このタイムスリップは強制非公開!

輝石☆彡

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第一章✧影暗盗賊

影暗盗賊

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あれから季節は巡り...


 一年の月日が流れた――――


「ちょっとぉお―――っっ!!!!」

ドタバタと軋む廊下を走る音が屋敷中に響き渡る。

バタンッッ

ミールは叩き壊すように、障子を開けた。

「ちょっとっ!!!一体どうなってんのよっ!!!
ちゃんと説明なさいよっっ!」

部屋に入って早々に、ミールはその甲高い声で怒鳴り散らした。

「やれやれ...ミール、また君か」

部屋の中から、ミールが来ることを予知していたような声が聞こえた。

「またって何よっ!!!
説明次第では、ただじゃ済まされないわよっ!」

ミールは畳みの上を土足で上がり込む。

「ミール...畳みが汚れる..」

「汚れたって構やしないわ!
どうせ盗んだ屋敷なんだから!!
またすぐに出て行くんだしっ!」

ミールの図太い態度に、賊長は溜め息をつく。

「はぁ...少しは、おしとやかになれんもんかねぇ..」

「いちいち、うるさいわよ!」

ミールはわざとに、右足の汚れた靴を畳に擦りつける。
そして、興奮のあまり握り潰してクシャクシャになった一枚の紙を、破れてしまう程の力で広げ、賊長に叩きつけた。

バシッッ...

「このミールが突撃防護班ってどういうことっ!!!!
私は防衛側にまわるなんてまっぴらよ!
冗談じゃないわ!!!
理由を説明してみなさいよ!!!!」

賊長はあぐらをかいて座ったまま、ミールの口から勢い良く飛ぶ唾で顔を汚す。

「....」

賊長は唾のかかった顔を手で拭い、呆れた顔でミールを見る。

「ミール、今回の突撃は、君のような派手な武芸手は向いてないんだよ。
出来れば、核に当たるまで潜んで侵入したい。
君の弾丸術では、すぐに敵に気付かれてしまうだろ。
意気込みはいいが、全体の動きを考えてみてほしい」

賊長はクシャクシャになった紙―――戦闘配置表をきれいにシワのばしをした。

「なっ....!!!!」

ミールは言い返す言葉が見つからず、悔しそうに顔を歪め、その場にあった花瓶を蹴っ飛ばし、部屋を後にした。

パリン...

花瓶が割れ、水が畳を濡らす。

「はぁ...困ったもんだ」

「ありえないっ!ありえないわよ!!!」

..ドスッ..ドスッ..ドスッ..ドスッ

ミールは誰が見ても解りやすいくらい『苛立ちを隠せません』という歩き方、足音をたてて廊下を歩いた。

「よっ!イライラ・ミール」

「誰がイライラ・ミールよっ!!!!」

ミールは声がする方を睨みつけた。

「ほら、イライラしてんじゃん♪」

睨んだ矛先には、ミールとは真逆のニタニタと笑う男の姿が。
背丈はミールとほとんど変わらないが、服では隠しきれない筋肉質である。

「アコスって、夏の蚊みたいにしつこくてうざいわね!」

「おいおい、俺様は今度の任務では、強攻突撃班っていう大役を与えられた、すごーい人なんだそぉ~!」

アコスは偉そうに腕組みをし、ミールの隣を歩く。
ミールはピタッと立ち止まり、鼻息を荒くする。

「なによ!!!!アンタなんか足手まといになるだけよっ!」

廊下から見える庭先から、ミールの声を聞き付け割腹の良い女が一人走ってきた。

「ミール!あなた、少しは言葉を慎みなさいよ」

ミールは女を睨み返し、廊下の上から見下ろす。

「もう!アンタもいちいちうるさいのよ!
少しはそのタルんだ身を何とかしたらどうなのよ!
みっともないったら、ありゃしない!」

「まぁ失礼な..」

女は丸い顔を、余計に膨らませて怒る。

「あ....別に俺はいいんだよ!
ミールの悔しがる顔が見たくて言っただけだし」

アコスが女にフォローを入れる。が、女は聞いてない。

「ミール、あなたねー、偉そうな態度だけはご立派だけど、朝の訓練にも出なければ、日頃の妖魔狩りだって参加しないじゃないの」

ミールは「フンッ」と声をつけて顔を反らす。

「そんなんで、任務は突撃班がいいなんて甘いのよ。
あなたなんかに重大な突撃班は任せられないわ。
これはみんなが思ってることよ」

「みんなって誰よ!名を言ってみなさいな!
デタラメ言ったら許さないわよっ!!!」

ミールのただならぬ怒りに、女はお手上げでそそくさと離れていった。

「あぁーあ、ミール、また嫌われたな」

アコスが笑いながら言う。

「あんなデブ女、今回の任務でどうせ死ぬわよ。
どう思われようが時間の問題だわ」

「まぁ..確かに」

アコスはまたニタニタと笑いを浮かべた。
ミールは生まれた時から影暗盗賊団の一員だ。
今は亡き父も母も同じ盗賊団で、小さな頃から大人に紛れ、知らぬうちに武術を身につけていた。

