてくれたお礼を。
受付で手続きを済ませてからは食事を摂り、アンクレットや他の研究員と共に能力の調査を行う。どこまでを物質の一部として認識し、発現させられるかを調べるのだ。ちょこちょこと休憩を取りつつ、能力を使っては消費魔量の確認を取る。しばらくはこの調査を重点的に行っていくらしい。
早めの夕食を摂り、お風呂に入ったイーディスは屋敷へ戻った。
らせん階段を上って真ん前にある部屋はアンクレットが帰ってから追加で作った。フランシカ家の自室とギルバート家の自室を繋げて作ったイーディスの寝室である。さすがにそのままくっつけるということは出来ず、ちょこちょこと配置を弄ったが、置かれた家具はそのまま。二つのベッドはピタリとくっつけて特大サイズになっているし、本棚も大量にある。だがイーディスの日常とお気に入りの詰まった大好きな部屋だ。
イーディスはベッドの上でゴロゴロと転がり、真ん中辺りでピタリと止まる。そして手に持った雑誌を開く。昨日、キャラバンで買った雑誌だ。情報誌や女性誌、ゴシップ誌の三種類。その中から適当に一冊選び、他のものは魔道書の横に並べた。
表紙もろくに確認せずにペラペラと捲りながら、気になったところに付箋をペタペタ貼り付けておく。後日、雑誌と一緒に買ったスクラップブックを使ってお手製ノートを作ろうというのだ。スクラップブックを何冊も購入したのは、大きな事件や重要情報などの記事を集めたものの他にも、その時流行していたものもまとめておきたかったから。
もちろん記事を切り取った後も保管しておくつもりだ。大量に付箋を張りながら、二冊買っておいた方が良かったかもなんて考えた時だった。とある記事が目にとまった。
『剣聖 リガロ=フライド特集』
まるまる六ページも確保してある記事は、リガロの活躍から始まり、インタビューまで載っている。写真に写るリガロはかつての彼ともあちらの世界で会った彼とも違う。曲がることなく真っ直ぐと伸びた視線は力強く男らしい。思わず息を飲んでしまうほど格好よかった。他のページは眺めていただけのイーディスだったが、この特集だけは一つ一つの情報を拾い上げるようにゆっくりと文字を追っていく。
「近衛兵の服も似合うな~」
「やっぱり朝早いのね」
「砂浜が一番落ち着けるんだ」
「今はあの剣、お守りになってるんだ。そうだよね、もう小さいもんね」
インタビューの答えを読みながら一人ごとをブツブツと呟く。端から見たら奇妙な光景だろう。だがこの屋敷にはイーディスしかいない。ふふふと笑いを溢しても誰も気にはしないのだ。
次々と質問は続いていき、最後のページには「身分に差のある恋人がいるとの噂がありますが」との質問があった。この質問の少し前に触れてあったが、リガロには妻も婚約者もいない状態らしい。だからこそこんな質問が出るのだろう。『恋人』の文字を見てドキリとした。けれどそのすぐ下に「恋人はいません。今後作るつもりもありません」との答えを見て、胸をなで下ろした。そんな自分がイヤになる。彼の幸せを祈らなきゃいけないのに、叶わぬ想いばかりが募っていく。
そもそもこんな噂が立つのは、剣聖の子を欲する人が多いから。通常ならば五年も待たずにイーディスとの婚約を破棄して次の令嬢を探すべきだった。リガロが律儀に待っていてくれたとしても、イーディスの死亡届が出されたのならばその時点で他の女性をあてがうのが普通だ。イーディスには子どもが出来なかったら養子を取ると言ってくれたリガロだが、養子を取っている様子もない。
フライド家は一体何をしているのだろうか。
眉間に皺を寄せて考えながらも、イーディスはリガロの特集ページに付箋を貼った。
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