姉弟で入れ替わって十一年、今日も私たちは元気です

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52.強さとガッツ

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 周りがハラハラと見守る中で、クアラは涼しい表情だ。

「彼女もDブロックだな。二人とも勝ち進めば三回戦で当たる」
「それは楽しみだね」
 剣を撫でながらそう告げたクアラは、一、二回戦と危なげなく勝ち進み、三回戦でマルカと剣を交えることとなった。


「……嘘、だろ?」
「よく知りもしない相手を舐めてかかるのはよくないよ。だけど一番の敗因は一回戦、二回戦と見る機会があったのに見極めようともしなかったことかな」
 彼女もなかなかの腕前だったが、アイゼン様と何度も勝敗を競うクアラとでは格が違った。瞬きする間もなく、決着がついてしまうほどに。

「くそおおおおおお」
 言葉通り、手も足も出なかったマルカは地面をドンドンと叩いて悔しがる。クアラはそんな彼女に冷たい目で見下ろした。

「良かったじゃない、実践じゃなくて」
 待機場まではかなりの距離があるのに、クアラの発した冷気はこちらまで伝わってくる。クアラがこうも家の外で感情を露わにすることはとても珍しい。冷静に見えてかなり頭に来ていたのだろう。

「……悪かった」
「何が?」
「お姫様なんて言って侮って悪かったよ!  あんたが強いってことも認める。あんたの言う通り、あれが実践だったら私はこうして立っていない」
「そう、気づけて良かったね」
「なんだよ澄ました顔しやがって!  ほんとムカつく!  今度は絶対倒してやるからな!」
「今度があったらね」
「首洗って待ってろよおおおお」

 マルカは叫びながら退場していくとそのまま待機場に戻ってくることはなかった。クアラは盛大に悔しがる姿を見て怒りが収まったようで「ああいうタイプは叩けば叩くほど伸びるけど、叩かれないと鼻だけ伸びるから早めに叩くに限るね」と優雅に紅茶を啜っていた。


 そのまま私もクアラも勝ち残っていき、全てのブロックで4位までが確定した。
 毎年大会ベスト16が揃った時点で待機場を移ることになっているのだが、その名前の中にまさかの人物があった。

「ライドが残ってる!」
「そんなに驚くこと?  ライドは別に弱くないよ?」
「でも今まで三回戦で終わってるし。何かこだわりあるのかなって」
「あー、今まではあんまり記録残してもなって手を抜いてたんだが、今回の大会は今まで以上に相手からの圧が強くてな。下手に手を抜いたらどうなるか……」

 なんでもライドには従兄弟だからって二人を独占しやがって、秘密を知っていたなんて恨めしい……との男性陣からの恨みがぶつけられていたらしい。
 それに加えて私がいない間に告白してきた男性陣に向かってクアラが「ライドより弱い男は無理」と言い放ったようだ。

 それで男性陣の本気にますます火がついた、と。

 勝ち上がっていくごとに話しかけられることも増えたが、私がいる時に来る人は剣術か鍛錬か魔物討伐の話しかしなかった。彼らは皆、キラキラとした瞳を向けてきたので、てっきり今回は求婚やらなんやらの類はないのかと思っていたが、そうではなかったらしい。私がいないタイミングを見計らっていただけ。全く気づかなかった。

 移動途中も多くの視線を向けられるクアラは頬を膨らませながら、ぷりぷりと怒る。

「第一、顔だけ見て内面を見ようとしないってどうなの?  結婚しないって宣言してるのに、今さら爵位だけで揺らぐほど安くないよ。せめて僕を楽しませてくれるだけの強さとガッツくらい用意しておいてくれないと……」
「それはなんとも……お疲れ様、でいいのかな?」
「まぁ初めにしっかり叩き潰しておけば数も減るだろうし、ライド、頑張ってね」
「やっぱり俺なのか……。まぁこんなに全力でかかって来られる機会なんて早々ないし、これはこれで楽しいからいいけど」

 そうこう話していると、前方からはアデル様とリラ様が駆け寄ってくる。彼女達もまたベスト16入りを果たしたらしい。

 今回、女性参加を認めるにあたって使用武器に変更があった。主に変わったのは剣の長さの下限である。
 私でも少し長いな、と感じた刀身は半分ほどのサイズまで認められることとなった。おそらく身体の小さなリラ様を基準にしたのだろう。

 それに伴って小柄な男性達も剣のサイズを調整したようだ。今まで合わないサイズを使っていたと思われる何人かは去年よりも記録を大幅に伸ばしている。

 刀身の短い剣を持つ相手と戦い慣れていない者が多いというのもあるだろうが、やはり自分の身体に合った武器で戦えるというのは大きい。
 武器が合っているか・合っていないか、それだけで実力の何割が出し切れるかが変わってくる。

 公平性を崩さぬよう、剣という枠組みから大きく外れることは難しいだろうが、来年以降もこの辺りは見直されることだろう。

 この先、多くの人が実力を出し切れるように変わっていくといいな~なんてぼんやりと考える。

 だが直後、背中にゾッとする感覚が走った。
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