しかし、アコスは真逆だった。

10才の時に影暗盗賊に村を襲われ、殺されるハズが少女と見間違えられ捕らえたれたのだ。
後で気付かれ、殺されそうになったが、地をはいつくばり、団に入れて欲しいと命請いをして入団した。
それからは必死で身体を鍛え、術を学び、決して平坦な道のりではなかった。

そんな対照的なふたりがこうして話すようになったのは、アコスが任務の一員として働けるようになってからである。

「私は絶対、今回の突撃班には入るから!」

「はいよ~♪」

「だけどさぁー
なんでそんなにムキになってんだぁ?
任務なんて全っっっく興味ないクセによぉー」

アコスがミールの顔をチラチラと見る。

「そうね、私が任務に参加するのは三年ぶりかしら。
毎回、断固拒否してたしね」

ふたりは足並み揃えて、広い道場に入っていく。
そこには団の強者達が集まり、
――――つまり、今回の任務遂行者が集まり、雑談をしていた。
床に座って語り合っている者もいれば、体を動かし準備体操などしている者もいる。

「う~ん、ミールの心境の変化がわかんねぇー」

「今にわかるわよ」

ミールは偉そうにフンッと鼻を鳴らした。
ふたりが道場に入ってまもなくすると、賊長と、その他諸々の上の身分を持った者達が現れた。

道場内がシンと静まる。
まずは1番最年長の元・賊長が話す。

「諸君。
各々、話は聞いていると思うが、今回の任務は非常に困難になることを覚悟しておいてほしい」

その場の全員が表情を固くする。

「以前の『天狗狭間の鬼笛奪取』の任務よりも過酷になると考えられる」

『天狗狭間の鬼笛奪取』とは影暗盗賊団の、過去最悪な任務だった。
遂行者80名に対し、死者が60名という、団に大ダメージを与えた壮絶なる闘いであった。

....今回はそれよりも、過酷になると言う元・賊長。
皆は息を呑む。
次に元・賊長の隣にいた者が、声を張り上げた。

「突撃班10名、攻防班60名、防護班30名、総勢100名」

ミールはキッと目を細めて不機嫌になる。

「今回の任務名『伏魔殿潜伏』」

任務名に辺りが少しざわめく。

ガヤガヤガヤ...

「..潜伏って、城に潜入するだけかぁ?」

アコスがミールに耳打ちをする。

「黙って聞いてなさいよ」

ミールの冷たい言葉に、アコスは口を尖らせる。

「ちぇっ...めちゃくちゃ機嫌わりぃーの」

ガヤガヤガヤ...

「静かに」

賊長が口を開いた。

「今回は我々、影暗盗賊団に、
―――銀翼団とディアマのメンバーが手を組むことになった」

『なんと!あのディアマが!!!!』
『まさか、ディアマって、あのディアマかっ!!!』
『すごい!銀翼団とディアマがいれば最強だ!』

団員たちは興奮で様々に話し合う。

「皆、反対する者はいないな?」

賊長が団員たちの反応を見透かしたように言う。
誰も反対することなく、じっと黙る。

「では、客人たちを招き入れよう!
本日より任務完了まで、我々は強きチームだ!」

ガタッ..

