姉弟で入れ替わって十一年、今日も私たちは元気です

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10.ガルドベーラの至宝

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 とはいえ、クアラ殿の性別云々以前に彼が王になることを望むとは限らない。

 それに王に迎えるとしてもまずは国民に彼の実力を周知させる必要がある。



 なぜか初回以降、全力を出さなくなってしまった彼の実力を示す場所として学園はちょうどいい舞台だった。



 だが彼は来なかった。

 身体の弱い姉から離れたくないからではないかと専らの噂である。



 確かに彼ほどの実力者ともなれば、大切な者を代わりに任すような相手などそうそう見つからないだろう。俺が守ると言えれば良かったのだが、先にクアラ殿に同じようなことを申し入れたビルドは断られたという。



 ビルドの実力で断られたともなれば、俺もまだまだということだろう。

 グッと堪え、二年と少し――やっと彼の力になれる機会が来た。ここで実力を示せれば、侍ることを許してくれるかもしれない。そう思ったのに……。



 俺の実力はまだ試すに値しないということなのだろう。

 だがこればかりのことで諦めるつもりはない。

 俺は王座以外だって彼の望むものならなんだって、この身であろうとも差し出す覚悟である。



 強者に仕えることこそが王族の血を引く者の、我らが至上の喜びなのだから。

 例え、相手がそれを望まずとも。



「それで、アイゼンはどうしたんだ? まさかそのまま帰したんじゃないだろうな」

「俺は鍛錬をするから、あなたはケーキを食べていってくれと伝えた」

「そういえば彼女なら日を改めるとでも言うだろうし、下手に対応して変なこと言うよりはマシだな」

「ところが彼女は俺と話をしにきたと食い下がった」

「冗談だろう?」

「俺も一瞬そう思ったが、俺が汗を流している間も客間でケーキを食べていた。使用人の話によると一度帰ると申し出たそうだが、主人が来るまで待ってくれと言ったらあっさりと引き下がったらしい」

「……それはもう、別人じゃないか? 」



 俺もそう思った。

 だがガルドベーラの至宝と呼ばれる双子と同じ顔を持つ者がもう一人いるとは考えられない。



 もし実在するとしてもどうやって人目をかいくぐってきたというのか。

 バルバトル家お抱えの護衛集団なら化粧などで誤魔化せなくもないが、彼らなら見た目だけコピーするなんて半端な真似はしない。



 また気になることは彼女の発言だけではない。

 屋敷を去る彼女を見送った際、少し歩き方がぎこちないように見えた。

 ただしこちらは後日、キャサリン嬢が足を負傷していたという話を耳にしたのでそのためだと思われるが。



「とりあえず汗を流し終えてから客間に向かった。話しに来たというから何を話すかと思えば、普段は屋敷で鍛錬しているのかと聞く。彼女がそんな話をしたからだろうな。柄にもなくプロポーズまがいのことをして、あっさりと振られた」

「は?」

「悪くない話だと思ったんだがな」

「ちょっと待て」

「なんだ?」

「今、キャサリン嬢にプロポーズしたって言ったのか?」

「断られたがな」

「一年前に勧めた時は人形みたいで嫌だとあれほど拒絶したアイゼンが? そうでなくともこの十一年間、どんな女性どころかクアラ殿以外にほとんど興味を持たなかったのに? たった一度、彼女らしくない面を見て惹かれたと?」

「ああ」

「嘘だろ……」



 常に相手が何を欲しているのかを見抜き、自分にとっての最適解を導き出すキャサリン嬢が人間らしさを出すのはクアラ殿たち家族だけ。



 デビュタントの日、クアラ殿とライド殿の傍をひと時も離れなかったのが良い証拠だ。

 あの日のキャサリン嬢の表情は心底安心しているように見えた。



 あの日の彼女を見た令息たちがこぞって彼女を欲しがるのは、自分も彼女の特別になりたいからだろう。今はまだ参戦していない令嬢達も、同性婚の法案が通れば手を上げ始めることだろう。



 だから妻として迎えるのなら早く動けと――アッシュを含め、親戚たちの主張は最もである。それを拒否したのは他でもない俺だ。



 俺から見ればキャサリン嬢はクアラ殿によく似た人形でしかない。これからもその考えを変えるつもりはなかったのだが、不思議とあの日の彼女に強く惹かれた。



 もちろんクアラ殿を騎士団に迎え入れたいというのも本当だ。

 だが同時に彼女もまた手元に置いておきたいと思った。長年クアラ殿を欲しすぎたせいだろうか。



 顔が似ていても、キャサリン嬢とクアラ殿は全くの別人だというのに……。

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