皆の興奮が最高潮に達した瞬間だった!
道場の奥の扉が開き、銀翼団とディアマの代表者が現れる。

「諸君!銀翼団の闇撫(ヤミナデ)とディアマのイルドナだ!」

『......』
『.....』
『........』

道場の興奮が一気に冷めた瞬間だった。




任務任命会議は終わり、
影暗盗賊団員たちは、日々の日課である妖魔狩りに飛び立った。

アコスはいつもの仲良しグループ三人で、今日ばかりは妖魔狩りをサボり、屋敷の裏山で集まりヒソヒソと話していた。

「なんか拍子抜けしちまったぜ」

アコスが唾を吐く。
そして、アコスに合わせて隣の男がため息をつく。

「俺もだよ。ディアマって言うからてっきり...」

「グラベンかベルカイヌンが来るかと思ったぜっ!!
ちくしょー!!騙された!!!!」

言葉を被せ、大きな体格の男が悔しがる。

「そうだよなー!
ディアマって言ったら、グラベンかベルカイヌンだろっっ!!!!」

「本当によー。誰だよアイツ!聞いたことねーし」

口々に文句を言い合う。

「グラベンの顔拝みたかったなぁー!!!」

「俺は一度、ベルカイヌンに会ったことあるぞ!
すげぇー刺々しい妖気ぶっ放ってた!」

「まじかよっ!すげーなぁ!!」

三人は小さな輪になって話に花を咲かす。

「銀翼が50人で、ディアマが10人って言ってたよな」

「全部で160かよっ!さっすが大規模だな!」

「....ってか、『天狗狭間の鬼笛奪取』よりもすげぇー任務になるって言ってたたけど、当時のこと知ってるやつの方が少ねぇーよな」

大柄の男が頭を抱える。

「もう15年くらい前の話だろ?俺まだ影暗団にいねーし!
アコスも知らねーだろ?」

話を振られて、アコスは難しい顔をする。

「...俺もまだいなかったよ。
けど、ミールの親父とお袋が『天狗狭間』の戦いで、最前線にいて死んだらしいぜ」

三人は急に静かになる。

「ミールが、突撃班に入りたがってるのは、それと何か関係があるのかなぁ」

「いや、ないよ。
ミールはそんなこと、どうでもいいと思ってるしな」

アコスが苦笑いをする。
三人は『だよなー』と一同、口を揃える。
ミールの我が儘ぶりは有名だった。

「...おっ!やべぇ!もう日が沈むぜ!
早く戻らねぇーとバレちまう!」

三人は慌てて、屋敷に戻った。



影暗盗賊団とはおよそ200人もの人が集団となってできている。
本拠地はなく、常に移住を繰り返している。
『盗賊』というだけあって、住む場所も食べる物も着る物も全て盗み、日々の生活を成り立たせている。
闘争心のある者たちの集まりなので、日々、団員同士の殺傷も絶えない。

三人はてんでんばらばらに屋敷に戻った。

アコスが戻った頃には、辺りもすっかり暗くなり、
屋敷はたくさんの松明で明るく、賑わいをみせていた。
音楽や人の笑い声があちこちで聞こえ、晩餐会が始まっている。

その中に、見たことのない顔があった。
―――銀翼団の者たちだと、判断した。

「ホントに手を組んだんだ...」

アコスは独り言を呟いた。
銀翼団とは、何度も戦いで刀を交えたことがある。
賊長が言ったこととはいえ、こんなにすぐに銀翼団の連中と刀を交えず、酒を共にするようになるとは考えていなかった。

「おい、アコス!こっちだ!こっちへ来い!」

その場に立ち尽くすアコスに、酒を抱えた男から声がかかった。

「―――クッ..クラブさんっ!」

クラブとは、今回アコスと同じく突撃班に選ばれた中のひとりであり、アコスの兄貴的存在でもある男だ。
アコスは慌ててクラブに近寄り、席を確保した。

目の前には、見知らぬ銀翼団の者が..

「あ..どうも」

アコスは適当に頭を下げる。

「なんだアコス、緊張してんのかぁ!若いな!ガハハハハ!!」

クラブが笑い飛ばすと、目の前に座っていた銀翼団の者も声を上げて笑った。

「俺に緊張してどうする!敵は伏魔殿にいるんだぞ!ワハハハハ」

アコスは気分を悪くした。

「晩餐会に遅刻したから、遠慮気味になってるだけっす!
緊張なんかするもんか!」

「フハハハハハ!!!!」

アコスは状況の変化についていけない格好悪さに、苛立ちを感じた。

くっそーっ!銀翼団の奴らなんかに舐められてたまるかー!

「クククッ...アコス君は、他の団と手を組む経験は初めてなのかい?」

銀翼団の男がアコスを下にみるような目で語る。

「アコスは団員としか組んだことないんだよ。まだまだ新米さ」

クラブが笑顔でアコスを紹介する。

「.....」

アコスは、その場にあった酒を黙って一気に飲み干した。

「へぇー、新米なのに突撃班なのかい?
余程、腕が確かなんだね」

「まぁ見ての通り、女みてーに小さいがな。グハハハハ」
クラブがいらぬ口を叩く。

「なっ....!」

アコスはクラブの顔を睨みつける。

「いやいや、身長だとか、そんなことは関係ないよ」

銀翼団の男から思わぬ助け舟。

「だが、女に見間違えられちゃ格好つかねぇもんなー」

クラブがアコスの頭をポンポンと叩く。
アコスはその手をすぐに払いのける。

「気にすることはないよ。
ディアマのベルカイヌン・クラーザだって、実際は女のように綺麗な顔をしているしね」

「あっ....!ディアマって、そのベルカイヌンやグラベンは来るんすか!?」

アコスは食いつくように銀翼団の男を見た。

「グラベンは、ディアマのメンバー以外とは組まないと有名だよ。
それと...噂によると、ベルカイヌンは、もうここに来ているらしいよ」

「え゛ぇぇぇーっ!!!!まじっすか!」

アコスは落ち着きがなく、バタバタと興奮する。
そしてキョロキョロと辺りを見渡す。

「.......アコス君、一言、君に言わせてもらっていいかい?」

「えっ?あっ..なんすか?」

アコスは立ち膝で、周りの宴会状況を見回し、ディアマのベルカイヌンの姿を探す。

「君は突撃班に選ばれただけあって、腕は確かなのかもしれないが、その態度はいかがなものかと思うよ」

「は?」

アコスは意味がわからず、聞き返す。

「ベルカイヌンに憧れる気持ちはわかるが、
そんなフワフワした態度で、重大な突撃班は務まるのか考えものだよ。
ベルカイヌンもきっと突撃班だ。
君は戦場でも、そうやってベルカイヌンの戦いぶりをキョロキョロと見るのかい?
君には、プロ意識を感じないな」

アコスは悔しさを通り越して、唖然とした。

プロ意識――――考えたこともなかった。

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